なぜ新型コロナの「感染による免疫獲得」がアメリカでは考慮されていないのか?

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)への免疫は、ワクチン接種のほか、実際にSARS-CoV-2に感染することでも得られると研究から示されています。このためイギリスのワクチン接種の証明書であるNHS COVID Passは、SARS-CoV-2に感染したことでも発行されるなど、地域によっては感染歴がワクチン接種や証明書の発行に影響するところも。一方で、アメリカでは「感染により免疫を獲得した人」についての議論が十分に行われていないと、科学ジャーナリストのジェニファー・ブロック氏が指摘しています。
Vaccinating people who have had covid-19: why doesn’t natural immunity count in the US? | The BMJ
https://www.bmj.com/content/374/bmj.n2101
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、2021年5月までにアメリカでは人口の37%ほどがSARS-CoV-2に感染したと推計しています。アメリカでは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを収める戦略としてワクチン接種の拡大が急がれていますが、このような「既にSARS-CoV-2に感染した人」をどう扱うかは考慮されていないとのこと。
COVID-19感染により獲得した免疫の効果については調査が進んでいるところで、2021年1月にはイギリスの国民保健サービス(NHS)が「COVID-19から回復した人々の免疫系の95%は、回復から8カ月たってもウイルスに対する記憶を保持していた」とする調査結果を発表しています。また2021年2月に科学誌・Scienceで発表された研究では、回復後8カ月を過ぎると抗体は減少するものの、メモリーB細胞やメモリーT細胞は引き続き存在し続けることが示されました。加えて、アメリカ・カタール・イギリス・イスラエルなどの調査から、「ワクチンを2回接種した人」と「過去にCOVID-19に感染した人」において、COVID-19への感染率が同等に低いことも示されています。

このような調査結果から、ワクチン接種において過去の感染歴を考慮する地域も存在します。イスラエルではCOVID-19に感染した人は感染後3カ月間はmRNAワクチンの接種を待つことを推奨しており、ワクチン接種にかかわらず血清学的に陽性である人にはワクチンパスであるグリーンパスが発行されます。EUの規定では「過去6カ月以内にCOVID-19に感染した人に対し、1回のワクチン接種であってもEUデジタル新型コロナ証明書を発行すること」を加盟国に認めているほか、イギリスではPCR検査が陽性だった人に対し、感染後・自己隔離期間を終えてから180日間までは免疫獲得の証明としてNHS COVID Passの発行を認めています。
一方で、アメリカにおいて、SARS-CoV-2感染によって免疫を獲得したことをもってワクチン接種や証明書の類が影響を受けることはありません。アメリカではデルタ株が広がりを見せていることから、大学の授業に出席したりコンサートに参加したりするにはワクチンの証明書が必要です。しかし、CDCは感染による免疫の効果が人によって異なること、またウイルスから保護されている期間がはっきりしていないことから、過去の感染歴に関係なく全ての人に対して2回のワクチン接種を推奨しています。
ワクチンによる免疫と感染による免疫の効果については議論があるところですが、アメリカでも感染による免疫を1つのパンデミック戦略として認めるべきだという主張があります。これに対し公衆衛生の専門家は「普遍的なワクチン接種は国民を保護する手段として定量化が可能であり、予測でき、信頼性が高く、実行しやすい」ことを根拠に、感染による免疫ではなくワクチン接種による免疫獲得を支持しています。

元CDCディレクターのトム・フリーデン氏がBMJに語った内容によると、アメリカでワクチン接種が始まった時、ワクチンの数が限られていたため「感染による免疫を考慮すること」が合理的なオプションとして非公式に提案されたそうです。しかし、COVID-19に関しては、「自分は既に感染済みだ」と思い込んでいる人や、検査による誤検知の可能性を考慮すると、「感染による免疫を考慮すると事態が複雑化する」と判断されたとのこと。これについてジョンズ・ホプキンズ・ブルームバーグ公衆衛生大学院の名誉学部長であるアルフレッド・ソマー氏は、公衆衛生の観点から言うと「人々に選ばせる」という行為が無責任な行動になりえると語っています。一方で、感染による免疫を考慮しない既存の免疫に対する見方は、ワクチン接種の目標やブースター接種の目標を狂わせる可能性があることをブロック氏は指摘しています。
フリーデン氏は「私たちは不完全な情報のもと活動しており、そのような環境では予防原則が適用されます」と述べ、過去にCOVID-19の感染歴があってもワクチンを接種することを推奨しています。一方でイギリスで行われた大規模調査や国際的調査ではCOVID-19の感染歴がある人はワクチン接種の副反応が大きくなることが報告されています。カリフォルニア大学ロサンゼルス校のパトリック・ウィーラン氏は「COVID-19に感染したことがある多くの人はスパイクタンパク質に対して抗体を持ちます。このため感染に次いでワクチン接種すると、抗体とワクチンの生産物が免疫複合体と呼ばれるものを形成します」と述べ、これらが関節や臓器に沈着することで副反応が出る可能性を示しました。
ウイルスが世界的に広まりを見せているにもかかわらず、「COVID-19に感染した人」という集団はグループとして十分に研究されていないとのこと。NHSの感染症研究所に属するマシュー・メモリ氏は「ワクチン接種がスタートしたとき、そのゴールは『危険にさらされている人』を守ることでした」と認めつつも、感染歴がある人にもフォーカスを当てるべきだったと示しています。感染歴がある人がどのようにワクチン接種を行うべきかを示すことで、状況は複雑になった可能性がありますが、よりきめ細かいメッセージを伝えることができたとメモリ氏は考えています。

「公衆衛生の専門家の多くは、ワクチンについて少しでも不確実性があると、人々が接種しなくなると考えています」「しかし私は、何が分かっていることで何がわかっていないのか、リスクは何で利益は何かを明確にすることが、人々に自分自身で決断させることにつながると考えています」とメモリ氏は述べました。
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