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用を足す人の健康を最新のテクノロジーで徹底的に管理する「スマートトイレ」の開発が進んでいる


スマートウォッチの登場によって、現代人は自分の睡眠時間や心拍数、最大酸素摂取量(VO2 max)、走行記録など、健康にかかわる様々なバロメーターをリアルタイムで管理することができるようになりました。そして、自分の健康状態を追跡するための次のガジェットとして「スマートトイレ」の研究開発が行われていると、アメリカの経済紙であるウォール・ストリート・ジャーナルが伝えています。

Smartwatches Track Our Health. Smart Toilets Aren’t Too Far Behind. - WSJ
https://www.wsj.com/articles/smartwatches-track-our-health-smart-toilets-arent-too-far-behind-11630771201

研究者や企業が開発を行っているスマートトイレは、単にスマートスピーカーを埋め込まれていたり便座に暖房を内蔵したりするだけではなく、胃腸疾患の兆候を調べたり、血圧を測定したり、「もっと魚を食べたほうがいいですよ」とアドバイスしてくれたりするように設計されているものです。


糞便や尿を採取して健康状態を調査することは昔から行われていましたが、近年になって腸内細菌が人間の健康状態にどのような影響を与えるのかが少しずつ解明されてきたことで、新たな関心が寄せられています。例えば、新型コロナウイルスのパンデミックでは、多くの自治体が下水のモニタリングを開始し、保健当局が都市や近隣でのウイルスの初期兆候を探し、その広がりを追跡しています。

同様に、「糞便や尿から健康情報を得る」という技術を個人レベルで活用したいというアイデアから、リモートで便器の中をチェックするスマートトイレが研究されています。こうしたスマートトイレの中には、慢性疾患や特定の病気のリスクが高い患者を医師が監視することを目的とした医療用途のものもあれば、数万円から数十万円の価格設定で、自分の健康状態を把握したり改善したりするためのツールとして一般販売を計画している企業もあります。

健康器具メーカーのMedic.lifeは、使用者の体重や尿中の糖分、ナトリウム濃度を測定するスマートトイレ「Medic.Lav」を開発しています。Medic.Lavは高性能のセンサーで尿中のウイルスを検出することも可能だとうたっており、アメリカ食品医薬品局(FDA)からの認可取得を目指しています。


ウィスコンシン大学マディソン校モーグリッジ研究所の生物分析化学者であるジョシュア・クーン氏は、尿サンプル中の分子を観察することで、人の健康状態を継続的にモニターできる研究を2019年に発表しました。クーン氏は「これまでスマートウォッチやスマートフォンで実現してきたことのすべてが別のスケールで行われるようになるでしょう。そうなって初めて病気のリスクを真に理解できるようになるのです」とコメントしています。

スタンフォード大学医学部の研究チームは、便器にカメラを取り付け、機械学習アルゴリズムを学習させ、診断チャートに照らし合わせて排泄物を分析するというスマートトイレを開発しています。このスマートトイレは、尿の流れ、色、量を追跡できるほか、尿に含まれる特定の分子を検出するための検査装置も取り付けられているとのこと。また、ユーザーを見分けるために、水を流すボタンで指紋読み取りが行われ、さらに「アナルプリント」と呼ばれる、肛門の特徴をスキャンするシステムも搭載されているそうです。

このスタンフォード大学の研究チームは、韓国のトイレメーカーであるIzen社とトイレの製造契約を結んでいるとのこと。プロジェクトを率いるスンミン・パーク氏は、2021年末までに臨床試験段階に進めるようなプロトタイプを完成させたいと述べています。


デューク大学で開発されているスマートトイレもカメラと機械学習によって流した後の排泄物を分析することが可能で、さらに血液や特定のタンパク質の存在を把握し、便のサンプルを採取して研究室で分析することも可能だとのこと。加えてこのスマートトイレは、スマートフォンアプリと連携することで健康情報を管理できるそうです。

デューク大学でスマートトイレの開発を率いるソニア・グレゴ氏は「スマートトイレは、遠く離れたところから医師が過敏性腸症候群などの慢性疾患を抱える患者を監視したり、病気の初期症状を発見したりするのに役立ちます。また、もうひとつの利点として、『長期にわたって追跡可能な測定を頻繁に行うことができる』という点があります。これは、病院に通って散発的に測定するよりも、特定の指標を追跡しながら変化を素早く特定してフラグを立てるという、より効果的で非侵襲的な方法となる可能性があります」と述べました。


ただし、現行のスマートトイレ技術では、一部のバイタルサインや尿検査については医療に応用できるレベルの精度の結果が得られますが、排泄物の成分分析までを高い精度で可能にするようなスマートトイレの実現はまだ先の話。成分分析に必要な化学物質を補充する方法の開発や、スマートトイレの製造コストを下げるには時間がかかるそうです。

さらに、スタンフォード大学の研究チームが300人を対象としたアンケートの結果では、回答者の3分の1が「健康データを収集するスマートトイレ」というコンセプトに違和感を感じ、その多くがプライバシーを最大の懸念事項に挙げました。また、半数以上の人がスマートトイレそのものに「ある程度の抵抗感を覚える」と答えたそうです。

Medic.lifeのチャド・アダムスCEOは「人に何かを使ってもらうためには、驚くほどシンプルである必要があります。その点、スマートトイレはシンプルです。誰もがトイレには必ず行かなければならないのですから」とコメントしています。

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in ハードウェア, Posted by log1i_yk

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