MacBookで使える「USB-Cハブ付き有線LANアダプター」3種類を分解して浮かび上がった問題点とは?
2018年モデルの13インチ MacBook Proには、Thunderbolt 3対応のUSB Type-Cポートが4つ搭載されているだけで、LANケーブルを接続するには有線LANアダプターが別途必要になります。そんな13インチMacBook Proを使っているソフトウェアエンジニアのデニス・シューベルトさんが、これまで使ってきた3つの有線LANアダプター分解した上で見えてきた問題点を解説しています。
USB-C hubs and my slow descent into madness - Dennis Schubert
https://overengineer.dev/blog/2021/04/25/usb-c-hub-madness.html
◆1台目:Satechi Multiport Adapter V2
シューベルトさんが最初に購入したのが、アメリカのメーカー・Satechi製の有線LANアダプターで、価格は90ユーロ(約1万2000円)でした。なお、Satechi製で有線LANポートのないUSB-CハブはApple公式で購入可能となっています。
Satechi製の有線LANアダプターは、購入から1年ほどは問題なく動作していたものの、次第にHDMI接続が頻繁に切れるようになり、さらにイーサネット接続が不安定になり、結局自宅用と外出用に購入した2台とも使えなくなってしまったとのこと。特にイーサネットについては、ギガビット・イーサネット対応のはずなのに、なぜか転送速度が100メガビットレベルに制限されることもあったそうです。シューベルトさんがmacOS側からネットワークの環境設定を強制的に1000BASE-Tにしても、問題は解決されなかったとのこと。100メガビットに制限されると、一般的なブラウジング中であればほとんど気にならないものの、データのバックアップやゲームのストリーミングにおいてはかなり厳しいものがあります。
この転送速度制限の問題はWindows PCでも発生したため、シューベルトさんはハードウェア由来の問題だと判断し、このSatechi製有線LANアダプターを分解しました。以下の写真がSatechi製有線LANアダプターの基板です。
シューベルトさんによると、Satechi製有線LANアダプターの基板に搭載されているチップは以下の通り。
・Heling MT24-S1T1:内部回路の信号をイーサネット仕様に変換するRJ45トランス。
・Genesys Logic GL3224:SDカード・microSDカードリーダーコントローラーチップ。
・Parade PS176HDM:DisplayPortの信号をHDMI 2.0に変換するコンバーターチップ。
・Realtek RTL8153B:イーサネットコントローラーチップ。
・Realtek RTS5411:シューベルトさんによれば、システム側からはなぜか台湾のVIA Labs製USBハブコントローラーチップであるVL820と認識されるそうで、Realtek RTS5411はシステムのどこにも表示されていないとのこと。
・VIA Labs VL102-Q4:USB Type-CポートからDisplayPortの映像信号を取得するためのコントローラーチップ。
・VIA Labs VL817-Q7:USB Type-Cポート3つと有線LANポートのハブコントローラーチップ。
・Boyamicro製フラッシュメモリチップ
シューベルトさんは、さらに興味深い点として「48:65:ee:1a:1b:60」というMACアドレスを挙げています。このMACアドレスで検索すると、モバイル機器・タブレットの周辺機器のODMやOEMを専門とする「Gopod Group Limited」という企業名がヒットしたとのこと。つまり、Satechi製の有線LANアダプターは、設計から製造までをSatechi以外の企業が行ったODM製品だったというわけです。実際にシューベルトさんが通販サイトのAliExpressで検索したところ、同じスペックで同じ部品を搭載した有線LANアダプターが1つあたり10ユーロ(約1300円)で販売されているのを見つけたそうです。シューベルトさんは「会社のロゴを印刷しただけで90ユーロも支払わなければならないのは間違っていると思います」とコメントしました。
◆2台目:Icy Box USB-C Dock
結局、Satechi製の有線LANアダプターは1年で使えなくなってしまったため、シューベルトさんはAmazonで、Icy Box製の有線LANアダプターを70ユーロ(約9100円)で購入しました。このIcy Box製有線LANアダプターはUSB-Cハブ機能を持つだけでなく、オーディオ出入力端子とVGAコネクタが搭載されているのが特徴です。なお、Icy Boxは、ドイツのRaidsonic Technology GmbHという企業のブランドで、もしトラブルが起こっても連絡すればサポートしてもらえるとシューベルトさんは考えていたとのこと。
