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Appleが「ストーリー」を武器に競合他社を蹴落として広告事業を伸ばした巧妙な戦略とは?


Appleの広告ビジネスは、業界を激変させたと言われるプライバシー規定の「App Tracking Transparency」を導入して以降、爆発的な急成長を遂げており、近年は「プライバシーを理由に他社広告を制限して自社の広告ビジネスを拡大している」との批判も目立つようになりました。そんなAppleがどのような方法で競合他社を出し抜き自社の広告ネットワークを拡大させたのかについて、ライターのネイサン・ボー氏が一連のツイートの中で語っています。


Appleのティム・クックCEOは、2019年にTime誌に寄稿した記事の中で、「消費者にはプライバシーを守る権利がある」とのメッセージを発信しました。しかし、クックCEOが大企業のトップであることを踏まえてこのメッセージを読み解くと、「他のビッグテックとは違って、Appleは消費者のプライバシーを守ります」となります。

2019年当時のAppleの広告ビジネスは5億ドル(当時のレートで約550億円)規模で、Amazonの130億ドル(同約1兆4300億円)やFacebookの690億ドル(同約7兆5900億円)に大きく水をあけられた状態でした。


この時点で、3つことがうかがえます。1つ目は「Appleはサービス事業を拡大したかった」、2つ目は「Appleはストーリーの力を理解している」、3つ目は「Appleは自分たちが使えるストーリーを見つけた」というもの。そしてAppleが見つけたストーリーが、前述のプライバシー規定でした。この着眼点についてボー氏は「Appleは史上最も効果的なマーケティング・キャンペーンを始めたのです」と評価しています。

そして、Appleは2019年~2021年にかけて、多額の費用をかけて繰り返しプライバシーの重要性を訴えて、自社のストーリーを広めました。これは単なるマーケティングの枠を超えて、あらゆる消費者向けビジネスの在り方を変えるような、大規模な製品アップデート基盤の構築へと発展します。


そして、満を持してリリースされたiOS 14.5で、Appleはストーリーを実際に具現化させました。このバージョンから、アプリを開くとiPhoneはそのアプリにトラッキングされたいかどうかをユーザーに尋ねるようになります。そして、誰もFacebookに追跡されることを望みませんでした。その結果、ユーザーがトラッキングを拒否する割合は95%以上に達したとされています。


この変化が競合他社にもたらした結果は明らかでした。iOS 14.5がリリースされてから株価指数のS&P 500は2.8%上昇しましたが、同じ期間でMetaの株価はマイナス40%、Snapchatを手がけるSnapの株価はマイナス80%、カナダのeコマース企業・Shopifyの株価はマイナス66%と、大きく下落しています。

ボー氏は、MetaとSnapの業績が落ち込んだのは、データ収集が困難になりターゲットの絞り込みができなくなった結果、両社の広告主が顧客を獲得するのに必要なコストが上昇したからだと考えています。


Shopifyはeコマース企業なので広告事業から直接受ける影響は大きくありませんでしたが、Shopifyでビジネスをしている何千もの中小企業がコスト上昇に直面したことで、Shopifyの業績もAppleのプライバシー戦略のあおりを受けました。

Appleは、ユーザーにトラッキングを拒否させる一方で、Appleの「パーソナライズされた広告」をオンにするよう働きかけました。


こうした戦略は大成功を収め、2019年には5億ドル未満だった広告ビジネスは、2022年には推定40億ドル(約5400億円)へと急拡大しました。これに飽き足らず、Appleは「マップ」などの自社アプリにも広告を掲載させる計画だということが、Bloombergによって報じられています。


ボー氏は、iOS 14.5の巧妙さは「異なる当事者間でのデータのやりとりを禁じている一方で、単一のプラットフォーム内でデータがやりとりされることは禁じていない」という点にあると指摘しています。なぜなら、Appleこそがその単一のプラットフォームなので、データを外部に持ち出さなくても個人情報を十分に活用できるからです。

Appleが広告事業を急拡大させた戦略について、ボー氏は「私にはAppleを非難するつもりはありませんが、何が犠牲になったのかを理解することは重要です。つまり、Appleはストーリーを武器に競合他社を蹴落として、その過程で中小企業をつぶし、自社の広告ビジネスを強化したということです」と述べました。

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in ネットサービス, Posted by log1l_ks

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