0度を下回る超低温の水「アモルファス氷」に存在する2つの状態を区別する特徴が明らかに
水は100度で気体の水蒸気となり、0度で固体の氷に相転移する物質であると知られていますが、0度を下回っても氷にならない過冷却水や特殊な液体であるアモルファス氷など、実はさまざまな状態が確認されています。新たにイギリスのバーミンガム大学とイタリアのローマ・ラ・サピエンツァ大学の研究チームが、アモルファス氷における2つの状態を区別する特徴を、コンピューターシミュレーションを用いて明らかにしました。
Topological nature of the liquid–liquid phase transition in tetrahedral liquids | Nature Physics
https://www.nature.com/articles/s41567-022-01698-6
New evidence shows water separates into two different liquids at low temperatures - University of Birmingham
https://www.birmingham.ac.uk/news/2022/new-evidence-shows-water-separates-into-two-different-liquids-at-low-temperatures
アモルファス氷は液体の水を急速冷凍したり、水蒸気を基盤に蒸着させたりして作られる非結晶の物質であり、2017年の研究で固体ではなく液体であることが確認されました。地球上ではほとんど確認されないアモルファス氷ですが、超低温領域が存在する宇宙空間では比較的容易に生成されるといわれています。
このアモルファス氷には、高密度アモルファス氷(HDA)と低密度アモルファス氷(LDA)の2種類が存在していることから、超低温状態では2種類の水が存在していることになります。しかし、過冷却状態のアモルファス氷はすぐに氷へと相転移してしまうため、あまり詳しいことはわかっていないとのこと。
そこで、バーミンガム大学のDwaipayan Chakrabarti准教授らの研究チームは、アモルファス氷の2つの状態を顕微鏡レベルで区別する特徴を調べるために、コンピューターシミュレーションを用いた研究を実施しました。
研究チームはシミュレーションの中で、分子が極微細な粒子となって媒体中に分散するコロイドの状態にある水のモデルと、広く用いられている2種類の水分子モデルを使用しました。コロイドはサイズが比較的大きいために動きが遅く、はるかに小さな原子・分子スケールで発生する物理現象の研究にしばしば使用されるとのこと。
シミュレーションに基づく研究の結果、高密度アモルファス氷中の水分子はプレッツェルのような形状の三葉結び目(クローバー結び目)や、2つの環が鎖状になったHopf link(ホップリンク)など、トポロジー的に複雑な配置を形成し、絡み合っていることが判明。一方、低密度アモルファス氷はほとんどが単純な環を形成しており、絡み合っていないと研究チームは報告しています。
論文の筆頭著者であるDwaipayan Chakrabarti博士は、「この洞察は、30年間にわたる研究課題となっているものについて、まったく新鮮な見方を私たちに与えてくれました」とコメント。今回の研究には関与しなかったアメリカ・プリンストン大学の化学工学教授であるPablo Debenedetti氏は、「この美しいコンピューター研究は、同じネットワークを形成する物質の中に異なる液相が存在する基礎となるトポロジーを明らかにしたものです」と述べました。
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