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中国が独自に半導体産業を構築することはできるのか?


アメリカが中国への半導体関連技術の輸出規制を強化していて、中国は独自に半導体産業を構築しなければならないかもしれない状況が近づいています。しかし、半導体産業の構築はそう容易ではないことを、MicrosoftやWordPressの親会社・Automatticなどで働いた経験を持つベン・トンプソン氏が解説しています。

Chips and China – Stratechery by Ben Thompson
https://stratechery.com/2022/chips-and-china/


Intel CEO says China chip technology controls are inevitable • The Register
https://www.theregister.com/2022/10/25/intel_ceo_export_controls_oil_wells/

Engineering shortage in the U.S. frustrates chip industry - The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/technology/2022/10/23/engineer-shortage-us-chips/

TSMC battles to stay ahead as world demands ever-smaller chips | Financial Times
https://www.ft.com/content/eb80c01e-6808-4a03-a8db-3c720a4fdc8c

2022年10月7日、アメリカ商務省産業安全保障局が、主に中国を対象とした半導体関連製品の輸出管理規則を強化する暫定最終規則を公表しました。これは、中国がスパコンとAIを駆使して兵器開発や暗号解読を行うのではないかという懸念に基づいたもので、すでに中国の半導体ファウンドリ・SMICは台湾のTSMC製チップに匹敵する製品を作っているという指摘があります。

「中国がAIとスパコンを駆使して兵器開発や暗号解読を行うのではないか」という疑念でアメリカは中国への半導体輸出を取り締まっている - GIGAZINE


しかし、SMICのようなファウンドリがあるからといって、中国国内に世界の半導体産業の縮小版を生み出せるかというと、かなり困難な課題になるだろうというのがトンプソン氏の見解です。

SMICがTSMCの役割を代行したとしても、他に半導体露光装置メーカーのASML、半導体製造装置メーカーのLam ResearchやApplied Materials、東京エレクトロンなど、半導体のサプライチェーン全体を構築する必要があるためです。また、ここ10年以上にわたり、海外メーカーとのパートナーシップで得てきた恩恵も受けられなくなります。


一方で、中国には3つの大きなアドバンテージがあるとトンプソン氏は述べています。

1点目は、「新しい道を切り開くより、すでにある道をたどる方が簡単」という点。最先端の半導体を製造するために必要な極端紫外線リソグラフィ(EUV)装置はオランダの半導体露光装置メーカー・ASMLがほぼ独占していて、中国では製造しておらず輸入も制限されていますが、「EUV装置を作ることができる」ことはわかっています。

2点目は、すでに技術共有の恩恵を受けているという点。SMICはASMLの液浸露光機を用いて7nmチップの製造に成功しており、Shanghai Micro Electronics Equipment(SEEE)は独自の液浸露光機を開発しています。ただ、歩留まりには難があるとのこと。

そして3点目は、資金がいくらでも使えて、実現に向けたモチベーションも無限にあるという点だとのこと。お金は万能ではなく、単にお金をかけたからといって高速なチップが作れるわけではありません。しかし、軍事用途で用いるチップを作るためであれば、多少の歩留まりの問題には目をつぶれるというわけです。

加えてもう1つ、中国では古い技術でより基本的なチップの製造を続けているのですが、その結果、低価格チップでは世界で9%のシェアを占めているという事実があります。たとえば45nm超のチップにおいては35%超、28nm~45nmのチップにおいては30%近いシェアがあるとみられています。そして、これらのチップは業界において、いまだ全体量の半分を占めます。

もし中国がこうした半導体産業をうまく構築できた場合、台湾のメーカーであるTSMCを頼る必要がなくなるため、むしろ、標的にする動機が高まります。

トンプソン氏は、中国とアメリカとの間で争いが起きる可能性はないと見ているものの、かなり懸念の度合いは高まったと述べています。

ちなみに、アメリカのバイデン政権は半導体の製造をアジア圏に任せていることを安全保障上のリスクであると捉え、政府が多額の補助金を出して、産業の国内回帰を進めています。しかし、その実現のためにはエンジニアが不足しているとのこと。

また、TSMCも決して業界において安泰した地位にいるわけではなく、チップのさらなる小型化に取り組んでいることが報じられています。

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in ハードウェア, Posted by logc_nt

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