モニター出力とパワーパススルーは正常に機能していたそうですが、この有線LANアダプターもギガビット・イーサネット対応だったにもかかわらず、実際はやはり100メガビットレベルに低下してしまい、ギガビット通信はできなかったとのこと。以前と同じことが起こったので調べてみると、イーサネットコントローラーにSatechi製と同じRealtek RTL8153が使われているらしいことが判明。
シューベルトさんは分解する前に、まずサポートに連絡しました。LANケーブルの交換、接続ポートの変更、MacBook Proの再起動など、サポート窓口のさまざまな指示にすべて従ったものの、問題が解決されることはなかったとのこと。最終的にサポート窓口がさじを投げてしまった上に、シューベルトさんも有線LANアダプターの値段に労力が見合っていないと考えたため、サポートに頼るのをやめてしまったそうです。
さらにその後、Icy Box製有線LANアダプターの使用中に「USBデバイスの消費電力が多すぎたため、USBデバイスが無効になりました」というメッセージが画面に表示され、突如MacBook ProのUSBポートすべてが使えなくなってしまったとのこと。その時に接続していたのは有線LANアダプターのみだったことから、原因は有線LANアダプターにあると判明。シューベルトさんは有線LANアダプターを再接続し、macOSを再起動しましたが、結局問題は解決しなかったそうです。それどころか、接続していたIcy Box製有線LANアダプターが手で持つとやけどしてしまいそうなほど熱くなっていたとのこと。シューベルトさんは、おそらく内部でショートを起こして過電流と過熱を起こしていたのではないかと推測しています。
シューベルトさんが怒りにまかせて分解したIcy Box製有線LANアダプターの中身がこれ。なお、この基板はショートを起こした自宅用のものではなく、外出用に購入した2台目のものだそうです。
シューベルトさんによると、Icy Box製有線LANアダプターの基板に搭載されているチップは以下の通り。
・FE1.1S:オーディオデバイス専用のUSB 2.0ハブコントローラー。
・Genesys Logic GL3224:SDカードリーダーコントローラー、Satechi製と同じ。
・C S FS240800005 1944J:RJ45トランス。
・Realtek RTL8153:イーサネットコントローラー、Satechi製と同じ。
・ITE Tech IT6564FN:DisplayPort信号をHDMIとVGAに変換するコンバーター。
・Solid State System SSS1629A5:オーディオコントローラー
・VIA Labs VL102-Q4:USB Type-CポートからDisplayPortの映像信号を取得するためのコントローラー、Satechi製と同じ。
・VIA Labs VL817-Q7:USB Type-Cポート3つと有線LANポートのハブコントローラー、Satechi製と同じ。
・Boyamicro製フラッシュメモリチップ:Satechi製と同じ。
分解した結果、オーディオ出入力端子とVGAコネクタが搭載されたことで一部のチップが追加された以外は、Icy Box製有線LANアダプターとSatechi製有線LANアダプターの中身はほとんど同じ構成だったことがわかりました。そして、Icy Box製有線LANアダプターのMACアドレス「34:29:8f:7c:ec:00」を調べると、東莞金鼎電子科技有限公司のものだとわかりました。つまり、Icy Box製有線LANアダプターもSatechi製有線LANアダプターと同じく、単なるODM製品だったというわけです。シューベルトさんによれば、Icy Box製と同じ構成の有線LANアダプターも、AliExpressで1500円前後で販売されているのが見つかったそうです。
◆Realtek RTL8153の問題
Satechi製とIcy Box製はいずれも、イーサネットコントローラーにRealtek RTL8153を採用しており、どちらも転送速度がなぜか100メガビットに制限されてしまう問題を抱えていました。シューベルトさんによれば、実はRealtek RTL8153を搭載した製品でなぜか転送速度が制限されてしまう問題は2017年から報告されており、GitHubにもRealtek RTL8153のデバッグ情報が共有されています。
転送速度が制限される問題については、Realtekのドライバーアップデートをインストールすることで解決されます。しかし、記事作成時点ではmacOS向けのドライバーはmacOS Catalina(バージョン10.15)までしか対応しておらず、macOS Big Sur(バージョン11)以降に対応したドライバーが存在しません。そのため、少なくともmacOS Big Sur以降のOSを搭載したMacについては、Realtek RTL8153の問題が解決していません。
シューベルトさんは、Apple Storeで販売されている有線LANアダプターにイーサネットポートが搭載されていないのは、この問題が解決されていないからではないかと予想しています。
◆3台目:Anker PowerExpand 8-in-1
