サイエンス

人間は目的地まで「最短」とは異なる基準で経路を選んでいる可能性がある


2点間の最短距離が直線であることは知られていますが、現実には現在地と目的地を結ぶ直線道路があるわけではないので、建物や通行不可能なところを避けた経路を選ぶことになります。この経路選択において、人間は「最短経路」ではない別の指針を持っている可能性があることが研究により示されました。

Vector-based pedestrian navigation in cities | Nature Computational Science
https://doi.org/10.1038/s43588-021-00130-y

How the brain navigates cities | MIT News | Massachusetts Institute of Technology
https://news.mit.edu/2021/how-brain-navigates-cities-1018

マサチューセッツ工科大学のクリスチャン・ボンジョルノ氏らの研究チームは、1年間にわたり1万4000人以上の歩行者から収集した、55万件以上の歩行経路のデータセットを基に調査を行いました。その結果、歩行者の多くは最短経路を選択する代わりにチームが「最尖端経路(pointiest path)」と表現する、「なるべく目的地の方向を直接向いているようにみえる経路」を選択していることがわかったとのこと。

以下が、実際に確認された最短経路(青)と歩行者の経路(赤)を示した地図です。家のマーク(現在地)から旗のマーク(目的地)まで、歩行者は必ずしも最短経路を通るわけではないということが示されています。また、最短経路との距離差は目的地までの距離が遠くなるほど大きくなっていたとのこと。


加えて、人間は異なる2点間を往復する際、「非対称的な経路を通る」ということも分かっています。このことを示した地図が以下のもので、家のマークから旗のマークまでを行く経路(青)と、旗のマークから家のマークまでを行く経路(赤)が異なっていることが示されています。


ボンジョルノ氏らはこのような経路選択を「ベクトルベースの経路選択」と呼称しています。アルゴリズムで目的地までの最短経路をたたき出すコンピューターとは違い、人間は最短経路を完璧に把握することは困難です。ボンジョルノ氏らは「人間は基準点や目印、角度といった観点から経路を選択することは、空間を把握するための非常に自然な方法だと言える」と述べています。

このような経路選択は人間以外の動物でも見られるとのことで、ボンジョルノ氏らは「ベクトルベースの経路選択は最短経路を考えるよりも脳を使わないため、脳を他のことに使えるようにするためにこのように進化した可能性がある」と述べています。

研究に参加したカルロ・ラッティ氏は「スマートフォンが人間と人工知能を結び付けていくにつれ、我々の脳が行う計算メカニズムがコンピューターの計算メカニズムとどのように関連するかを理解することが、ますます重要になってくる」と述べました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1p_kr

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