サイエンス

新型コロナ患者にイベルメクチンを投与する過去最大の臨床試験で「イベルメクチンに新型コロナの治療効果はない」ことが再び示される


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行初期に、「抗寄生虫薬であるイベルメクチンがCOVID-19の予防や治療に効果がある」ことを示唆する研究結果が発表されました。ところが、その後はイベルメクチンのCOVID-19に対する効果を疑う研究結果が多数報告され、世界保健機関(WHO)もイベルメクチンの使用は推奨していませんが、記事作成時点でも一部の人々はCOVID-19に対してイベルメクチンが効果的だと信じています。そんな中で発表された、ブラジルで行われた過去最大の臨床試験結果は、「イベルメクチンにCOVID-19を治療する効果はない」ことを示しています。

Effect of Early Treatment with Ivermectin among Patients with Covid-19 | NEJM
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2115869


Ivermectin Does Not Reduce Risk of Covid Hospitalization, Large Study Finds - The New York Times
https://www.nytimes.com/2022/03/30/health/covid-ivermectin-hospitalization.html

Ivermectin worthless against COVID in largest clinical trial to date | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2022/03/largest-trial-to-date-finds-ivermectin-is-worthless-against-covid/

医学誌のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに掲載された論文は、2021年3月23日~8月6日にかけてブラジルの12の公衆衛生クリニックで行われた、ランダムに選ばれたCOVID-19患者にイベルメクチンを投与する臨床試験の結果を分析したものです。

今回の臨床試験には1300人以上のCOVID-19患者が登録され、ランダムに選ばれた679人が「イベルメクチンを投与する実験群」に割り当てられ、679人は「偽薬を投与する対照群」に割り当てられました。登録された患者はいずれも18歳以上であり、検査で新型コロナウイルス陽性が判明してから7日以内にCOVID-19を発症したほか、「50歳以上」「糖尿病」「高血圧」「がん」「肺疾患」など、少なくとも1つはCOVID-19のリスクを高める要因を持っていたとのこと。


患者は新型コロナウイルス陽性であることが判明してから各グループに割り当てられ、その時点から3日間にわたり、実験群は「体重1kgあたり400マイクログラム」のイベルメクチンを、対照群は偽薬を服用しました。試験チーム・施設スタッフ・患者は無作為化について知らされず、イベルメクチンおよび偽薬は同じボトルに包装されており、無作為化を担当した薬剤師のみがボトルに記載されたアルファベットに基づいて薬物を識別可能だったとのこと。なお、当初はイベルメクチンの投与量はより少なく、投与日数も1日のみの予定だったそうですが、「イベルメクチンの擁護団体からのフィードバック」を受けて投与量や日数を増やしたと研究チームは述べています。

イベルメクチンまたは偽薬が投与された点を除き、すべての患者はブラジルにおける一般的な治療プロトコルに基づく治療を受けました。研究チームは28日間にわたり患者の状態を対面やビデオ会議でモニタリングし、実験群と対照群でCOVID-19の病状においてどのような違いが生じるのかを分析しました。


臨床試験の結果を分析したところ、イベルメクチンの投与が入院または救急科における長期観察といった事態を減らすことは確認されませんでした。また、回復までの時間・PCR検査で陰性になるまでの時間・病院で過ごす時間・機械的人工換気の必要性・機械的人工換気の継続時間・死亡・死亡するまでの時間といった、COVID-19に関するすべての二次的結果に影響を及ぼさなかったと研究チームは報告しています。

論文の共著者であるミネソタ大学の感染症専門家・David Boulware博士はニューヨーク・タイムズの取材に対し、「(イベルメクチンはCOVID-19の治療において)なんの恩恵ももたらしません」「人々が臨床試験の詳細なデータにアクセス可能になった今、うまくいけば大多数の医師がイベルメクチンから他の治療へと移行するでしょう」とコメント。記事作成時点でもイベルメクチンに関する複数の臨床試験が進行中ですが、今回の臨床試験はかなり大規模かつ慎重に設計されたものであるため、「何か違う結果が出るとはほとんど思えません」とBoulware氏は述べました。

なお、イベルメクチンに関してはCOVID-19の治療効果に関してオンライン上で激しい議論が巻き起こっています。アメリカでは2020年にイベルメクチンの処方量が激増しているため、医療保険会社は年間1億2900万ドル(約158億円)もの追加支出を強いられたとの試算も報告されています。

アメリカ・アーカンソー州の刑務所では、医師が受刑者に対して無断でイベルメクチンを投与したことで下痢・血便・胃けいれん・視覚異常などの副作用が生じたとして訴訟が起こされたほか、人間用のイベルメクチンが手に入らなかったために家畜用のイベルメクチンを服用してオーバードーズになる人も増えており、アメリカ食品医薬品局(FDA)が「あなたは馬でも牛でもありません」と公式警告を出す事態に至っています。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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