サイエンス

「なぜ双子が生まれるのか?」という進化のパズルをひもとく


双子が生まれることは子ども・母親の生存いずれにとってもリスクがあるため、自然選択説に沿って考えれば、双子が生まれる遺伝子は淘汰されていくはずです。しかし、二卵性双生児の発生は遺伝的要素がありながら淘汰されておらず、生物学的に矛盾が生じる事態になっています。このような矛盾がなぜ生まれるのか?という問いに、研究者が取り掛かりました。

An age-dependent ovulatory strategy explains the evolution of dizygotic twinning in humans | Nature Ecology & Evolution
https://www.nature.com/articles/s41559-020-1173-y

Not all twins are identical and that's been an evolutionary puzzle, until now
https://theconversation.com/not-all-twins-are-identical-and-thats-been-an-evolutionary-puzzle-until-now-138209

双子には、1つの受精卵が偶発的に2つに分裂したことで生まれる一卵性双生児と、異なる精子に受精した2つの受精卵から生まれる二卵性双生児が存在します。1970年代から研究者は、双子が生まれるのは偶然なのか、それとも自然淘汰によるものなのか、疑問を投げかけてきました。そして、これまでの研究の結果、1つの受精卵の分裂は遺伝性ではなく、一卵性双生児は生物学的に見て「偶然の産物」といえる一方で、二卵性双生児の発生は遺伝や母親の年齢に左右されるため、「偶然の産物」とは断言できないと考えられています。


一般的に、双子は一人で生まれた子どもに比べて幼児期に死亡するリスクが高く、また母親も双子の出産時に死亡するリスクが高くなります。ヒト以外の霊長類も一度に一人を出産することが多く、生物学的には双子を持つことはコストが高くつくと考えられますが、なぜか進化の上で双子の存在は取り除かれませんでした。

ただし過去の研究から、出生率の高い集団では、双子の母親は他の母親よりも人生の終わりまでに多くの子孫を持つ傾向にあることも示されています。つまり、一部の集団にとって双子を持つことは母親に進化上の利益をもたらすと言えるわけですが、人類にとって利益があるのであれば双子がもっと生まれてもいいはず。


このような進化の謎を解決するため、西オーストラリア大学の進化生物学准教授であるジョゼフ・トンキンズ氏ら研究チームはコンピューターシミュレーションを行いました。

研究チームはシミュレーションの中で、女性を「常に2つの卵子を排卵している」「途中で排卵する卵子が1つから2つに変化する」「常に1つの卵子を排卵している」という3タイプに分け、これにより子どもの生存率がどのように変化するかを観測しました。その結果、20代半ばで排卵する卵子が1つから2つになると、子どもの生存率が最大になることが判明しました。

以下のグラフは、左から「常に2つの卵子を排卵している」「25.5歳で排卵する卵子が1つから2つに変化する」「常に1つの卵子を排卵している」を示し、縦軸は母親1人あたりに対し15歳まで生存できる子どもの数を示します。常に1つの卵子を排卵する人の子どもの生存数は平均2.95人未満ですが、25.5歳で排卵する卵子が1つから2つに変化すると、3.15人を越えることが示されています。


ここから、自然淘汰により、加齢に伴い排卵が1つの卵子から2つの卵子に切り替わるという可能性が考えられるとのこと。女性の加齢により、受精卵が子どもとして生まれる確率は急激に落ちていくため、この切り替えが「子どもの生存」という観点から有利であるわけです。

しかし、2つの卵子を排卵することと、実際に双子を出産することの間には違いがあるとして、研究チームは「常に2つの卵子を排卵している」「途中で排卵する卵子が1つから2つに変化する」「常に1つの卵子を排卵している」という3タイプを、さらに「双子を出産」「1人の子どもを出産」にわけてシミュレーションしました。すると、最も子どもの生存率が高くなったのは、「常に2つの卵子を排卵している」かつ「1人の子どもを出産」した人であることが示されました。


このことから、研究者たちは、2つの卵子を排卵することは自然淘汰によって残された傾向であるものの、結果として双子が生まれるのは「自然淘汰の副産物」であると結論付けています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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