サイエンス

栄養バランスの悪い食事が「味の好み」を変える可能性が示される


人の味覚は食べるものの好みに影響を及ぼしますが、必ずしも味覚は不変のものではなく、年齢やその時の体調によって好みが変わることがあります。新たな研究では、「直前に食べた食事に含まれる栄養素の偏り」が、味覚を変化させる可能性が示されました。

Dietary Macronutrient Imbalances Lead to Compensatory Changes in Peripheral Taste via Independent Signaling Pathways | Journal of Neuroscience
https://www.jneurosci.org/content/41/50/10222

How diet influences taste sensitivity and preference | News
https://news.ucr.edu/articles/2021/12/15/how-diet-influences-taste-sensitivity-and-preference

動物が健康的な肉体を維持するためには、炭水化物やタンパク質といった栄養素を最適な量とバランスで摂取することが重要であり、不均衡な栄養素の摂取は健康を害することがあります。生存に砂糖やアミノ酸が必要なハエは、これらの栄養素を感知するために味覚システムを利用して食事をとっているとのこと。


そこでカリフォルニア大学リバーサイド校の研究チームは、ミバエを対象にして「直前の食事が味覚に影響を及ぼすのかどうか」を調べる実験を行いました。研究チームは「栄養素のバランスが取れた食事」「砂糖が少なくタンパク質が多い食事」「砂糖が多くタンパク質が少ない食事」の3パターンを用意し、これらの食事の総カロリー量がほぼ均一であることを確認した上でハエに与え、1週間にわたって食事の好みをテストしました。

すると、食べた餌の種類によってハエの味覚が変化することが判明しました。カリフォルニア大学で分子・細胞・システム生物学の准教授を務めるAnupama Dahanukar氏は、「私たちは餌によってハエの味の好みが変化することを発見しました。砂糖が少なくタンパク質が過剰な餌を食べると、バランスが取れた餌を食べるためにハエの味覚感受性が変化して、短期的にはより砂糖を多く、タンパク質を少なく食べるという代償行動を取るようになったのです」と述べています。


研究チームによると、餌がハエの脳内におけるドーパミンインスリンのシグナル伝達に影響を及ぼし、外部刺激の検出に関与するニューロンからなる感覚反応を変化させているとのこと。論文の筆頭著者であるAnindya Ganguly氏は、「たった1日か2日の食事に基づいてハエに変化が現れます」と述べています。

また、ハエにおける味覚の変化は遺伝子発現によってコントロールされているそうで、RNAシーケンスによる遺伝子発現量の解析結果から、砂糖の少ない餌を食べた時には「Dop2R」という遺伝子の発現で砂糖への選好が強化され、同時にアミノ酸に対する行動感受性が低下することが判明しています。一方で、砂糖が豊富な餌を食べた時には「Dilp 5」と呼ばれる遺伝子の発現によって、砂糖への選好が低下することが示されたとのこと。

興味深いことに、栄養バランスの悪い餌を与えられたハエの味覚が変化した後で、餌の栄養バランスを正常に戻したところ、味覚の感度は元に戻ったそうです。このことから、味覚の好みには可塑性があることがわかったと研究チームは述べています。

研究チームは今回の研究結果から、食事の栄養バランスが崩れると不足した栄養素を好む方向に味覚が変化し、少なくとも短期的には栄養バランスを正常に戻そうとすると主張。一方で、「砂糖の多い餌で育てたハエは短期的に砂糖への選好が低下したものの、栄養バランスが崩れた餌を与え続けると、長期的にはより砂糖を多く消費するようになる」との研究結果もあることから、味覚と栄養素の関係はもっと複雑かもしれないとのことです。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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