サイエンス

固体・液体・気体に次ぐ「物質の第4の状態」とされるプラズマとは?

By Jared Tarbell

水を冷やせば氷になり、溶ければ水になり、そのまま加熱すれば水蒸気になるというのは誰もが知っているところ。そしてさらに高い温度にまで加熱を続けると、水分子は陽イオンと電子が分離したプラズマの状態へと変化します。普段あまり目にすることはないプラズマですが、実は「宇宙で最もありふれた物質」とされ、宇宙の物質の99%はプラズマの状態にあるともいわれています。

Plasma, the mysterious (and powerful) fourth phase of matter | Aeon Ideas
https://aeon.co/ideas/plasma-the-mysterious-and-powerful-fourth-phase-of-matter

普段目にする中で最も一般的なプラズマは、雷であるといえます。雷は地表と上空の電位差が大きくなり、本来は電気を通さない空気層の絶縁が破られることでたまりにたまった電気が一気に流れる現象で、その通り道となった空気の部分は数億度という超高温の状態になります。落雷の際に目に見える「稲光」は、この超高温と高電圧によって電離した大気がプラズマ状態となって発光している状態です。

また、日本にいるとほとんど目にすることはありませんが、緯度が高い場所でたびたび発生する「オーロラ」もプラズマの1つ。オーロラは、太陽から噴き出して地球に飛んできた太陽風から供給された電子線が地磁気に沿って降下し、電子線によって励起された大気中の酸素や窒素が発光する現象です。

By Heikki Holstila

プラズマを発生させるには、物質を非常に高い温度にすることで分子の活動を極めて活発にする必要があります。熱力学的な観点での物質の「温度」とは、物質のもととなる原子や分子の運動エネルギー(振動)のことを指しています。分子の振動が停止する絶対零度から数百万度、時には数億度にまで物質の温度は高まり、それに伴って原子や分子の振動は高まっていきます。プラズマは、この高い運動エネルギーによって分子が電離することで生じる現象です。

いま世界各国で多くの予算をかけてプラズマの研究が行われています。その原動力になっているのは、人間の手による「制御熱核融合」の実現という目標です。2つの原子核が融合する時に生じるばく大なエネルギーを利用する核融合発電は、原子力発電のように放射性廃棄物をほとんど排出しないという「クリーン」なエネルギー源とされ、未来のエネルギー源として注目されています。

しかし、核融合を地上で実現するためにはプラズマを摂氏1億度以上という高温状態に保つ必要があります。これは実に太陽の中心よりも10倍も熱い世界であるのですが、実はこの目標は1990年代に達成されています。本当の課題、それは高温のプラズマは非常に不安定であるという所にあります。

By Image Editor

1950年代にはソ連とイギリス、そしてアメリカでも秘密裏に研究が進められていたとのこと。アメリカではプリンストン大学がこの研究の中心となっており、物理学者のライマン・スピッツァー博士がプロジェクト・マッターホルンを立ち上げました。このプロジェクトでは、「ステラレータ方式」と呼ばれる、ねじれたコイルを周回させて「閉じ込め磁場」を作り出し、核融合が起こる環境を作り上げるという方法の研究が進められました。最終的にプロジェクトが核融合を成功させることはありませんでしたが、プラズマを安定的に発生させるノウハウが得られました。

一方、ソ連の科学者は「トカマク型」と呼ばれる別の装置を開発していました。物理学者のアンドレイ・サハロフ博士とイーゴリ・タム博士によって設計されたこの装置は、ステラレータ方式よりもプラズマを高い温度で安定した状態に保つことができました。その後、核融合の研究ではこのトカマク型の装置が主に用いられており、2015年には中国、欧州連合、インド、日本、韓国、ロシア、米国のコンソーシアムが合流して、世界最大のトカマク型原子が建設されることになっています。

By Oak Ridge National Laboratory

核融合の分野で欠かせないプラズマですが、地球を取り巻く空間の物理学にも密接に絡み合っています。地球には宇宙からやってくる有害な「宇宙線」が常に降り注いでいますが、これは帯電したプラズマ粒子です。地球が持つ磁場はプラズマ粒子を跳ね返す役割を担っており、生命が生き永らえることができる環境を作り出しています。

また、「宇宙天気」と呼ばれる新しい分野では、プラズマ物理学は地球の天気予報における流体力学の役割と同様の役割を果たします。研究が進められているこの分野にはまだ明らかにされていない部分も多いのですが、「太陽フレア」など地球の環境に大きな影響を与える宇宙規模の事象を解明し、高エネルギーの粒子が降り注ぐ「太陽嵐」を予測することを可能にするとも考えられています。

コロンビア大学Columbia Astrophysics LaboratoryのポスドクであるLuca Comisso氏は、「プラズマ物理学は、星や銀河、銀河団が最初にどのように形成されたかについての洞察を提供してくれると期待しています。標準的な宇宙論モデルによると、初期の宇宙では高温のプラズマが広がっていました。次にすべてが冷え始め、電子とプロトンが結合して電気的に中性の水素原子が作られました。この状態は、最初の星とブラックホールが形成されるまで続き、その後宇宙は『再イオン化』し、ほとんどがプラズマ状態に戻りました」と述べており、プラズマが宇宙の謎を解明することに役立つと考えています。

By tackyshack

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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