再生可能エネルギーの推進はごく少数の誤情報によって妨げられている
地球温暖化やロシアのウクライナ侵攻が生み出した原油不足により、世界各国で「再生可能エネルギー」に対する注目度が高まっています。しかし、アメリカでは再生可能エネルギーの導入を阻む「誤情報」がまん延しているとのことで、非営利の公共ラジオネットワーク・National Public Radio(NPR)がその実態について解説しています。
Misinformation is stopping renewable energy projects : NPR
https://www.npr.org/2022/03/28/1086790531/renewable-energy-projects-wind-energy-solar-energy-climate-change-misinformation
NPRの記事冒頭で紹介されているのは、オハイオ州ヴァンガードに住むジェレミー・キットソン氏のエピソード。地元の高校で物理と化学を教えているというキットソン氏は、2016年の冬頃に近隣に新たに建造されるという風力タービンのことを話し合う会合に出席し、問題のタービンを建造しようとしている電力企業を非難するためのFacebookコミュニティ「Citizens for Clear Skies」を作成しました。
このCitizens for Clear Skiesが共有した投稿は、騒音によって先天性欠損症の馬が生まれているというポルトガルの研究や、風力タービン症候群と呼ばれる風力タービンが生み出す超低周波音が健康に与える害に関する研究、風力発電は二酸化炭素削減には一切つながらないとする研究などにくわえ、風力タービンがらみの事故に関する写真でした。アメリカのエネルギー省が行った2014年に行った調査によると、4万基の風力タービンが1年のうちに起こす事故はわずか40件とされており、キットソン氏も「こうした事故は起こりそうにないとわかっています」と語りますが、その答えに反してキットソン氏はCitizens for Clear Skiesで風力タービン関連の事故写真の共有を続けています。
NPRが今回指摘している問題は、「誤情報が再生可能プロジェクトの進退に影響を及ぼしている」という内容。再生可能エネルギーに関する誤情報を広めているのはキットソン氏のような民間人が運営しているようなFacebookグループだけでなく、「風力タービンの騒音はガンの原因になると言われている」と発言したトランプ元大統領や洋上風力発電は効果がないどころか漁業に打撃を与えているムービーを公開した化石燃料産業の後援を受けているとされるシンクタンク・テキサス公共政策財団なども挙げられますが、この問題を専門とするミネソタ大学ダルース校のジョシュ・フェルゲン氏によると、「Facebookグループの影響が特に大きい」とのこと。
フェルゲン氏が発表した論文では、前述したキットソン氏の団体ともう1つ別の団体がFacebook上で抗議運動を展開した結果、風力タービンの建造認可について担当するオハイオ州電力立地委員会が地質上の懸念と「地元の反対」があるため、風力タービンの新規建造を却下したという経緯がまとめられています。
Facebookは誤情報問題について、誤解を与えるような内容の投稿には「誤情報」というラベルを付けるという取り組みを続けていますが、実際に今回NPRが調査を行ったところ、反風力発電・反太陽光発電が投稿した気候変動否定論などには誤情報のラベルが付けられていましたが、再生可能エネルギーに関する誤解を招く投稿には誤情報のラベルが付けられていなかったとのこと。これについてFacebookの広報担当者は「シェア数が少ないため」と回答しましたが、前述のようにフェルゲン氏の「Facebookグループの影響が公共政策にも現れている」とする論文が存在するため、NPRはFacebookの責を問う論調です。
NPRによると、風力タービンの影が視界に入るとストレスを感じるという人が一定数いることについてはわかっているものの、「影が発作を引き起こす」という風説を支持する証拠は存在せず、さらに「風力タービンが近隣に建造されると物件の資産価値が20~40%も減る」という風説についても、「資産価値の減少量は主張よりもはるかに少ない」とのこと。再生可能エネルギーの需要が高まり続けているにもかかわらずその導入可否がフェイクニュースの影響を受けているという現況を、NPRは改めて問題視しています。
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