新型コロナウイルスは「トイレを流した時の水しぶき」でも感染するのか?
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、感染者のせきなどで発生したエアロゾルなどを介して感染が拡大するとされていますが、さらに意外な感染経路が浮かび上がっています。
Can a toilet promote virus transmission? From a fluid dynamics perspective: Physics of Fluids: Vol 32, No 6
https://aip.scitation.org/doi/10.1063/5.0013318
これまで判明している新型コロナウイルスの感染経路は、感染者のくしゃみや咳などで放出された体液の液滴を介した「飛まつ感染」と、皮膚や粘膜、ドアノブや手すりなどを介した「接触感染」に大別されます。さらに、新型コロナウイルスの患者の便からウイルスの粒子が検出されたことなどから、新型コロナウイルスは感染者の糞便に含まれたウイルスが他の人の口腔を介して感染する、糞口経路によって感染が広がる可能性も指摘されています。
新型コロナウイルスは糞便を介して感染している可能性があると判明 - GIGAZINE
そこで、中国・東南大学の研究者であるYun-yun Li氏らは、便器内の空気と水の流れをシミュレーションし、水を流すことで発生する液滴の動きを分析しました。
以下は、水を流しはじめてから1.8秒後に発生した渦のベクトルを表したシミュレーション結果の図です。サイフォンの原理によりタンクから便器内に水が流れ込むと、赤枠で示された便器の中に大きな渦が発生し、水しぶきの一部はその上の空間、つまり便座の外にまで及びました。
研究チームはこのシミュレーション結果について「水を流すと便器内に渦が発生し、それによって発生する遠心力の結果として生じる乱流は、トイレの上の空気をかく乱します。このことから、便器内のエアロゾル粒子が空気中に排出され、ウイルスが室内に拡散して人の健康を害すると考えられます」と述べました。
さらに、研究チームは水を流した際に発生したエアロゾルの動きを実際にシミュレーションしました。その結果が以下の図で、水を流してから35秒後(左)と70秒後(右)のエアロゾル粒子の位置を、高さごとに色分けした点で表しています。赤枠で示された便座の縁の部分を超えて、エアロゾルが高く舞い上がっている様子が分かります。
このことから、研究チームは「最も高い粒子の位置は、35秒の時点で便座の縁から27.4センチ、70秒の時点では36.8センチに達しました。便座の位置は床から45センチ高いので、実際の粒子の高さは床から72.4センチと81.8センチです」と指摘しました。
さらに、水を流す入口が2つあるタイプでは、粒子の高さは水を流してから35秒後には便座の縁から48.5センチ、床上から93.5センチまで到達。70秒後には便座の縁から61.5センチ、床上から106.5センチの高さまで粒子が舞い上がりました。水を流すことで発生したエアロゾル粒子のうち、実に全体の60%が、便座の縁を越えて便器の外に広がったとのことです。
こうしたシミュレーション結果から研究チームは、トイレを使用する際には、以下の3つの手順を踏むよう提唱しました。
1.トイレの水を流す前にはフタを下げる。
2.便座にウイルスの粒子が付着している可能性があるので、座る前に便座を清掃する。
3.水を流すボタンやドアノブにもウイルスが付着している可能性があるため、トイレの後にはよく手を洗うこと。
研究チームは論文の末尾で「この研究結果はトイレメーカーの注意を喚起し、水を流す前に自動的にフタが下がったり、水を流す前後で洗浄が行われたりするような、より優れたトイレの開発を促す可能性があります」と述べて、トイレメーカーに対し設計を見直す必要性を示唆しました。
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