「動画に合わせてBGMを自動調整」「写真を撮影した季節や時間の変更」など超絶便利な機能を生み出すAdobeのAI「Adobe Sensei」はクリエイターの役割をどう変えていくのか?
PhotoshopやIllustratorといったクリエイター向けソフトウェアを開発するAdobeは、「画像の中の被写体を自動選択してくれる機能」や「音声を自動で文字おこししてくれる機能」といった超絶便利な機能を独自開発AI「Adobe Sensei」で実現しています。まるで魔法のような機能を生み出すAdobe Senseiのエンジニアリング担当ヴァイスプレジデントであるスコット・プレヴォスト氏にインタビューする機会が得られたので、Adobe Senseiによって未来のクリエイターの役割がどう変化していくのかを聞いてみました。
Adobe MAX 2021 | クリエイティブカンファレンス
https://www.adobe.com/jp/max.html
Adobe MAX 2021 | The Creativity Conference
https://www.adobe.com/max.html
GIGAZINE(以下、G):
2021年のAdobe MAXでは、動画編集ソフトであるAdobe Premiere Proパブリックベータ版の新機能として「BGMをムービーに合わせた長さに違和感なくトリミングしてくれる」というリミックス機能が発表されました。この機能は、ムービー編集をしている人にとっては画期的な機能だと思います。私も普段、Premiere Proを使いながら「こんな機能あったらいいな」と思っていたのですが、逆に、なぜこれまでこのような機能は登場しなかったのでしょうか?
スコット・プレヴォスト氏(以下、プレヴォスト氏):
実装したい機能を実際にローンチするには数年間の時間が必要です。また、開発中の機能の中には実際に製品に搭載されるものもあれば、そうでないものあります。また機能を搭載するとなれば、当然のことながら高品質の機能としてユーザーに提供しなければなりません。さらに、Adobe SenseiにはAIに関する倫理的な問題が存在し、例えば「AIに何らかのバイアスがかからないようにテストを行う」といった行程も必要です。そのためラボでテストしている状態から実際に製品化するまで、ある程度の時間がかかるという事情があります。しかし、そういった状況下でも、できるだけはやく製品化することを目指して取り組んできました。
G:
スコット氏は、以前のセッションで「Adobe Senseiは手間のかかる単純作業を単純化してくれる」と話していました。一方で、今回のAdobe Maxで発表された景色を変える「風景ミキサー」や「音声をトリミングしてくれる機能」はクリエイティブな部分にまで関わる機能だと感じました。
風景ミキサーに関しては、以下の記事から詳細を確認可能です。
Photoshopが一瞬で複数のオブジェクトを自動選択してそれぞれレイヤー化してくれる超絶便利な新機能「オブジェクト選択ツール」はどんな感じなのか? - GIGAZINE
G:
このようなクリエイティブにかかわる作業をAdobe Senseiが担う機能が増えていくと、各クリエイターの個性といいますか、クリエイティビティに与える影響というのはどのようなっていくのですか?
プレヴォスト氏:
Adobe Senseiの機能は、「クリエイターのクリエイティビティを増幅させるもの」と言えます。多くの場合、クリエイターは複数のアイデアを持っており、それらのアイデアに対してさまざまなアプローチをとって、そこから最終的な成果物が生まれてきます。Adobe Senseiによってさまざまなタスクが自動化されるため、クリエイターが1つ1つのアイデアを、より幅広く探求できるようになります。その結果、クリエイティビティが増幅され、1人のクリエイターがまるでアートディレクターのような作業を行えるようになります。
もう1点付け足すと、Adobe Senseiを用いた検索機能の強化によって クリエイティブプロダクトに必要とされるさまざまなアセットを簡単に見つけることができるようになりましたので、画像検索を行うことで、作品を作るのに必要な素材をより簡単に集めることができるようになりました。
なお、Adobeが開発する画像検索のすさまじさは、2019年のインタビューでも語られています。
「画像検索はここまで来たのか」とすさまじさを実感するAdobeのAI「Adobe Sensei」の秘密を開発者が解説 - GIGAZINE
G:
Adobe Senseiの機能を活用することで、全てのクリエイターがディレクターのような役割を果たせるということですね。つまり、Adobeの想像する未来のクリエイターの姿というのは、「各クリエイターがディレクターのような形で1人で作品を完成させられる」というものなのでしょうか?
