ロシアはどのようにしてウクライナ東部とクリミア半島のインターネットを乗っ取ったのか?
ウクライナとロシアの間では、2014年からウクライナ南部のクリミア半島と東部のドンバス地方をめぐる対立であるクリミア危機・ウクライナ東部紛争が発生しており、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻した際には両地域がロシアに実効支配されている状況でした。ウクライナのこれらの地域では、現実世界だけでなくサイバースペースの分野でもロシアによる支配が進められていたと、データセンターに関する情報を専門とするニュースサイト・Data Center Dynamicsが報じています。
How Russia took over the Internet in Crimea and Eastern Ukraine - DCD
https://www.datacenterdynamics.com/en/analysis/how-russia-took-over-the-internet-in-crimea-and-eastern-ukraine/
Data Center Dynamicsによると、2014年にロシアに編入されたクリミア半島のインターネットでは、次の3つの変化が起きたとのこと。1つ目は、ウクライナの通信事業者が撤退し始めたことです。ある通信事業者は自ら当該地域の資産を売却して撤退し、また別の企業は武力によって強制的に事業の継続ができなくなりました。
2つ目の変化は、ウクライナ本土との直接的な接続が妨害され始めたこと。そして、3つ目はロシアの通信事業者であるRostelecomが、クリミアに110Gbpsの海底ケーブルである「ケルチ海峡ケーブル」を敷設したことです。
ウクライナの通信事業者がいなくなった上にウクライナ本土との接続が不安定になり、代わりに海底ケーブルとしては通信容量が少ないケルチ海峡ケーブルが使われるようになったことで、ウクライナのインターネットユーザーは通信速度の遅さに悩まされるようになります。
その後、2017年には十分な性能の海底ケーブルが整備されましたが、クリミア半島のネットワークは依然としてウクライナのインフラに依存していました。しかし、2017年の半ばになると、ウクライナ本土のISPに対してクリミア半島へのトラフィック提供を停止するようにとの圧力がかかりはじめ、次第にウクライナ本土ではなくロシアを経由するルートでデータがやりとりされるようになりました。こうして、クリミア半島のインターネットは物理的にもシステム的にもロシアの支配下に置かれるようになったとのことです。
ウクライナ東部では、より複雑で不透明なプロセスでウクライナからの分離が進められました。そもそも、ウクライナは1991年に独立するまではソビエト連邦の一部だったという歴史的な経緯もあり、この地域では以前から非常に密接にウクライナのインターネットとロシアのインターネットが混在していたとのこと。
しかも、ロシアはこの地域での問題はあくまでウクライナの国内紛争と主張しており、介入も否定していて情報を公開しないため、この地域のネットワークに何が起きたのかもはっきり分かっていません。
しかし、この地域とウクライナの間の直接的な通信が2014年以降激減しているのは各種データから明らかだと、Data Center Dynamicsの取材を受けたネットワーク研究者のLouis Pétiniaud氏は指摘しています。
調査によると、ウクライナ東部ではデータがポーランドやチェコ、ドイツなどを経由するようになり、通信の遅延が大きくなりました。その一方、親ロシア勢力が使用するインターネットはデータが直接ロシアとやりとりされるので、通信は高速です。
そのため、Pétiniaud氏は「ウクライナ東部では、接続性によってロシアがインターネットを支配しています」と述べて、ロシアはウクライナ東部でのインターネット速度を大きく落とすことで、間接的に自陣営のインターネットに依存するよう仕向けたのではないかとの見方を示しました。ただし、前述の理由でウクライナ東部のインターネットの接続性が悪化したのがロシアによる意図的なものなのか、それとも別の事情によるものなのか分からないため、断言はできないとのことです。
いずれにせよ、もしウクライナがロシアに占領されれば、インターネットの通信速度は遅くなり通信費はかさむようになるとData Center Dynamicsは指摘しています。より深刻なことに、ロシアがウクライナのインターネットを掌握することで、ウクライナの人々のデータもロシアに管理されるようになり、監視や検閲の危険性も増大します。
Data Center Dynamicsは「インターネットが将来どうなるかという話題は、今まさに身の危険に脅かされているウクライナの人々にとっては遠い話のように聞こえると思います。しかし、この戦争がもしロシアによるウクライナの永続的な占領といった事態に発展するような場合を考えると、被占領地域の人々のインターネットアクセスがどのようになるのかを理解するのはとても大切なことなのです」と述べました。
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