水の新しい形態「超イオン氷」が海王星や天王星の内部に存在する可能性
水は固体・液体・気体の3つの状態に変化しますが、実は液体の状態だけでも12以上の異なる構造が存在しています。氷にも複数の構造が存在しているとされており、そのひとつが「超イオン氷」と呼ばれる構造です。この超イオン氷が海王星や天王星の地下深くに存在している可能性を科学者たちが指摘しています。
Structure and properties of two superionic ice phases | Nature Physics
https://www.nature.com/articles/s41567-021-01351-8
Scientists find strange black 'superionic ice' that could exist inside other planets
https://phys.org/news/2021-10-scientists-strange-black-superionic-ice.html
超イオン氷は、海王星や天王星の核付近のような超高温・超高圧の環境下で形成されます。これまで実験室の中で超イオン氷を一瞬だけ生成することには成功していたのですが、学術誌のNature Physicsで発表された最新の研究では、実際にどのような環境でなら超イオン氷は生成・維持できるのかを検証しています。
研究に参加したシカゴ大学の研究者であるVitali Prakapenka氏は、「いくつかの強力なツールのおかげで物質の新しい段階を構成する新たな氷の特性を非常に正確にマッピングすることができました」と語っています。
研究チームは実際に超イオン氷が生成されるような環境下へアクセスすることが物理的に不可能であることから、極度の熱と圧力がかかった状態を実験室の中で再現。再現には光速に近い非常に速い電子を駆使してX線を生成する巨大加速器を使用しています。
実験では、地球上で最も硬い物質であるダイヤモンドを2つ並べ、その間にサンプルを配置して高い圧力をかけ、次にダイヤモンドを通してレーザーを照射しサンプルを加熱するという実験を実施。この時、X線をサンプルに照射し、X線がどのように散乱するかに基づき、サンプル内部の原子配置を分析しています。
分析の結果、サンプルとして氷を使用した場合、氷が超イオン氷になったことが判明しています。Prakapenka氏は超イオン氷について、「水素によって接続された角に酸素原子がある立方体を想像してみてください。立方体が新しい超イオン層に変化すると、格子が膨張し、酸素原子が角に固定されたまま水素原子が移動できるようになります。これは浮遊する水素原子の海に酸素の格子が存在するようなものです」と語っています。
また、室温に戻ると超イオン氷が氷に戻ることも明らかになっており、Prakapenka氏は「つまり、これらは化学変化ではなく可逆的な構造変化であることが明らかになっています」と述べています。
氷が超イオン氷になると、密度が低くなり光との相互作用が変化するため、とても暗くなるそうです。ただし、超イオン氷の化学的および物理的特性についてはまだまだ調査が始まったばかりであり、「超イオン氷は氷の新しい状態であるため、基本的には全く新しい物質として機能し、我々の想像とは異なる働きをする可能性が大いにあります」とPrakapenka氏は述べています。
理論科学者は超イオン氷が存在すると予測していましたが、ほとんどが「水を50ギガパスカル以上の圧力で圧縮することで生成される」と予測していました。しかし、実際の実験では20ギガパスカルで圧縮するだけで、超イオン氷を生成することに成功しています。
氷のさまざまな状態を正確に知ることは、惑星の形成を理解し、地球外で生命の痕跡を探すうえでも非常に役立つとのこと。実際、今回の超イオン氷の生成実験により、海王星や天王星の内部は超イオン氷を生成するのに適した条件がそろっている可能性があると、研究チームは指摘しています。
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