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なぜトイレの「おしっこ跳ね返り問題」は解決されないのか?

by Akepon

排尿時に尿が跳ね返ってトイレの床を汚してしまい、パートナーとトラブルになったり、自分の衣服に跳ね返って嫌な思いをした人も多いはず。この問題を解決するには「排尿の方法を改善する」という他に「便器自体を改良する」という方法があるのですが、いまだ跳ね返りのない便器は普及しておらず、問題は横たわったままです。なぜテクノロジーの発達している現代でまだトイレの跳ね返り問題が存在するのか、Priceonomicsが独自に調査を行ったところ、意外な事実が明らかになっています。

Why Can't We Build a Splash-Proof Toilet?
http://priceonomics.com/why-cant-we-build-a-splash-proof-toilet/

ブリガムヤング大学・スプラッシュラボの研究所に所属する物理学者4人の研究によると、遮る物がない場合、男性の排尿時、便器から跳ね返った尿は本人から約1.5m離れた地点にまで飛び散っているとのこと。つまり複数の男性が並んで便器に向かっていた場合、隣の男性の尿が高確率で自分の衣服に飛び散っているということです。研究を行ったタッド・トラスコット教授は尿が跳ねる時の正確な飛距離を測定しようとさまざまな実験を行っていますが、そのトラスコット教授によると、尿が飛び散る原因は排尿する人と便器の両方にあるそうです。

トラスコット教授らはノズルから水を出す「排尿シミュレーター」を作成し、ハイスピードカメラで水が便器に当たったときにどのように飛び散るのかを観察。その結果、いくつかのことが判明しました。


まず1つめは、「便器からの距離が近いと飛散が少ない」ということ。液体は空中を流れていき、物体にぶつかると滴となって、もともとの「流れ」があった場所よりも広範囲に飛散します。この現象は専門用語で「レイリー・テイラー不安定性」として説明されます。この時、液体が放出される場所とぶつかる物体の距離が離れれば離れるほど、滴が飛散する範囲が広がることが観測されました。

また、研究チームは「液体を放射する地点が便器に対して並行に近いほど飛散が少ない」ということも確認。90度の角度から液体を便器にかけると跳ね返りがひどかったのですが、上の方からかけると、跳ね返りが少なく排尿者にも滴がかかりにくかったようです。


トラスコット教授らの発表した研究は、平均的な流体力学の研究に比べて大きな注目を集め、BBCに取材されるまでとなりましたが、ではなぜ、これらの研究結果が待ち望まれているのでしょうか。言い換えると、なぜ便器のデザインを改良することで問題を解決できないのでしょうか。

Priceonomicsがドイツに本社を置くバスルーム備品の大手デュラビットのデザイナーに質問してみたところ、「その問題は、我々にとって既に過去のものです」という予想外の回答が得られたとのこと。デュラビットがテストを行ったところ、デュラビットの便器では跳ね返りが「最大2mmの滴が3滴、半径20cm以内に飛び散るだけ」という結果になっているようで、デザイナーにとって「尿の飛散問題」は既に存在せず、現在は節水する方法など他の問題解決にシフトしているとのこと。また、デュラビットのデザイナーは「便器に1匹のハエを描き、そこを目指して排尿するだけで滴の飛散は70%も削減できる」という方法についても言及したそうです。

次にPriceonomicsはデュラビット・アメリカの代表ティム・シュレーダー氏にコンタクトを取ったところ、やはり回答は「現在のトイレでは跳ね返りは起こりません」というものでした。Priceonomicsによると、シュレーダー氏は企業の幹部がよくやるように問題の存在を無視しているのではなく、質問に困惑している様子で、「20年前にトイレの水を張っている部分を改良してから、そのような苦情は来ていない」と語りました。トイレの跳ね返り問題に対しては「興味がないわけではないが、そのようなフィードバックは聞いていない」とのこと。デュラビットのデザイナ-が語った「ハエを描く場所」、つまりスイートスポットのようなものは確かに存在しますが、跳ね返りの多くはヒューマンエラーによって起こっているというのがシュレーダー氏の意見。「シンクで手を洗っている時に服や周囲をびしょびしょにしてしまうこともありますが、私は注意深いので、汚しません」とシュレーダー氏は語っています。


実際問題として、一般家庭では毎日のように夫婦が激論を交わしている跳ね返り問題ですが、Priceonomicsが調査を進めるうちに「便器を作っている会社ではそういった問題が既に『存在しない』と言われている」というミステリーが浮上してきたわけです。

Priceonomicsは2012年に便座を温める機能やビデボタンなどがついた日本のトイレを「アメリカのどの億万長者の家のトイレよりよい」として紹介しました。しかし、ビデの機能を使えば紙を使用する必要がなくなるにも関わらず、現在でも多くのアメリカ人がトイレットペーパーを使用しています。

by Maya-Anaïs Yataghène

日本式のトイレをアメリカで販売しようとしているスタートアップの社長であるスティーブ・シェール氏は「アメリカ人はバスルーム問題について語り合うのに抵抗がある」ということが大きな障害となっていると説明します。ビデの利点について説明しようとすると人々は「気持ち悪い」とコメントしたりクスクス笑ったりするそうです。

ニューヨーク大学のハーベイ・モーロック教授によると、トイレが「タブー」として捉えられることで、顧客と企業の間でフィードバックがうまく行えないようになっているとのこと。iPhoneの場合であれば「なぜこれはこうなっていて、こういうふうに改良できないのか」というフィードバックが行われるところを、トイレの場合は自由に発言することができないので、製品の改良がうまく行えないわけです。

Priceonomicsがトイレの跳ね返り問題のミステリーについてモーロック教授に伝えたところ、モーロック教授も同様の経験をしていたことが判明。会社の経営陣の会議でトイレ問題が取り上げられないように、トイレに関しては「本当に起こったことを、これらのデザインに取り入れることができない」というのがモーロック教授の見方です。

メディアが発達し、ポルノなどが出回るようになっても、いまだトイレに関して我々は無知です。匿名掲示板のredditでは、ある男性が「トイレの時には便座を上げる」というのを子どもの時に誤って解釈して、これまでの人生でずっと便座を上げたまま排便していたということを告白し伝説となったそうですが、それに対するコメントの中には「私の母親はオフィスで排便する時、音がしないようにトイレットペーパーを巻き付けた手で便を受け止めて水の中にっそっと落としていた」というものもあったそうです。誰も公でこのような話をしないので、掲示板に書かれた話が真実かどうかは確かめようがありません。「シャワー中におしっこする?」と聞かれた相手がどんな反応を示すのかで、トイレ問題がいかにタブーとなっているかがよく分かります。

by Cade Buchanan

跳ね返り問題は「トイレ事情がタブー視されていること」の影に隠れて表面化しにくいわけですが、全てのトイレメーカーが跳ね返り問題に注目していないわけではありません。KOHLERというメーカーは「今日の便器事情において跳ね返りは大きな問題であると認識している」としており、商品の発表においては「実質的には跳ね返りが少なくなっている」と主張しています。

しかし、本格的に跳ね返り問題を解決するには「トイレをタブー視すること」自体をなくしていく必要があります。私たちは、iPhoneやスターバックスのカップについて苦情や文句を言うように、トイレについて苦情を言う必要に迫られているわけです、とPriceonomicsは締めくくっています。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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