次にシューベルトさんが購入したのが、中国のメーカー・Ankerの有線LANアダプターであるAnker PowerExpand 8-in-1でした。購入価格は55ユーロ(約7400円)で、これまでの有線LANアダプターと比較すると安価です。USBポートはType-Aポートが2つ、USB PowerDelivery対応のType-Cポートが1つしかしかないものの、HDMIポートは2つ搭載しています。
このAnker製有線LANアダプターは問題なく機能したとのこと。イーサネットの転送速度も988メガビットを記録し、SDカードリーダーも問題なく機能していたそうです。しかし、ハードウェア情報を見ると、イーサネットの転送速度制限の原因となるRealtek RTL8153が搭載されていたことが判明。そこでシューベルトさんはこのAnker製有線LANアダプターを分解してチェックしました。その中身が以下。
シューベルトさんは「Anker製有線LANアダプターのケース自体はプラスチックでできていますが、基板はヒートシンクとなる金属製のケースに固定されていて、少し驚きました」と述べています。
シューベルトさんによると、基板に搭載されている部品は以下の通り。これまでの2モデルと異なり、Anker製有線LANアダプターは降圧型コンバーターによる電力管理が行われ、金属ケースに収納して排熱も意識した設計になっているのが大きな特徴。Satechi製・Icy Box製で問題となったRealtek RTL8153を搭載しているにもかかわらず、イーサネットの転送速度がなぜ制限されないのかは不明です。
・AppS G2401CG:RJ45トランス。
・Genesys Logic GL3224:SDカードリーダーコントローラー、Satechi製・Icy Box製と同じ。
・Realtek RTL8153:イーサネットコントローラー、Satechi製・Icy Box製と同じ。
・Southchip SC8903QDHR:降圧型コンバーターで、電力管理用にMOSFETを4つ内蔵しているとのこと。
・Synaptics VMM5200:DisplayPortからHDMIへのコンバーター。2つあるHDMIの両方で4K・60fpsをサポートしているとのこと。また、I2Cを介してファームウェアをアップグレードできるそうです。
・VIA Labs VL103-Q4:Satechi製・Icy Box製と同じ。
・VIA Labs VL817-Q7:Satechi製・Icy Box製と同じ。
・Fudan Micro、Macronix、Puya製のフラッシュメモリチップ
そして、Anker製有線LANアダプターのMACアドレスを確認すると「a0:ce:c8:e4:4d:d4」となっており、これは中国の通信機器メーカーであるCe Linkのものでした。Ce Linkは「強力な研究開発チームを持つ一流のメーカー」を自称しており、OEM生産が可能な周辺機器を販売しています。シューベルトさんによると、このAnker製有線LANアダプターと全く同じものはCe Linkの製品ラインナップに見つからなかったそうで、Ce Linkの複数製品を組み合わせた構成になっているだろうとシューベルトさんは推測しています。
◆結論
有線LANポート搭載の有線LANアダプターの多くがRealtek RTL8153を採用しているということは問題だと、シューベルトさんは指摘。Realtek RTL8153搭載製品をmacOS Big Sur以降で使うとイーサネットの転送速度に制限がかかる問題は記事作成時点で解決されておらず、周知もされていません。そのため、Realtek RTL8153を搭載した有線LANアダプターを「Macでも使える」と宣伝するのは褒められたものではない、とシューベルトさんは主張しました。
加えて、電解コンデンサには周囲の温度が上がるほど寿命が縮まるという関係があるため、一部の有線LANアダプターが電解コンデンサを搭載していたのが気になるポイントだったとシューベルトさんは述べています。
シューベルトさんは、「あなたが新しく有線LANアダプターを買うつもりだとしても……すみません、何を買えばいいのかはわかりません。eBayやAliExpressで安い有線LANアダプターを購入して、一番いいものを普段使いにして、他の有線LANアダプターを予備にするというやり方も悪くありません。結局安いUSB-ハブも、有名企業ブランドの高価なUSBハブと同じ中身である可能性が高いのです。設計から生産までを中国の企業に外注するやり方にはメリットがあるので基本的には支持しますが、会社のロゴをケースに印刷するだけで、企業ブランドで価格を4倍にするというやり口には少しだまされている感覚を覚えます」とコメントしました。
なお、3モデルを検証した後、シューベルトさんは自宅用の有線LANアダプターとしてElgato製の有線LANアダプターを購入したとのこと。このElgato製有線LANアダプターは、イーサネットコントローラーにIntel NICを利用しており、MACアドレスもElgatoのものだったそうです。また、外出時は、ひとまずAnker製の有線LANアダプターを壊れるまで使い続けるつもりだとシューベルトさんは述べています。
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