Amazonが買収した「自動でメッセージが削除される機能付き」のメッセージングアプリが政府機関に使われている
アメリカ国土安全保障省の一部門でありアメリカの税関や国境警備を担当するアメリカ合衆国税関・国境警備局(CBP)が、メッセージを自動で削除する機能があるAmazon傘下の暗号化メッセージングアプリ「Wickr」を使用しており、政府記録の保管などを担当するアメリカ国立公文書記録管理局(NARA)が懸念を示していたことが判明しました。
Border Patrol's use of Amazon's Wickr messaging app draws scrutiny
https://www.nbcnews.com/tech/tech-news/border-patrols-use-amazons-wickr-messaging-app-draws-scrutiny-rcna21448
CBPは人身売買や麻薬密輸、不法入国といった国境に関する安全保障を専門に取り締まる機関です。過去には旅行者の携帯電話やノートPCを令状なしで検査・没収することが問題視されたほか、「移民を馬に乗って追い回す」「親や保護者のいない移民の子ども約1万5000人を劣悪な拘置施設に収容している」といったことが報じられています。
そんなCBPは、2021年6月にAmazonが買収した暗号化メッセージングアプリ「Wickr」を使用しているとのこと。Wickrはメッセージや添付ファイルを暗号化して送受信できるだけでなく、一定期間後にメッセージを自動消去する機能もあるため、ジャーナリストやセキュリティに関心のある人、犯罪者などに人気があるとされています。Wickrの顧客には公共部門や政府機関も含まれており、アメリカ国防総省向けに「Wickr RAM」という軍隊向けのバージョンも提供しているそうです。
CBPによるWickrの利用について、政府関係者により記録が正しく処理されていることを保証する責任があるNARAの最高記録責任者、Laurence Brewer氏は、2021年10月に国土安全保障省の最高情報責任者であるEric Hysen氏へ送った(PDFファイル)書簡で、「この機能(メッセージの自動削除機能)を持つメッセージアプリケーションが、適切なポリシーと使用を管理する手順なしに機関全体に展開されることを懸念しています」と述べました。
この書簡について報じたアメリカのNBCニュースは、「この文書はCBPによるWickrの使用に関する珍しい洞察を提供し、アメリカ政府のあらゆるレベルでメッセージングアプリの使用が拡大していることについて、一部の当局者や監視団体が抱いている広範な懸念を強調しています」と報じています。
以前から人権活動家や移民弁護士によって秘密主義的な慣行が批判されているCBPは、2020年以降にWickrへ160万ドル(約1億9600万円)以上を費やしているとのことですが、実際にCBP内部でWickrがどのように展開されているのかはほとんど知られていません。
非営利の監視団体であるワシントンの責任と倫理を求める市民(CREW)で上級顧問を務めるNikhel Sus氏は、「CBPは移民・関税執行局(ICE)や国土安全保障省が監督するその他の機関と同様に、記録保持法の順守に関してひどい実績を持っています」「これは機関の活動についての調査や監視の妨げとなり、説明責任に実質的な影響を及ぼしています。『自動削除』機能を持つメッセージングアプリであるWickrの使用は、間違いなく『待った』をかけられるものです」と指摘しています。なお、CREWは2022年3月に、CBPに対して情報公開法に基づいてWickrの使用に関する記録の開示を求めましたが、CBPがこの要求に答えなかったことから訴訟を起こしています。
NBCニュースの問い合わせに対し、CBPの広報担当者であるTammy T. Melvin氏は、CBPは係争中に問い合わせについてコメントできないと返しました。また、電子メールの中でMelvin氏は「Wickrの使用・配布は現在検討中です」と述べ、CBPは2019年以来「いくつかの小規模なパイロットプログラムでのみ」Wickrを使用していると主張したとのこと。なお、CBPが使用するWickrのエンタープライズバージョンでは、組織が任命した管理者が個々の従業員におけるメッセージの自動削除などの設定を管理できるとのことですが、Melvin氏は実際にCBPがどのようにWickrを運用しているのかについて回答しませんでした。
Wickrの宣伝資料によると、エンタープライズ向けバージョンやWickr RAMでは記録保持のコンプライアンスを順守する方法で使用可能だとされているものの、どちらもユーザーによるメッセージの自動削除機能が有効化されています。なお、Wickrを所有するAmazonはNBCニュースの問い合わせに対し、Wickrの製品や政府機関との契約について回答していません。
Brewer氏は書簡の中で、CBPに対してWickrの使用に関するポリシー、職員のトレーニングガイドライン、不適切使用に伴う記録管理リスクを軽減するリソースについての文書を提出するために、30日間の猶予を与えています。Melvin氏は、CBPが2022年12月に書簡への最初の返答を行ったとしているものの、すべての情報をNARAに提供したわけではなく、依然としてこの書簡は解決されていないとのこと。
アメリカ政府機関や政治家によるメッセージングアプリの使用は以前にも問題となっており、過去にはメリーランド州知事のラリー・ホーガン氏がWickrを使用したことが問題視されたほか、CREWは2017年にホワイトハウスの職員が高度に暗号化され、メッセージが24時間で自動削除される「Confide」というメッセージングアプリを使ったことに関して訴訟を起こしています。
また、2021年9月には国土安全保障省の監察総監室(OIG)が発表した(PDFファイル)レポートで、CBPがアメリカやメキシコの当局者間で交わされたWhatsAppのメッセージを一貫して保存していなかったことが指摘されています。OIGはCBPに対し、WhatsAppの使用を中止するか記録保持法に準拠していることを確認するように勧告しましたが、CBPは依然としてこれに対応していないとのことです。
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