サイエンス

ヨーロッパやアメリカ大陸で拡大中の感染症「サル痘」とはどういう病気なのか?


2022年5月、ヨーロッパやアメリカで「サル痘」と呼ばれる病気の症例数が相次いで報告されており、各国の当局が感染源の特定を急いでいます。サル痘とはどのような病気なのか、どのように広まるのか、どういう起源を持つのかについて、さまざまなメディアがまとめています。

European outbreak of monkeypox: what you need to know
https://theconversation.com/european-outbreak-of-monkeypox-what-you-need-to-know-183298

What is monkeypox and its signs and symptoms? - CNN
https://edition.cnn.com/2022/05/19/health/what-is-monkeypox-virus-explainer-wellness/index.html

Monkeypox outbreak erupts; US, UK, Spain, Portugal, and more report cases | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2022/05/monkeypox-outbreak-erupts-us-uk-spain-portugal-and-more-report-cases/

サル痘とはサル痘ウイルスに感染することで発症する感染症であり、かつて世界中で猛威を振るった天然痘に似た症状を呈します。サル痘ウイルスに感染した人は平均12日間の潜伏期間を経て発熱・頭痛・リンパ節の腫れ・筋肉痛・倦怠感といったインフルエンザ様の症状が現れ、発症から1~3日で水疱(すいほう)が顔や手の平、足の裏などに出現するとのこと。

症状だけでは天然痘とサル痘を区別することは困難ですが、すでに天然痘は地球上からの根絶が宣言されているほか、サル痘の感染力や致死率は天然痘よりも低いことがわかっています。軽症の場合は数週間ほどで症状が消えますが、子どもでは重症化する可能性が高いほか、妊婦でも合併症や胎児の先天性異常、死産などのリスクがあるそうです。


「サル痘」という名称は、この病気が1950年代後半にサルを集めた実験施設内で「カニクイサルの天然痘様疾患」として報告されたことに由来します。当時は人間への感染は報告されませんでしたが、1970年にザイール(現コンゴ民主共和国)に初めて人間の感染例が報告され、その後は西アフリカやコンゴ盆地などで小規模な流行がたびたび発生しているとのこと。なお、西アフリカとコンゴ盆地のサル痘ウイルスは種が違うそうで、西アフリカの方は人間の致死率が約1%、コンゴ盆地の方は致死率が約10%ほどといわれています。

最初に報告されたのがサルだったため「サル痘」という名称が付いていますが、サル痘ウイルスの主な感染源はサルではなく、げっ歯類などの比較的小さな哺乳類の可能性が高いとみられています。当初はアフリカのみで確認されていたサル痘でしたが、2003年にはアメリカでプレーリードッグの飼い主が相次いでサル痘を発症し、6つの州で47人の患者が発生しました。なお、2003年のアメリカにおける発症者では死亡者が出なかったほか、重症化した1人も水痘との重複感染だったことがわかっています。その後も、アフリカへの旅行者がヨーロッパでサル痘を発症する事例がたびたび発生しており、2021年にはイギリスで2人の患者が確認されてました。


ところが2022年5月には、イギリスでナイジェリアへの旅行者やその家族を含む9人がサル痘を発症したほか、ポルトガルで14人、スペインで7人、イタリアとスウェーデンでも1人ずつ患者が確認されるなどヨーロッパで感染が拡大。ポルトガルやスペインではさらに多くの人々に感染の疑いがかけられているほか、カナダのモントリオールでも17人の患者がサル痘の疑いがあると報告されており、5月18日にはカナダに旅行したアメリカ人男性がサル痘になったことが報告されています。

2022年のサル痘感染は直近にアフリカへ旅行していない人でも広がっていることから、何かしらのコミュニティ内でサル痘ウイルスが広まっていることが示唆されています。サル痘ウイルスは人間同士における感染力が弱く、これまでに文書化された人間同士の最長の感染連鎖はわずか6世代ですが、感染者との密接な接触や感染者の体液で汚染された寝具などとの接触により感染する場合があるとのこと。

英国健康安全保障庁(UKHSA)の疫学者であるMateo Prochazka氏は、イギリスの患者のうち4人がゲイまたはバイセクシュアルの男性だったことを挙げ、性的ネットワーク内で感染が広まっている可能性があると指摘しています。また、ポルトガルで感染が疑われている人々はすべて若い男性だとのことですが、サル痘ウイルスが性行為そのもので感染するというよりは、性行為に伴う密接な接触自体が感染を引き起こすとみられています。

Yesterday, @UKHSA reported four cases of monkeypox (MPX) in gay and bisexual men in England, making a total of 7 cases nationally.

So what's going on with monkeypox (MPX)?https://t.co/lpefCO16uV

— Mateo Prochazka (@teozka)


記事作成時点ではサル痘に対する特定の治療法はないものの、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は天然痘ワクチン、抗ウイルス薬のシドフォビルワクシニア免疫グロブリンを使用してサル痘の発症を制御する方法があると述べています

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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