地域の経済状況と住民のメンタルヘルスには密接な関連があるという研究結果

これまでの研究では経済状況がメンタルヘルスと密接に関わっていることがわかっており、収入が増えるとメンタルヘルスが改善されることなども報告されています。アメリカで実施された新たな研究では、その地域の経済状況が住民のメンタルヘルスと密接に関連しているとの結果が示されました。
Economic factors associated with county-level mental health – United States, 2019 | PLOS One
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0300939
Is bad mental health an economic problem at its core?
https://www.psypost.org/county-level-wealth-and-wages-are-strongly-linked-to-community-mental-health/
世界中で大勢の人々がうつ病などの精神疾患に苦しんでおり、疾患としての診断が下されていない状態でもストレスは心身に悪影響を及ぼし、慢性疾患のリスクを高めます。また、メンタルヘルスの悪化は生産性の低下や治療費の増加などを引き起こし、国家の経済にも多大な負担をかけています。
近年の公衆衛生の専門家らは、人々の健康状態を社会生態学的な観点から捉える傾向を強めているとのこと。これは、人々の健康は個人の生物学的要因に加え、地域社会のリソースや国家政策といった複数の環境的な要因も重なり合ったものと見なす考え方です。このモデルにおいて、経済的安定と雇用状況は健康を形作る主要な環境因子となります。
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の研究員であるミシェル・ボルダック氏らの研究チームは、メンタルヘルスに影響を与える経済的要因を明らかにするため、2019年のデータを用いてアメリカの郡レベルのメンタルヘルスの悪化と経済的要因との関連を分析しました。
研究チームが調査した変数には失業率やリモートワーカーの割合、平均通勤時間、住宅価格の中央値などが含まれており、これは地域社会の幅広い財政特性を網羅していました。また、地域における所得格差の指標である公的医療保険の普及率や連邦政府の食料支援を受けている住民の割合についても調査しました。
そして、人々のメンタルヘルスを測定する指標としては、全国的な行動調査から得られた人口推計値が用いられました。被験者らは過去1カ月間でストレスや抑うつ症状、感情的な問題などの精神的不調を覚えた日数を報告し、研究チームは1カ月間に14日以上精神的に不調だった被験者の割合を追跡したとのこと。

分析の結果、郡レベルでのメンタルヘルスに問題を抱える人の割合は平均16%で、地域別に見るとアパラチア山脈の付近や深南部(ディープサウス)、南西部の一部で特に高いことが判明。中西部や北部では心理的苦痛を抱える人の割合が比較的少なかったそうです。
そして、研究チームがドミナンス分析(dominance analysis)と呼ばれる統計的手法で変数を評価したところ、郡ごとにみられるメンタルヘルス悪化率のばらつきのうち、約70%は経済的な変数によって説明できることが示されました。
特に際立っていた経済的要因は、「世帯収入の中央値」「連邦政府の障害者給付金に頼っている住民の割合」「大学の学位を持つ人の割合」「連邦政府の食料支援を利用している世帯の割合」の4つでした。
このうち最も影響力が強かったのは「世帯収入の中央値」であり、収入の中央値が高いほどメンタルヘルスの状態がいいという結果が一貫して観察されました。経済的な余裕がある場合、安全な環境である家を確保したり、栄養価の高い食品を購入したり、物質的な困窮によるストレスを抱えずに済んだりすることが、この結果に影響していると考えられます。
学歴も顕著な保護因子としての関連性を示しており、大学卒業者の割合が高い郡では、住民のメンタルヘルスがはるかに良好であることが報告されています。心理学系メディアのPsyPostは、「高度な教育は一般的に、より良い賃金と医療給付のある仕事への道を開くだけでなく、精神的な苦痛を和らげるのに役立つ可能性のある社会的なネットワークを拡大します」と指摘しました。

他にも、地域ごとの職場環境の特性も調査結果に影響することがわかりました。リモートワーカーの割合が高い地域では、メンタルヘルスの悪化率が低かったとのことで、これはリモートワークによって快適な環境にいられる時間が増え、家族や自分のための時間を持ちやすかったことを反映している可能性があります。その逆に、平均通勤時間が長いほどメンタルヘルスが悪化する割合が高かったそうで、これは長時間通勤がリラックスしたり人と交流したりする時間を奪っているためとみられます。
都市部と農村部でも違いがみられ、都市部では住宅価格が高いほど住民のメンタルヘルスが良好だという相関関係がありました。この結果については、高級住宅街には公園が豊富にあり、レクリエーション施設が整備され、質の高い医療サービスが提供されていることが多いためと考えられます。
研究チームは、国民のメンタルヘルス危機を解決する上で、個人的要因の改善に頼るだけでは不十分だと指摘。今回の研究結果は、体系的な経済改革が心理的幸福の向上に非常に効果的である可能性を示唆しています。つまり、「教育へのアクセスを拡大する」「最低賃金を引き上げる」といった社会的な改善策が、国民のメンタルヘルスに大きな恩恵をもたらす可能性があるというわけです。
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