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日本のハイテクトイレがアメリカで普及しない理由とは?


温水洗浄機能のついた便座は日本で広く普及していますが、日本国外での普及率は低く、特にアメリカではあまり見かけることはありません。「日本の温水洗浄便座は素晴らしいものなのに、なぜアメリカでは普及しないんだろう?」という自身が抱いた疑問について、アメリカ・パブリック・ラジオの記者であるグレッグ・ロサルスキーさんが自説を展開しています。

Why America Is Losing The Toilet Race : Planet Money : NPR
https://www.npr.org/sections/money/2020/02/25/808791622/why-america-is-losing-the-toilet-race

日本旅行からアメリカに帰国したばかりのロサルスキーさんが恋しいと語るのは、ラーメン・焼き鳥・寿司・火山・魅力的な人々の他にも、「温水洗浄便座」です。ロサルスキーさんは温水洗浄便座の温水洗浄機能・乾燥機能・暖房便座・消臭機能・トイレ用擬音装置や水を効率的に利用している点を挙げ、「日本のトイレは技術的革新の驚異」と褒めあげました。

そんなロサルスキーさんが抱いた疑問は、「なぜこんな便利なものがアメリカに普及していないんだろう?」ということ。日本では多くのホテルやレストランに温水洗浄便座が普及しているだけでなく、多くの家庭で温水洗浄便座は普及しています。2018年度3月の内閣府の消費動向調査によると、2人以上世帯の家庭の温水洗浄便座の普及率は80.2%。100世帯あたりの普及台数は113台なので、温水洗浄便座を複数台設置しているという家も多いようです。

日本家庭の必需品、温水洗浄便座の普及率は80%超え : 耐久消費財普及率調査 | nippon.com
https://www.nippon.com/ja/features/h00185/

アメリカのトイレについて、ロサルスキーさんは「『水を流す』機能しか存在しません。便器洗浄は水を使わずに皿を洗うようなものです」と述べ、「馬車の時代から進化していない」と表現しました。ロサルスキーさんは、「なぜ私たちも温水洗浄便座を家庭に持つことができないのだろうか?」と思い、温水洗浄便座について調べたとのこと。


ロサルスキーさんによると、温水洗浄便座の普及の先駆けとなったのは、TOTOとのこと。TOTOは1980年に「ウォシュレット」の商標で新たな温水洗浄便座を発売。このウォシュレットが日本で好評を博するようになった結果、温水洗浄便座は普及しました。こういった理由から、ロサルスキーさんはアメリカのTOTO USAの販売戦略部門の長を務めるビル・ストラング氏に話を聞くことにしました。

ストラング氏はウォシュレットを使ったときに抱いた喜びゆえにTOTO USAに入社したという経歴を持つ人物。ストラング氏は、ウォシュレットが1990年にアメリカで発売して以降商業的に成功しておらず、アメリカでの成功は便座ではなく便器においてだと認め、現状のアメリカのトイレについて「排水溝に便座がくっついてるだけです」と断じました。


過去140年間にわたって161カ国で20のテクノロジーが普及していく様子を調査した研究によると、テクノロジーがある場所から別の場所に普及するためには、物理的な距離が大きく影響するとのこと。ストラング氏は、ウォシュレットは日本から遠く離れたアメリカよりも、距離の近い環太平洋地域での普及率が高いことを指摘しました。

しかし、ダートマス大学の経済学者ディエゴ・コミン氏が著した論文によると、現代ではテクノロジーの普及速度が大幅に加速しているとのこと。過去200年にわたって150カ国で115のテクノロジーが普及する様子を調査したという別の研究では、1925年以前に開発されたテクノロジーよりも1925年以降に開発されたテクノロジーは3倍も普及速度が速いそうです。ただし、コミン氏は「あるテクノロジーは既存のテクノロジーより優れていても、特定の国に普及しないことがある」という例外にも言及しています。この例外に、温水洗浄便座が該当しているとコミン氏は示唆しました。

温水洗浄便座がテクノロジー普及の例外となってしまった理由について、ロサルスキーさんは文化的慣習が最大の原因だと指摘。日本人は入浴・衛生・清潔などを高く評価する一方で、アメリカ人はそうではないというのがロサルスキーさんの意見です。ロサルスキーさんは日本旅行を通して、歩行者が細菌の拡散を防ぐためにマスクをしていること、レストランでは食前に手を拭くためにおしぼりやウェットタオルを渡されること、道路や地下鉄がキレイだったこと、手指消毒剤のディスペンサーがそこかしらに設置されていたことを挙げて、「アメリカとはかなり違う」と述懐しました。

また、ロサルスキーさんは文化的慣習に加えて、温水洗浄便座の価格も原因だと指摘しました。TOTOは「トルネード洗浄」、光触媒で見えない汚れまでもキレイに落とす「Actilight」、光に当たると酸化チタンが反応して自然と洗浄が行われる「ハイドロテクト」、「エコリモコン」、「オート開閉」などの機能を搭載した便座を発表していますが、高級モデル「NEOREST NX」のアメリカでの定価は1万7300ドル(約177万円)です。

NEOREST® NX2 Dual Flush Toilet - 1.0 GPF & 0.8 GPF - TotoUSA.com
https://www.totousa.com/neorest-nx2-dual-flush-toilet-10-gpf-08-gpf


コミン氏も日本式のトイレを購入しようと考えたものの、価格が原因で諦めたことがあるそうです。それゆえ、「アメリカで温水洗浄便座が普及するためには、ジョージ・クルーニーをコマーシャルに出演させるといったマーケティングで大衆に温水洗浄便座の存在を周知させるだけでなく、大きな投資を行って生産ラインを拡充し、大量生産によって価格を引き下げることが重要です」とコミン氏は主張しました。

一方、ストラング氏はアメリカのトイレに対して楽観的な見方をしています。「アメリカでは温水洗浄機能のような商品に対する需要が存在したことはありません。しかし、スティーブ・ジョブズがiPhoneを作る前は、そういった商品に対する需要は存在していませんでした」と述べ、将来の需要はどうなるかは未知数だと語っています。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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