再生可能エネルギーは「ほぼ100%の電力需要」を満たせるレベルにある
オーストラリアを拠点に活動する気候変動ソリューションシンクタンクのBeyond Zero Emissionsや、ニューサウスウェールズ大学、オーストラリア国立大学(ANU)などの研究者が、オーストラリアにおいてほぼ100%再生可能エネルギーを用いた電力網を構築するためのシミュレーションを行っています。このシミュレーションによると、オーストラリアでは2040年代までに「電力網で利用される電力の97%を再生可能エネルギーとする」ことが可能だそうです。しかし、オーストラリアのクリーンエネルギーに関するニュースや分析を公開しているRenew Economyは、オーストラリアにおける再生可能エネルギーの使用率はもっと高い水準を目指せるレベルにあると報じています。
A near 100 per cent renewables grid is well within reach, and with little storage | RenewEconomy
https://reneweconomy.com.au/a-near-100-per-cent-renewables-grid-is-well-within-reach-and-with-little-storage/
ANUの研究者をはじめとする研究チームが行っている再生可能エネルギーを用いた電力網構築に関するシミュレーションは、「実際の発電量・需要量に関するデータを使用する」「ほぼリアルタイムでシミュレーションを実施する」という2点が他のシミュレーションとは異なります。本シミュレーションでは電力市場の公開データをまとめるOpenNEMで公開されている電力関連データをベースに、リアルタイムで変化する電力需要をシミュレーションしているそうです。
再生可能エネルギーの基本となる風力発電・太陽光発電(個人)・太陽光発電(公共事業)が、1年間で満たすこととなる電力需要は、それぞれ全体の60%、25%、20%と想定されています。これは、過去7日間で各発電が電力需要のどの程度を満たしたかをベースに算出されています。この割合が合計で100%を超えているのは、再生可能エネルギー電力網の最適化されたモデルでは、大量の過剰発電を設けることが重要であるためです。その理由は、数カ月間にわたり電力不足が発生することを想定しておくことよりも、毎月ある程度過剰に発電を行う想定で発電計画を立て、発電の過不足に応じて発電量を見直す方がシミュレーションとしては優れているためだそうです。なお、ANUの研究チームが構築したシミュレーションでは年間18%の過剰発電が発生しています。風力発電60%、太陽光発電45%という割合は、大まかな最適化実験に基づいたものであり、風力発電は冬や夜間に平均以上の発電量を記録する傾向があるため、太陽光発電を補完するには最適だそうです。
このANUのシミュレーションをより発展させ、さらに高いレベルの再生可能エネルギーの使用率を目指し、Renew EconomyはANUのシミュレーションに既存の水力発電および電力の貯蔵を加えています。ただし、Renew Economyのシミュレーションでは、OpenNEMで公開されている水力発電関連のデータをベースに、水力発電に「発電能力は200~6000MW」「週の発電量は168GWhを超える」「年間の発電量は理想的には1万5000GWh近くで、オーストラリアの電力需要の約7.5%に相当する」といった制限を持たせています。また、水力発電については電力需要の何%を担当することになるかを設定せず、「水力発電が必要のない日には発電量を最小限に抑え、風力発電と太陽光発電の発電量が電力需要から大幅に不足する日には発電量を上げる」よう設定したと記述されています。
さらに、Renew Economyのシミュレーションでは風力・太陽光・貯蔵・水力のいずれも電力需要を満たせなかった場合を想定し、その他の発電方法を用意しています。なお、この「その他の発電」はバイオ燃料などの再生可能燃料を用いた発電が利用される可能性もあるものの、本シミュレーションでは再生可能エネルギーを利用した発電とはみなされていません。
実際の電力需要を再生可能エネルギーでどの程度満たせるかを52週間にわたりシミュレーションしたところ、最終的に電力需要の98.8%を再生可能エネルギーで満たすことが可能であることが判明しました。以下のグラフが1週間の電力需要を再生可能エネルギーでどの程度満たせるかをシミュレーションした結果をまとめたもの。
上部グラフの黒色の線が電力需要で、黄緑色のエリアが風力による発電量、黄色が太陽光による発電量、水色が水力による発電量、赤色が過剰に発電した電力を貯蔵し利用した量、茶色がその他の発電方法でまかなった電力を表しています。下部のグラフは過剰に発電された電力の貯蔵量を示しており、貯蔵電力を利用した2022年8月20日から21日にかけて貯蔵量が減少しているのは貯蔵分を電力需要に充填したためです。
Renew Economyのシミュレーションの結果、再生可能エネルギーで満たすことができた年間電力需要は98.8%でした。残りの1.2%がその他の発電によってまかなわれています。その他の発電は7月12日の夜にピークに達しており、年間の平均設備利用率はわずか4.3%でした。水力発電の需要も6.9%と非常に少ない水準で、当初の予想値であった「7.5%」、実際のオーストラリアでの水力発電の利用率である「8%」の両方を下回っています。また、風力発電と太陽光発電の合計発電量の17%が電力需要を超過して発電されており、11%が貯蔵されています。貯蔵された電力は電力需要の10%をまかなうのに利用されました。さらに、電力需要の82%が蓄電などを利用せず、風力発電と太陽光発電の2つで直接電力を供給されています。
以下のグラフは52週間(12カ月)にわたるシミュレーションにおいて、電力需要をどの発電方法が満たしたかを表すグラフ。最も多くの発電量を担っているのが風力発電(Wind)で、常に60~80%程度の電力が風力発電によりまかなわれています。次点が太陽光発電(個人:Rooftop PV)と太陽光発電(公共事業:Utility PV)で、その下に「水力(Hydro)」が続きます。
過去52週間でその他の発電方法がどの程度電力需要を満たしたのかを示したのが以下のグラフ。9月から3月下旬までのほぼ7カ月間、その他の発電方法の需要はほぼゼロでした。しかし、4月下旬から8月までのほとんどの週で、風力・太陽光・貯蔵・水力という発電方法では、1週間の電力需要を完全に満たすことができませんでした。
そのため、再生可能エネルギー以外の発電方法の必要性も明らかになっています。これはオーストラリアでは晩秋から冬にかけて、再生可能エネルギーを用いた電力網が困難な時期を迎えるということを明確に示しているとRenew Economyは指摘。実際、6月下旬から8月上旬にかけて太陽光発電の発電量は年間平均の半分ほどまで低下します。
また、冬の間は風力発電の発電量が平均を上回る傾向にありますが、風力発電の発電量が平均を大幅に下回る日が2~3日連続するというケースもあります。そのため、既存の水力発電では完全に埋め合わせることができないような電力需要が発生し、再生可能エネルギーだけでは電力需要をまかなうことが困難になるケースが往々にしてあるとRenew Economyは記しています。
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