サイエンス

脳に電極を埋め込まなくても「思考」がリアルタイムで読めるAI技術が登場


機能的磁気共鳴画像(fMRI)という手法で脳をスキャンしAIに解析させることで、人の思考を正確に読み取ることができたとの論文が発表されました。この技術により、病気やけがで話したり体を動かしたりすることができない人のコミュニケーションを支援する技術が大きく前進すると期待されています。

Semantic reconstruction of continuous language from non-invasive brain recordings | bioRxiv
https://doi.org/10.1101/2022.09.29.509744

Researchers Report Decoding Thoughts from fMRI Data | The Scientist Magazine®
https://www.the-scientist.com/news-opinion/researchers-report-decoding-thoughts-from-fmri-data-70661

Mind-reading AI works out what you are thinking from brain scans | New Scientist
https://www.newscientist.com/article/2342509-mind-reading-ai-works-out-what-you-are-thinking-from-brain-scans/

Scientists design algorithm that 'reads' people's thoughts from brain scans | Live Science
https://www.livescience.com/algorithm-mind-reading-from-fmri

脳をスキャンして思考を読み取る技術はこれまでにも登場していますが、それらの多くは手術により頭に電極やインプラントを埋め込む必要がある侵襲的なデバイスを用いるものがほとんどでした。

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今回、テキサス大学オースティン校の神経科学者であるアレキサンダー・フート氏らの研究チームは、2022年9月29日にプレプリントサーバー・bioRxivに掲載した論文の中で、fMRIを使って非侵襲的に思考を読み取ることに成功したことを発表しました。

そもそもfMRIとは、電磁波を当てて脳の血流を測定することで脳の働きを読み取る技術です。そのため、頭に電極を埋め込む必要がない代わりに、ニューロンの信号を直接読み取るデバイスと比べるとどうしても解析に時間がかかり、リアルタイム性に欠けるという難点がありました。しかし、研究チームは対象者が考えている言葉を一語一語解読していく代わりに、機械学習を用いたAIモデルで脳の高度な思考の意味を読み取ることで、この問題を解決しました。


この技術を開発するにあたり、研究チームはまず20~30代の男性2人、女性1人の合計3人にfMRIの装置を使用した状態でオーディオドラマやポッドキャストを聴いてもらいました。そして、何回かに分けて合計16時間計測したfMRIのスキャンデータと元となった文章でトレーニングを行って、fMRIのデータから思考を解析するアルゴリズムである「デコーダー」を作りました。こうして作ったデコーダーに改めて被験者の脳のデータを読み込ませると、被験者が聞いたストーリーをかなり正確に再現することができたとのこと。

以下のうち左はデコーダーのトレーニングに使用しなかった新しい文章で、右はそれを聴いている被験者の思考をデコーダーが読み取って作った文章です。また、青色の文字は単語がぴったり一致した部分で、紫色は話の骨子を読み取れた部分、赤色は読み取りに失敗した部分を示しています。細かいところにミスはありますが、単語やフレーズを正確に再現していて要点をよく捉えていることが分かります。


研究チームは、この技術が話したり体を動かしたりできない人のコミュニケーションの支援に役立つと考えています。なぜなら、fMRI技術は非侵襲的で脳に電極を埋め込む手術を必要としないからです。もちろん、fMRIの装置は大がかりで個人が気軽に買ったり使ったりすることはできませんが、フート氏によるとfMRIより携行性に優れた機器を用いる脳磁図でも今回の技術が応用できる可能性があるとのこと。

一方で、電磁波で思考を読み取れると聞いて身構えてしまう人もいるかもしれませんが、ある人の思考データを学習して作ったデコーダーはその人の思考の解読にしか使用できず、別の人にはまったく使えませんでした。これは、事前に16時間の大がかりなトレーニングセッションに参加しなければ思考の読み取りはできないことを意味しています。

また、研究チームはスキャン中の被験者に他のことを考えたり数字を数えたりしてもらって、どれだけ読み取りが不正確になるかも調べました。その結果、動物の連想するのが、解読を妨げる上で最も効果的だったとのことです。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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