他人に親切にすることが幸福に寄与する、ただしルーチン化してはダメ
幸福感を高める行動についての研究結果から、「他人に対してささやかな親切を行うことが幸福感を高める」ことが明らかになりました。ただしこの効果は、親切な行為が日常のルーチンになっていると得られないとのことです。
Using prosocial behavior to safeguard mental health and foster emotional well-being during the COVID-19 pandemic: A registered report of a randomized trial | PLOS ONE
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0272152
How small acts of kindness can make you happier and healthier
https://theconversation.com/how-small-acts-of-kindness-can-make-you-happier-and-healthier-189556
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、これまで以上に多くの人々がメンタルヘルスに焦点を当てるきっかけとなりました。トロント大学で倫理的行動と幸福の関連について研究しているMeena Andiappan助教は、人々が幸福感を高めて不安や抑うつといった否定的な感情を減らす方法についての研究を行いました。
研究チームはアメリカとカナダで1000人以上の被験者を募集し、「1週間に3日は他人に親切なことをするグループ」「1週間に3日は自分にとって楽しいこと(ヘルスケア)をするグループ」「単に日々の行動を報告するグループ」の3グループへランダムに割り当てました。実験は3週間にわたり行われ、被験者は実験前と各週の終わりに幸福度やメンタルヘルスに関する調査に回答し、実験終了から2週間後にも再び調査に回答しました。
なお、被験者が行ったヘルスケアには「マニキュアを塗る」「好きな映画を見る」といったものが含まれ、他人への親切には「食料品店で誰かのためにドアを開ける」「慈善団体に不要品を寄付する」といったものが含まれており、いずれの被験者もシンプルかつ低コストな行動を取っていたとのこと。
実験結果を分析した結果、「親切なことをするグループ」に割り当てられた被験者のうち、日常のルーチンに含まれた行動しか取らなかった人々は幸福感に何の影響もなかったことが判明。しかし、通常のルーチンから外れて親切なことをした人々は、セルフケアに従事した人々と比較して幸福度やメンタルヘルスが大きく向上することがわかりました。さらに、実験期間中に親切な行為をしっかり続けた被験者は、不安や抑うつといった否定的な感情が減少していたと研究チームは報告しています。
研究者は以前から、他人にエネルギーを費やして親切にすると、自分自身のメンタルヘルスに好影響が及ぶことを知っていました。その理由については、「恵まれない人々に接すると自分の悩みが小さく見えるから」「他人と接して社会的関係を築くことが幸福感を増すから」「他人といると笑顔を浮かべる頻度が増えるから」「幸福に重要な『有意義な人生を送っている』という意識が強まるから」など、さまざまな仮説が提唱されています。
今回の研究からわかった「親切な行動が幸福にとってメリットを及ぼす3つの要因」は以下の通り。
◆1:ルーチンから外れた行動をすること
たとえば「隣人を病院まで連れて行く」といった日常的なルーチンではない親切は、「配偶者が料理するのを手伝う」といったルーチンに組み込まれている親切よりも、幸福度に及ぼす影響が大きいとのことです。
◆2:毎日違う親切をすること
たとえばある日は「たくさんの仕事を抱え込んだ同僚を助ける」といった親切を行い、別の日には「めいにサッカーを教える」といった親切を行うなど、日によって行動に多様性がある方が幸福度が高まると研究チームは指摘しています。
◆3:親切な行動について反応をもらうこと
親切なことをするだけでなく、それが実際にどんな風に他人の助けになったのかを教えてもらったり、実際に誰かから感謝の気持ちを伝えられたりすると、ポジティブな気持ちが増幅するとのこと。
Andiappan氏は、「幸せやメンタルヘルスを増進するためには、難しいことをしたり時間やお金をかけたりする必要はありません。見知らぬ人にドアを開けてあげたり、同僚を褒めたりと、労力やお金がいらないたった60秒の行動で十分なのです」と述べました。
なお、研究チームは進行中のフォローアップ研究で、人々の親切な行動はすべて幸福の予測因子となるのか、それとも幸福への影響は行動の種類によって違うのかを調べているとのことです。
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