プレヴォスト氏:
Adobe Senseiの登場によって、以前よりも幅広い人々がクリエイティビティを発揮できるようになったと考えています。つまり、これまではクリエイティビティを発揮することができなかった人々でも美しい成果物を作り出すことができる。これはまさしくAdobeのミッションである「すべての人に『つくる力』を」の達成に近づいたと言えます。また、プロフェッショナルの方に向けては、Adobe Senseiを使うことで「スキルを高める」「探求を深める」「作業をスピードアップさせる」といったメリットを提供できると考えています。
1つ例を挙げますと、Adobe Lightroomに推奨プリセットという項目が追加されました。これは撮影した写真をコミュニティの他の写真と比較して、Adobe Senseiが適切なプリセットをオススメしてくれるというものです。推奨プリセットは、ユーザーがAdobe Senseiを通してコミュニティから学べるという例の1つです。この機能によってユーザーは「他の人が写真をどのように編集しているのか」を学ぶことができ、「もっと写真技術を上達させたいと考えているユーザー」は「写真のプロとして活動しているユーザー」から学ぶ機会を得ること可能です。Adobe Senseiは、ユーザーがコミュニティの英知から学ぶことを可能にしてくれるのです。
G:
Adobeの製品は世界中で使われており、多くの言語で利用できます。Adobe Senseiの開発、特に検索機能の開発において、英語以外の言語への対応時に困っている点や注している点があれば教えてください。
プレヴォスト氏:
Adobeは、検索機能を長年にわたって多言語対応で提供してきました。また、非英語圏のユーザーでも英単語を用いて検索するケースが非常に多いという現状があり、その結果クオリティの高い検索結果を得られるといった状況もあります。そういった中でディクショナリーを洗練して高品質な検索機能を非英語圏ユーザーにも届けられるように取り組んできました。そして特に最近の進展として、ディープラーニングで多言語モデルを構築して自然言語処理することが可能になりました。つまりディクショナリーを用いた翻訳ではなく多言語モデルによる翻訳が可能になったのです。
G:
Adobeは毎年完成度の高い機能を大量に新登場させています。なぜ、Adobeはこれほど素早く多くの機能を開発できるのですか?
プレヴォスト氏:
私たちは新機能開発のために非常に多くの取り組みを行っています。そして、さまざまな実験的取り組みを可能にするインフラがあります。さらに、アイデアの段階からローンチの段階にもっていく時間をスピードアップしているということも理由として挙げられます。
例えばAdobe Senseiの場合、単にモデルの構築ということだけではなく、インターフェースや、最終的に画面でみた際の見た目といった部分まで考える必要があります。つまり単純な機械学習モデルのトレーニングということだけでなく、ユーザーとのインタラクションがどうなっていくのかというところまで考える必要があるのです。この作業には時間がかかるのですが、私たちには非常に強力なプラットフォームがありますので、研究者・エンジニア・その他のメンバーが連携して、各メンバーが最高の能力を発揮することができています。これによって、非常に速いペースで毎年多くの機能を発表することができているのです。今年発表したAdobe Senseiの機能は、これまでの年よりも多い数になっています。
G:
本日はありがとうございました。
2021年のAdobe Maxで発表されたPhotoshopやPremiere ProといったAdobe製品の新機能は、以下のリンクから確認できます。
ブラウザ上でPhotoshopが利用可能になるウェブ版Photoshopの詳細とは?クリエイターの祭典「Adobe MAX 2021」で発表された新機能まとめ - GIGAZINE
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