中絶反対派でも親しい人の中絶は支持するとの調査結果
アメリカで実施された調査により、道徳的な観点から人工妊娠中絶に反対している人の多くが、友人や家族の中絶は応援するつもりだと考えていることが分かりました。研究者は、今回の調査で判明した主張と行動の不一致を「discordant benevolence(ふぞろいな博愛)」と呼んでいます。
Discordant benevolence: How and why people help others in the face of conflicting values
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abj5851
Large Numbers of Americans Morally Opposed to Abortion Would Still Help Friend or Family Member Seeking One
https://www.nyu.edu/about/news-publications/news/2022/february/large-numbers-of-americans-morally-opposed-to-abortion-would-sti.html
Nearly 50% of Anti-Abortion Americans Would Still Help a Loved One Arrange It
https://www.sciencealert.com/almost-half-of-anti-abortion-americans-would-still-help-friends-and-family-seeking-one
アメリカのテキサス州では2021年9月に、妊娠6週目以降の中絶を禁じる州法である「ハートビート法」が施行されました。中絶手術を担当した医師や、妊婦に中絶を勧めた人などの「妊娠をほう助した者」に対する民事訴訟を可能にしたこの法律は、バイデン大統領が「女性が安全に中絶を受ける権利の侵害であり憲法違反の疑いがある」との見方を示すなど、物議を醸しています。
テキサス州が妊娠6週目以降の「中絶」を禁止、全米で民事訴訟の嵐が巻き起こる可能性 - GIGAZINE
中絶に関する議論の高まりを受けて、ニューヨーク大学の社会学者であるサラ・コーワン教授らの研究チームは、テキサス州議会でハートビート法が可決された後に実施された2018年の世論調査のデータと、2019年の中絶に関する意識調査で聴取された74件のインタビュー記録を精査する研究を行いました。
その結果、道徳的な観点から中絶に反対している人のうち、76%が妊婦に精神的なサポートを提供すると回答していたことが分かりました。なお、妊婦を精神的に応援すると回答した人の割合は、中絶に反対していない、もしくは状況次第だと表明している人では96%だったとのこと。
具体的にどこまで支援するかは中絶に対する意見により大きく変動しました。中絶に反対していない人では、友だちや家族の中絶費用を肩代わりすると答えた人の割合は54%でしたが、中絶反対派では6%しかいなかったとのこと。また、「病院まで車で送る」といった比較的小さな支援を行う人の割合は中絶に反対していない人では91%だったのに対し、中絶反対派では40%でした。なお、アメリカでの人工妊娠中絶手術にかかる費用は、妊娠初期の段階で一般的に500ドル(約5万7000円)前後とされています。
この結果についてコーワン教授は「道徳から中絶に反対している人も含め、多くの人は親しい友人や家族が合法的に中絶することを望んでいるか、または実際に手助けをしたことがあるようです。中絶に反対しながら身近な人の中絶を支援するのは、一見すると偽善者のように見えますが、実際にはそうではありません。彼らは、中絶に反対する気持ちと、自分にとって大切な人を助けたいという気持ちの間で板挟みになっているのです」とコメントしました。
研究チームによると、中絶に反対している人が親しい人の中絶を支援する際の理由付けは、次の3つに分類されるとのこと。
◆同情
中絶反対派が中絶を決意した友人や家族を支援する第1の動機は、同情心です。例えば、前述のインタビューに応えたある女性は、「高校時代に、乱暴な義理の父親を持つ友だちがいました。その子は私に、『妊娠がバレたら殺されるから中絶する』と言いました。私は『中絶なんかしないで。なんなら私が代わりに育てるよ』と言いましたが、その子は『そういう問題じゃない。妊娠がバレた瞬間死んでしまう』と答えました」と証言しています。
アメリカでは、中絶に反対することを「命を守る(プロライフ)」と言いますが、この女性は中絶しなければ命の危機にさらされる友人との会話から「『命を守る』ということは『女性の命を守る』ことでもある」と考えるようになったとのことです。
◆免除
2つ目は「免除」で、これは中絶を間違った考えであるとしながらも、自分の親しい人に対してのみ例外的に認めるというものです。例えば、ある男性はインタビューの中で、交際中の女性が妊娠した際のことについて「中絶に反対している立場でありながら喜んで中絶を支援しました」と回答しました。また別の女性は「自分の娘が中絶すると言ったら『それは間違ってる』と言いますが、彼女を愛しているので必要なことならなんでもします」と話したほか、さらに別の女性は「もし、孫娘が健康上の深刻な問題を抱えていると診断された赤ちゃんを身ごもったと分かったら、妊娠を継続するように言うのはとても難しいです。なぜなら、孫娘を助けたいからです」と話しました。
◆裁量
3つ目の「裁量」は、中絶に反対しつつも中絶をする本人の個人的な意思決定、つまり裁量を尊重するという立場です。例えば、ある女性は近親相姦やレイプによる妊娠、あるいは健康上の理由でもない限り中絶をすべきではないとの立場ですが、未婚の息子のパートナーが妊娠したと知った際には、パートナーの女性と会って「私はおなかの赤ちゃんのおばあちゃんよ。赤ちゃんのためならなんでもする。でも中絶費用も出すし養子縁組だって手伝う。あなたがどうするつもりであろうと、私はあなたを助けるということを知っておいてね」と申し出たとのこと。
女性は、息子のパートナーが妊娠の継続を選んだと知った際には「ほっとした」と認めた上で、もし中絶費用を出して欲しいと言われたら出したはずだと話しました。
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in メモ, Posted by log1l_ks
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