受精後約18週目の胎児を鮮明に写した作品「Foetus 18 Weeks」はどのようにして撮影されたのか?
1960年代に撮影され雑誌表紙を飾った写真「Foetus 18 Weeks」は、受精後約18週目の胎児を写真に収めた作品で、まるで人間の体内に入って撮影されたかのような美しさです。「Foetus 18 Weeks」がどのように撮影され、どのような評価を受けたかを、フリーライターであるシャーロット・ヤンセン氏がまとめています。
Foetus 18 Weeks: the greatest photograph of the 20th century? | Art and design | The Guardian
https://www.theguardian.com/artanddesign/2019/nov/18/foetus-images-lennart-nilsson-photojournalist
アメリカで発行されていた雑誌「LIFE」で最も売り上げが高かったのは1965年4月に発行された「Foetus 18 Weeks」が表紙を飾ったものでした。スウェーデンの写真家、レナート・ニルソン氏によって撮影された胎児は、羊膜嚢に包まれ臍帯が胎盤につながっています。黒い背景には星のようなものがちりばめられ、まるで胎児が宇宙に浮かんでいるかのようです。
「Fetus 18 Weeks」は、2019年では不可能と思われる特殊な方法で撮影されています。1960年代の病院では、胎児の撮影は一般的ではなく、1956年に臨床試験で初めて導入された超音波検査による写真は画質が悪かったため、ニルソン氏が思い描く写真は撮れませんでした。そこで、ニルソン氏はドイツの内視鏡専門家であるカール・ストルツ氏とユングナー・オプティスカ氏に協力を仰ぎ、両者の手によって、女性の体内に挿入するためのマクロレンズと広角光学系を備えた内視鏡カメラが作成されました。
ニルソン氏は内視鏡カメラを使って子宮内にいる胎児の撮影を開始しました。しかし、胎児の大きさによっては全体像を撮影するのが難しかったため、最終的には流産した胎児を撮影することになりました。
ニルソン氏はストックホルムのサバツバーグ病院にある女性クリニックの所長、アクセル・インゲルマン・サンドバーグ氏と密接に連絡を取り合い、1958年から約7年間、Hasselbladのカメラで胎児の写真を数百枚撮影しました。撮影可能な胎児、または胚が準備できたとき、すぐに病院からニルソン氏に連絡が届きました。撮影は胎児が摘出されてから数時間以内に行う必要があったそうです。
ニルソン氏は病院内にスタジオを設置し、流産した胎児を特殊な液体で満たした水槽に入れて撮影を行いました。水槽内に入れられたものは宙に浮かんで見えるようになります。ニルソン氏は、精子の着床から最大6ヶ月までのさまざまな段階の胎児を撮影し、生命の誕生を時系列で追える写真を作成しました。
「以下の写真に写っているのが撮影中のニルソン氏。
ニルソン氏によって撮影された写真は「A Child Is Born」というタイトルで出版されています。通常では見ることのできない体内での変化を写した「A Child Is Born」は多くの人に愛され、20か国以上で翻訳、出版されました。
ニルソン氏の継娘であるアン・フェイルストローム氏は「ニルソンは、目に見えないものを目に見えるようにしたかったのです。そして、すべての人間を結びつける『驚くべき旅』を見せてくれました。彼は人々に人間の内側を見せ、人間を人間と定義する写真を見る機会を与えたかったのでしょう」と語っています。
LIFEの表紙とA Child is Bornの成功を経て、ニルソン氏は世界的に有名になりました。しかし、1960年代後半からアメリカでウーマンリブ運動が拡大し、生殖権に関する議論が激化するにつれ、ニルソン氏が撮影した写真は激しく批判されるようになりました。しかし、ニルソン氏はスウェーデンで生活していたため、自身の写真が批判されている事実を知りませんでした。
世間の批判をニルソン氏が知ったのは1980年代のことでした。ロンドン旅行中、中絶反対のポスターに自身の写真が盗用されているのを発見したニルソン氏は、世間からの批判を初めて認識し深くショックを受けたようです。ニルソン氏はポスターの作成者に、写真の無断使用をやめるよう訴えました。しかしアイルランドやアメリカといった、世界各地にポスターが出回っており、盗用されてしまった写真を完全に差し止めることはできませんでした。
ニルソン氏は2017年に94歳で亡くなる直前に、自身の死後も人々が写真を見られるようにと、白黒に加工した胎児の写真を博物館や公共施設に寄贈しています。また、ニルソン氏の公式サイトでも、ニルソン氏が撮影した胎児の写真を見ることができます。
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