90%以上の効果を持つHIV予防薬「ツルバダ」による暴露前予防投薬の問題とは?

By Michael Chen

HIV・エイズは世界中で日々感染者が増え続けていますが、自然治癒することがなく治療薬の開発も難しいため「不治の病」として知られています。そんなHIV感染を、毎日1錠の予防薬を服用することで事前に防止することを「PrEP(暴露前予防投薬)」と呼び、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が推奨していますが、2014年5月にCDCが内科医向けにHIVを90%以上予防するFDA承認薬「ツルバダ」を使った「PrEPのガイドライン」を発表したことで、PrEPに関してさまざまな問題点が浮き上がっています。

This pill could stop 90 percent of HIV cases in the US | The Verge
http://www.theverge.com/2014/5/19/5729694/us-backing-truvada-prevent-spread-hiv

ツルバダは2012年にFDAが承認した、1日1錠服用することでHIV感染を90%以上予防できる青色の錠剤のHIV予防薬です。年間費用は1万3000ドル(約131万6000円)と高額ですが、アメリカでは保険によってほとんどをカバーできるとのこと。ツルバダによるPrEPは、根本的な解決にならないことや、非感染者が予防のために服用する副作用リスクや、かえって性病リスクが高まるといった可能性が指摘されていましたが、2014年5月にアメリカ政府が医療機関向けに「ツルバダを使ったPrEPのガイドライン」を発表したことが話題になっています。

ツルバダのPrEPを約1年前から行っているのが、アダルト映画監督でゲイ・ポルノ俳優でもあるマイケル・ルーカス氏(42歳)。副作用の危険性を知りつつも、「HIV感染に恐怖しながら生きるよりはマシだよ」と語ります。同性間性交渉が行われるゲイ・コミュニティではHIV感染率が高い傾向がありますが、その中においてルーカス氏はHIV陰性を保っています。

By torbakhopper

アメリカ各紙はツルバダによる暴露前予防投薬について「投薬がエイズ予防法を変える」という風に報道していますが、Slateが「奇跡の薬」と表現するなど、「治療薬」と誤解を招く表現も使われています。

By Pelle Sten

同性愛者のクリニックとして知られるカレン・ロード医療センターのJay Laudato局長は、「私たちはツルバダの効力を理解していますが、ようやく実証されたのです。しかし政府の発表には『どのように生活に組み入れるのか?』ということが書かれておらず、ゾッとしました」と話します。医療センターに通うホームレスの子どもたちの多くは売春で生計を立てていますが、「彼らのような立場の人々にツルバダを処方するべきなのか?」「医療従事者たちはどのように説明して処方するべきなのか?」と、局長はHIV感染の集中する地域で単にPrEPのためにツルバダを処方することに疑問を呈しています。

By Kelly Short

HIV害縮小カウンセラーの肩書きを持つエマ・クレアさんもLaudato局長と同様の意見を持っており、「PrEPは有力な選択肢ですが、HIVの解決策ではありません」と話し、HIV・エイズ・性病などに関する教育を最優先させることが重要であることを主張しています。ルーカス氏もエイズ教育の推進に関して同意していますが、「ゲイは一夫多妻制ではありません。ツルバダを服用している人は最も信頼できる人です」とツルバダの効力に重点を置いています。

By Roel Wijnants

こういった疑問が生まれるのは、PrEPの効果が非常に限定的であるためです。AIDS Healthcare財団のマイケル・ウェインステイン氏も政府の決定に対する声明を発表し、「政府によるPrEPの推奨は、コンドームの不着用につながるでしょう」と批判。ツルバダはHIV感染予防に対して効果的ですが、梅毒・淋病などの感染リスクは変わらないため、コンドームの着用を継続する必要があると主張しています。また、経口避妊薬(ピル)の保険補償を得るために奮闘している映画監督のローレライ・リーさんも、「HIV予防薬は人々の性病リスクの上昇をもたらすばかりか、ピルと同じモラルの問題も発生します」と、激怒してThe Vergeにメールを送りました。

By darwin Bell

コンドームの着用率に影響を与えるという議論の中で、ルーカス氏は「若い世代はエイズが『死の病』だった時代を知らず、コンドーム着用率は減少しており、毎年アメリカでは5万例のHIV感染が起こっています。ゲイ男性の中にはもともとコンドームを着用しない人々がいるため、ツルバダの使用を差し控えるような議論は、命を奪う犯罪と言っても過言ではないと考えています」と話します。ツルバダはあくまでワクチンではなく「予防薬」ですが、最近の研究によるとHIVを99%予防できるという結果も出ています。また副作用に関して、グラッドストーン研究所のエイズ研究者ロバート・グラント氏によると「10人中1人は副作用として吐き気・けいれんを経験し、200分の1の確率で腎機能に変質をもたらすため、定期的な血液検査が必要となります」と話しています。

HIVを高確率で予防できるツルバダは、HIVだけに限れば完治方法のないウイルス感染を効果的に防ぐことができるわけですが、使用することによるコンドーム着用率への影響などがあるため、一概に「夢の予防薬」というわけではありません。ルーカス氏は「ツルバダを最大限に活用できる方法を探求する必要があります」と話しています。

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