サイエンス

太陽光発電の価格が石炭火力発電とほぼ同レベルに、新たな課題とは?


太陽光発電のコストは急激に下がってきており、もはやその「価格」は太陽光発電を利用する上での障害と言えないまでになっています。中国の研究チームが新たに太陽光発電のコスト競争力を分析したところ、中国では太陽光発電が石炭火力発電と同等のコスト競争力を持つところまできていると判明しました。研究チームは、太陽光発電と蓄電システムを組み合わせることで、21世紀半ばには中国で必要とされる電力を半分近くまで補える可能性を示しています。

Combined solar power and storage as cost-competitive and grid-compatible supply for China’s future carbon-neutral electricity system | PNAS
https://www.pnas.org/content/118/42/e2103471118

China’s solar power has reached price parity with coal | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2021/10/the-shifting-economics-of-solar-power-in-china/

世界的に太陽光発電のコストが下がっていることは良いニュースですが、太陽光発電を利用する上での課題はコストだけではないのも事実。日照は時間や季節によって変化するため、その利用可否は国・地域ごとの分析が必要になります。国土が広いとされる中国の場合は太陽光発電に最適なのは北西地域ですが、人口は南東に集中しており、「太陽光発電に最適な場所」と「電力を必要とする場所」が離れていることから電力網の開発に技術的な課題が存在しました。


研究チームは上記のような課題を踏まえ、より明確に状況を把握すべく、2020年から2060年にかけて太陽光発電のパフォーマンスに影響する技術・経済・太陽資源・電力網の変化といったさまざまな要素を追跡するモデルを構築しました。このモデルは過去6年間の気象衛星データや研究時点での土地利用状況のデータを使用しており、中国各地における生産性を予測するものとなっています。

研究チームは「技術的可能性」という単語を「利用可能な場所全てで太陽光発電が行われた場合の発電量」と定義した上で、まず、2020年時点での中国における技術的可能性が100ペタワット時を下回る程度であると示しました。これは中国のエネルギー需要の13倍とのこと。そして、今後もテクノロジーが進歩していくことを踏まえた上で、2060年時点での技術的可能性を150ペタワット時だと予測。ただし、実際の土地利用にはさまざまな課題があるため、平均設備利用率は予測算出に用いられた値よりも低い17.6%になると推定されています。


次に研究チームは初期費用・維持費・資金調達といった点を考慮した上で、各地域の「太陽光発電施設にもたらされる利益」を計算。この結果、コストついては2020年時点ですでに太陽光発電が石炭火力発電と同等レベルにまでなっていると考えられています。

ただし、前述の通り中国には地理的な課題が存在するため、現実に太陽光発電を利用するには蓄電用のストレージが不可欠です。このため研究チームは将来的なバッテリー価格を予測し、太陽光発電の価格全体にどのような影響を与えるのかについても調査を行いました。

調査の結果、太陽光発電+ストレージの合計価格が石炭火力発電を下回る価格で5.2ペタワット時の電力を供給できるようになるのは2030年頃だと示されました。なお、2020年における総電力消費量は7.5ペタワット時であり、今後消費量が増加していくことを考えられています。2060年までには5.2ペタワット時から7.2ペタワット時にまで上昇すると考えられていますが、その頃には需要も増加しているため、予想電力需要の40%ほどを太陽光発電+ストレージでまかなう形が妥当とのこと。


一方、上記のシナリオには大きな課題が伴うことも指摘されています。上記の内容をリチウムイオン電池技術で行うためには、中国だけで世界のコバルト埋蔵量の36%を使用することになります。このため、新たなバッテリー技術の開発が必須です。

中国は2060年までにネットゼロを達成するという目標を抱えています。電力の40%を太陽光でまかなうという予測は大きな意味を持ちますが、それでも目標到達が困難であることを示しています。このため、太陽光だけでなく、水素発電や次世代原子炉による発電を統合していくことが必要だと考えられています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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