自身に「生まれる前に消えた双子の兄妹」がいたか否かはDNAをチェックすることで確認できる
一卵性双生児は分裂して2つの胚を生み出す卵細胞に由来するものです。この2つの胚は発育過程で1つが消滅するケースがあり、その場合は1人の赤ん坊だけが生まれることとなります。この現象を「バニシングツイン」と呼ぶのですが、最新の研究によると、DNAには一卵性双生児として生まれた胚であるか否かを確認するための情報が記されており、自身に消えた双子の兄妹がいたかを確認することができるとのことです。
Identical twins carry a persistent epigenetic signature of early genome programming | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-021-25583-7
Did you share the womb with a 'vanishing twin'? The answer may be written in your DNA. | Live Science
https://www.livescience.com/identical-twins-unique-epigenetic-signature
2021年9月28日(火)に科学誌のNature Communicationsに掲載された最新の論文で、研究者たちは双子のDNAに見られるエピジェネティクス的な目印に着目しています。エピジェネティクスとは基礎となるDNA配列を変更せずに遺伝子のオンオフを切り替えることができる要因を指します。例えばエピジェネティクスのひとつであるメチル基は、特定の遺伝子にふせんのように付着し細胞がそれらの遺伝子を読み取ることを防ぎ、効果的に遺伝子をオフにすることが可能です。
この研究では、一卵性双生児のDNAには「粘着性のあるメチル基の特徴的なパターン」が存在することが発見されました。「粘着性のあるメチル基の特徴的なパターン」は834の遺伝子にまたがっており、一卵性双生児を二卵性双生児と非双生児の2つと区別するために使用されていることも明らかになっています。
さらに、研究チームはDNA全体のメチル基の位置のみに基づき、一卵性双生児を確実に識別することが可能なコンピューターアルゴリズムの開発にも成功しました。これにより、理論上は自身にバニシングツインで消えた兄妹がいるか否かを確認することができるとのこと。ただし、今回の研究ではこのバニシングツインに関する検証は行われていません。
科学メディアのLive Scienceは、同研究に関与していない識者からのコメントとして、ベイラー医科大学の小児科医であり遺伝学の教授でもあるロバート・ウォーターランド氏にインタビューを行っています。ウォーターランド氏は今回の論文で発見された「粘着性のあるメチル基の特徴的なパターン」について、「これは一卵性双生児における初期の胚発生プロセスの中で発生し残った一種の『分子瘢痕(はんこん)』です」と語っています。
メチル基でコーティングされた遺伝子は細胞の発達・成長・接着においてさまざまな役割を果たします。簡単に説明すると、細胞が互いにくっつくのを助けるとのこと。ただし、ウォーターランド氏は「研究結果から、メチル化遺伝子が特に一卵性双生児の成長・発達・健康にどのように影響するかは不明です」と語っています。
International Journal of Fertility and Sterilityが1990年に報告したレポートによると、人間の妊娠の推定12%は多胎妊娠として始まるものの、双子以上として子どもが誕生する確率は2%未満だそうです。つまり、残りの10%がいわゆるバニシングツインとなるわけです。なお、一般的に双子は一卵性双生児よりも二卵性双生児の方が多いといわれています。
二卵性双生児は2つの卵子を受精することで授かるものです。そのため、二卵性双生児には遺伝が影響しているという証拠が存在します。例えば、二卵性双生児は家系的に授かる可能性が示唆されており、過剰排卵に関する遺伝子が関係しているとする研究結果も公表されているそうです。
一方で、一卵性双生児が生まれる割合は世界的に見ても一定で、1000人に3~4人の割合で生まれると計算されています。そのため、一卵性双生児は遺伝が原因ではないと考えられてきました。そこで問題になってくるのが「一卵性双生児は何が原因で生じるのか?」という点。
一卵性双生児のDNAに存在する「粘着性のあるメチル基の特徴的なパターン」について報告した論文の筆頭著者であり、アムステルダム自由大学の生物倫理学部・助教授でもあるジェニー・ファン・ドンゲン氏は、一卵性双生児がどのように発生するのかをよりよく理解するために今回の調査を実施したと語っています。
研究チームは「一卵性双生児は何が原因で生じるのか?」を調査する上で、DNAを構成するメチル基にその秘密があるのではないかと考えました。メチル基は初期の段階で胚発生を制御するのを助ける役割を担います。また、メチルトランスフェラーゼと呼ばれる特殊なタンパク質のおかげで、発生過程にあるDNAに付加されたメチル基は、細胞が分裂し続ける間もコピーされ続け、大人になっても残っていることが明らかになりました。これが「粘着性のあるメチル基の特徴的なパターン」であるというわけです。
研究チームは6000人の一卵性双生児および二卵性双生児、さらに非双生児の血液サンプルあるいはDNAサンプルを分析し、論文を発表しています。また、分析調査のベースとなったデータセットには複数のタイミングで収集されたDNAサンプルも含まれているため、「粘着性のあるメチル基の特徴的なパターン」が時間が経過しても安定して確認できることも明らかになっています。
なお、今回の研究調査では「粘着性のあるメチル基の特徴的なパターン」により人体にどのような影響が生じるかまでは明らかになっていません。そのため、研究チームは実験用の動物細胞やヒト細胞を使用し、どのような影響が生じるかを研究することを計画しているそうです。
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