メモリの価格高騰がメモリの購入者であるAppleにとってむしろ有利に働く理由

スマートフォンやPCなどの製造原価に占めるメモリの割合が大きくなれば、iPhone、Mac、iPadの利益率は下がりやすくなるため、メモリ価格の急騰はAppleにとって大きな逆風に見えます。しかし、Apple専門の分析企業Asymcoのホレス・デディウ氏は、2026年の「メモリ・パニック」はAppleにとってむしろ有利に働く可能性があると指摘しています。
The great memory panic of 2026 – Asymco
https://asymco.com/2026/05/11/the-great-memory-panic-of-2026/

ポイントになるのは、Appleが単なる「メモリを買う企業」ではなく、「数億台規模の製品を長期計画で作る企業」だという点です。Apple製品はiPhoneだけでなく、Mac、iPad、Apple Watch、Vision Proなどもメモリを必要とします。数億台規模で製品を販売するAppleは、部品メーカーにとって非常に大きな顧客であり、部品メーカーはApple向けの供給を前提に生産計画を立てたり、設備投資のための資金調達を行ったりできます。
半導体やメモリの供給は、急に注文して翌月に大量入荷できるようなものではありません。工場の生産能力、原材料、装置、資金、人員などを何年も前から調整する必要があります。そのため、Appleのように長期的に大量購入してくれる顧客は、メモリメーカーにとって「価格交渉で強く出にくい相手」になります。
デディウ氏によると、現在大きく騒がれているメモリ価格の高騰は、主に「追加で急に必要になった分」の価格で起きているとのこと。つまり、以前から契約されている基礎的な供給分ではなく、「来月追加でメモリが欲しい」といった短期需要に対する価格が急騰しているというわけです。

ここで重要になるのが、「基礎供給」と「追加供給」の違いです。基礎供給とは、Appleのような大口顧客が長期契約や長期計画に基づいて確保している分です。一方、追加供給とは、需要が急に増えた企業が市場からかき集める分に近いものです。メモリ不足の局面で激しく値上がりしやすいのは、後者の追加供給です。
Appleは主に基礎供給を交渉する企業です。つまり、短期的に高騰した市場価格をそのまま受け入れて、毎月その場でメモリを買う立場ではありません。もちろん、メモリ価格の高騰が長く続けば、やがて基礎供給の価格にも影響が及びます。メモリメーカーも「2年後の契約であっても、ほかの企業から高い需要が見込めるなら値上げしたい」と考えるためです。
しかし、Appleには別の交渉材料があります。Appleはメモリメーカーに対して、「今だけ高い価格を取るなら、メモリ市況が落ち着いた後にAppleとの取引がどうなるか分からない」と示唆できます。半導体市場は好況と不況を繰り返す景気循環の強い市場であり、メモリメーカー側も現在の高騰が永遠に続くとは考えていない可能性が高いわけです。

つまり、メモリメーカーにとっては、短期的に高値で売る利益と、Appleという巨大顧客との長期取引を守る利益を比較する必要があります。短期的な高騰局面だけを見ればメモリメーカーが強く見えますが、数年単位で見るとAppleの購買力と継続発注力が大きな武器になるという構図です。
さらに、メモリ不足はApple以外のスマートフォンメーカーにとって、より深刻な問題になり得ます。Appleほどの購入規模や資金力を持たないメーカーは、必要なメモリを十分に確保できなかったり、高騰した価格でメモリを買わざるを得なかったりします。結果として、製品の製造原価が上がり、利益率が急速に悪化する可能性があります。
Appleは、ほかのメーカーよりも大きな資金力を使ってメモリ供給を確保できます。仮にAppleの利益率が一時的に下がったとしても、競合メーカーがさらに大きな打撃を受ければ、市場シェアの面ではAppleに有利に働きます。デディウ氏は、Appleがメモリを大量に押さえることで、競合他社が必要なメモリを入手できなくなる可能性にも言及しています。
この場合、Appleは利益率を少し犠牲にしてでも、製品を安定供給できます。一方で、競合メーカーはメモリ不足や原価上昇により、製品価格を上げるか、利益を削るか、出荷台数を減らすかの選択を迫られます。Appleにとっては、部品価格の高騰が単なるコスト増ではなく、競合他社を弱らせる環境にもなるというわけです。
デディウ氏は、Appleの粗利益率が49%から45%に下がったとしても、Appleにとっては耐えられる範囲だと見ています。45%という水準は過去のAppleにとって極端に低い数字ではなく、むしろ競合他社が同じ状況に耐えられるかどうかが重要になります。
さらにデディウ氏は、Appleが将来的に低価格帯のiPhoneで攻勢に出る可能性にも触れています。仮にAppleが現在の高性能iPhoneに匹敵する体験を499ドル(約8万円)前後の製品で提供できれば、800ドル(約13万円)級の端末でさえ利益を出しにくくなっている競合メーカーにとって大きな脅威になります。なお、この低価格戦略についてはデディウ氏自身も推測として述べており、Appleが正式に発表した計画ではありません。

Appleは過去にも、大量調達とサプライチェーン支配力を使って競争優位を築いてきました。iPod時代には小型ハードディスクの供給網に大きな影響を与え、Macのアルミ製ボディでは加工機械を大量に確保したとされています。メモリ価格高騰でも、同じように供給網を押さえる能力がAppleの強みになる可能性があります。
つまり、メモリ価格の高騰はAppleの製造原価を押し上げる一方で、Appleの規模、資金力、長期契約、サプライチェーン管理能力をより際立たせる要因にもなります。小規模メーカーにとっては「買えない」「高すぎる」という問題でも、Appleにとっては「競合より先に確保する」「一時的な利益率低下を受け入れて市場シェアを伸ばす」という戦略に変えられる可能性があるとのこと。
メモリ価格の高騰は、短期的にはAppleの利益率を圧迫する材料です。しかし、デディウ氏は、部品不足と価格高騰が長引いた場合、より苦しくなるのはAppleではなく、Appleほどの規模と資金力を持たない競合メーカーだと述べています。つまりに、メモリ・パニックはAppleにとって単なる危機ではなく、サプライチェーンの強さを市場シェア拡大につなげる機会にもなり得るというわけです。
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in ハードウェア, Posted by log1d_ts
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