AIで「まだ起きていない自然災害」を予測、拡散モデルで異常気象リスク計算の限界克服へ

自然災害の予測精度は政府の防災計画や企業のリスク管理、ひいては人命にも大きな影響を与えます。Financial Timesが「AIと拡散モデルを使って自然災害の被害予測をより細かく広範囲にする取り組みが進んでいる」と報じました。
How AI is transforming natural disaster prediction
https://www.ft.com/content/347a6679-8301-4f89-8b5a-dffc54c7ea27

保険会社が台風の損害額を見積もるときや、政府が避難計画を作るとき、電力会社が送電網の弱点を調べるときなどで、災害の起こり方をコンピューター上で再現する「カタストロフィーモデル(Catモデル)」が使われます。ただし、Catモデルで風や水の動きを物理法則に基づいて細かく計算しようとすると膨大なデータと計算能力が必要になります。計算能力の制限があるため、計算単位である格子を粗くして対象範囲を広げるか、範囲や期間を狭くして格子を細かくするかの選択を迫られます。
そのうえ、実際に観測された気象データはおおむね100年分しかなく、100年に1度や1000年に1度の災害を考えるには、過去の記録だけではデータが足りません。気候変動によって極端な現象が増えると、過去にほとんど例がない災害ほどシミュレーションが重要になるにもかかわらず、従来のモデルでは検討しにくいという問題が大きくなります。
生成AIを使えば、観測データの不足と計算コストの高さという2つの壁を回避できる可能性があるとのこと。
スイスの再保険会社Swiss Re傘下の洪水リスク企業Fathomは、洪水予測に拡散モデルを活用しています。拡散モデルは画像生成AIでも使われる技術で、画像にノイズを加えてからノイズを取り除く方法を学習し、粗い画像から細部を復元するように動作します。災害予測では低解像度の気候データから、より細かい雨の降り方や洪水の広がりを作る技術として応用されているとのこと。

Fathomは既存の気候モデルから得た約1000年分の気象データで拡散AIを訓練し、2030年ごろの気候を想定した数千年分の気象イベントを追加で再現していると述べられています。最初に作られるシナリオは約100km四方の格子で表されますが、洪水被害を調べるには粗すぎるため、Fathomは別の「画像を鮮明化する」拡散モデルを使い、約10km四方の解像度に高めています。
細かくなった洪水シナリオを建物データや被害リスクのデータと組み合わせると、一定の確率で起きる災害がどれくらいの損害をもたらすのかを推定できます。たとえば「100年に1度の嵐が起きた場合に想定される損害額」を見積もりやすくなり、保険会社は地域ごとの危険性を細かく判断して保険料の調整をしやすくなる可能性があります。
また、リスクモデリング企業Veriskがヨーロッパ向けの高解像度リスクモデルで強い雨と風を同時に分析していたり、Moody's傘下のMoody's RMSが山火事やハリケーン後の衛星画像をAIで解析し、被害の範囲や深刻度、保険対象となる損失額の推定に役立てていたりするなど、実際にAIが活用されている事例も多数あるとのこと。

AIによるモデル作成はこれまで十分な災害モデルが整備されにくかった地域にも役立つ可能性があると述べられています。バングラデシュのような洪水リスクが高い地域や、ブラジルのような干ばつリスクを抱える地域では、資産価値が比較的低いことを理由に大手モデリング企業が物理ベースのモデル開発に投資しにくい状況がありました。AIでモデル作成の費用を下げられれば、災害に弱い地域でもリスクを調べやすくなるというわけです。
一方で、生成AIにはもっともらしい誤情報を作る「幻覚」と呼ばれる問題があり、気象や災害のシナリオでも物理法則に合わない結果が出る可能性があります。それでも、過去データの少ないまれな巨大災害を扱える点から研究者たちはAIを使っているとのこと。
Fathomの最高科学責任者であるオリバー・ウィング氏は「AIを懐疑的かつ慎重に使えば、過去に観測された範囲を超える災害シナリオを描き出せる」と説明しつつ、「AIの出力を現実的な範囲にとどめながら、過去の記録に縛られすぎないこと」が課題とも述べました。AI時代の自然災害予測では、「まだ起きていないが起こり得る災害」を現実的なシナリオとしてどこまで扱えるかが重要になるとのことです。
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