メモ

「魔術師マーリンの物語」の写本の断片を調査した結果とは?


12世紀に創作された偽史「ブリタニア列王史」に登場する魔術師のマーリンは、さまざまな予言を行ってユーサー・ペンドラゴンアーサー王に仕えたとされています。そんなマーリンに関する古い写本の断片がイギリスのブリストル大学で発見され、研究者らが詳細な分析を行いました。

September: Bristol Merlin update | News and features | University of Bristol
https://www.bristol.ac.uk/news/2021/september/bristol-merlin-update.html

ブリストル大学にあるSpecial Collections Library(特殊コレクション図書館)の司書であるマイケル・リチャードソン氏は、2019年に学生の依頼で中世の資料を探していたところ、偶然にもアーサー王の名前が記された7枚の羊皮紙の断片を発見しました。リチャードソン氏が見つけた断片は、14世紀~15世紀のフランスの神学者であるジャン・ジェルソンの著書に、製本の材料として使われていたとのこと。

リチャードソン氏から連絡を受けた国際アーサー王協会会長のリア・テザー教授は、断片が重要な記述を含んでいることを理解し、中世の歴史家や写本の専門家からなる研究チームを設立。また、ダラム大学で光化学や光物理学を研究するアンドリュー・ビーディー教授とも協力し、ラマン分光法装置などを用いた化学的分析も行いました。

今回発見された羊皮紙の断片がこれ。指の先に「merlin」の文字が確認できます。

by University of Bristol

研究チームによると、発見された羊皮紙の断片は写本の一部であり、13世紀に作成された古フランス語のアーサー王伝説の散文作品「ランスロ=聖杯サイクル」の一節が含まれているとのこと。筆跡の分析から写本が1250~1275年に作成されたことがわかっており、言語学的な研究から写本が作成されたのはフランス北東部の可能性が高いことも確認されたそうです。

また、断片の余白に記された注釈から、写本が1300~1350年の間にイングランドへ渡っていたことも判明しました。中世のイギリスに存在した「ランスロ=聖杯サイクル」の写本は、ほとんどが1275年以降に作成されたものだそうで、今回発見された断片は特に古いものだったとテザー氏は述べています。その後、写本はオックスフォード大学またはケンブリッジ大学に所蔵されたとみられています。

ビーディー氏らの化学的な分析からは、写本に使われたインクが当時一般的だった鉄の塩やタンニンで作られる没食子インクではなく、よりマイナーで煤(すす)から作られるランプブラックであることも判明。これは、写本を作成した工房の周囲で手に入る材料の種類に関係している可能性があるとのこと。

by Professor Leah Tether

写本の断片を装丁の一部に使っていたジェルソンの著作は、1494~1502年にフランスのストラスブールで印刷され、イギリスに渡ってから製本されたとみられています。そしてジェルソンの著作を製本する際、写本を廃棄することにしたオックスフォード大学またはケンブリッジ大学が、装丁の一部にリサイクルしたと研究チームは推測しています。写本が廃棄された理由は不明ですが、当時のイギリスではより新しい英語版のアーサー王伝説の物語が入手できたため、古くなった本を処分した可能性があるとのこと。

その後、ジェルソンの著作はヨーク大司教を務めたトビアス・マシューの手に渡り、マシューが亡くなったことでブリストル公立図書館に寄贈され、やがて現在のブリストル大学図書館に所蔵されたとみられています。

今回発見された断片には、現代に伝わるアーサー王伝説とは異なる部分も見つかっています。たとえば、戦闘場面を含む特定のセクションでは登場人物の行動がより詳細に記述されており、アーサー王が抱える4つの師団を率いるリーダーをマーリンが指名するシーンでは、これまで知られていたバージョンとは別の人物がリーダーに指名されているとのこと。また、現代のバージョンではクラウダス王が太ももに傷を負ったことになっていますが、ブリストル大学の断片では傷の部位が指定されていないそうです。

テザー氏は、「エキサイティングな結論に加えて今回の研究で明らかになったのは、学際的・組織縦断的なコラボレーションの計り知れない価値です」とコメント。今後の研究でも、中世文献の専門家だけでなくそれ以外の分野の専門家も含めた研究チームが重要になるだろうと述べました。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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