サメの一種は「陸地を30m歩いて移動する能力」を持っている、気候変動による環境変化に適応できる可能性も

オーストラリアやニューギニア島の浅瀬に生息するサメの一種・マモンツキテンジクザメは、ヒレを足のように使って陸地を歩き、30m離れた場所まで移動する能力を持っています。研究者は、この能力が海洋の温暖化や気候変動にうまく適応して生き残る上で重要だと考えています。

Aquatic Walking and Swimming Kinematics of Neonate and Juvenile Epaulette Sharks | Integrative and Comparative Biology | Oxford Academic
https://doi.org/10.1093/icb/icac127

Epaulette sharks able to walk on land evolving to better survive climate crisis | Fish | The Guardian
https://www.theguardian.com/environment/2022/aug/23/epaulette-sharks-walk-on-land

現代の陸上脊椎動物の祖先は「肉鰭綱」という魚のグループだと考えられており、陸上に打ち上げられた魚が水中まで移動するためにヒレを発達させ、やがて陸上生活に適応したとされています。実際にいくつかの魚はヒレを足のように使って海底や浅瀬を歩くことが可能であり、2020年にもヒレを使って歩く新種のサメが発見されています。

テンジクザメ科に属するマモンツキテンジクザメも、陸地を歩けることが以前から知られていました。実際にマモンツキテンジクザメが歩く様子は以下の動画に収められています。

Epaulette Shark Walks on Land - YouTube

マモンツキテンジクザメは体長1m以下の小さなサメであり、浅瀬や潮だまりで小動物や小魚を捕食しています。

しかし、浅瀬は潮の満ち引きで水位が変動しやすく、時にはマモンツキテンジクザメが泳げないほど浅くなってしまうことがあります。また、潮だまりは酸素が薄くなりやすいため、酸素濃度が危険なレベルになってしまった場合は別の潮だまりに移動しなくてはなりません。

オーストラリアの厳しい日差しの下では、再び潮が満ちるのを気長に待つことは不可能です。

そんな状況に適応したマモンツキテンジクザメは、呼吸と心拍数を低下させることで低酸素状態でも最大2時間生き延びられる能力を身につけています。

さらに、ヒレをまるで足のように使って干上がった陸地を最大30m歩くことも可能です。

この能力により、マモンツキテンジクザメは干上がった状態になってしまっても、近くの十分な水深がある場所や別の潮だまりまで移動することができます。

無事に安全な場所まで移動することができました。

アメリカのフロリダ・アトランティック大学とオーストラリアのジェームズクック大学の研究チームは、マモンツキテンジクザメの歩行能力や低酸素状態を生き延びる能力についてさらなる研究を実施。さまざまな成長段階における解剖学的特徴を調べたところ、幼体でも同様の能力を持っていることがわかりました。

フロリダ・アトランティック大学の生体工学教授であるマリアンヌ・ポーター准教授は、潮だまりやサンゴ礁の浅瀬はかなり過酷な環境であるため、低酸素状態を生き抜いて陸地を歩く能力は重要だと指摘した上で、「これらの小さなサメは潮だまりから潮だまりへと移動することができ、新しい潮だまりにアクセスしてエサを食べたり、酸素が豊富な潮だまりへ行ったりできます」と述べています。

また、研究チームはマモンツキテンジクザメの歩行能力が浅瀬や潮だまりの環境に適しているだけでなく、気候変動による厳しい環境変化を生き抜くのに適している可能性があると主張。「これまでの発見は、マモンツキテンジクザメが21世紀に予測される困難な状況の一部に耐えるための適応能力を持っていることを示唆しています」と述べました。