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VTuberの海外人気はかつての「ファンサブコミュニティ」に支えられている


日本のアニメが海外で現代ほど公式に展開されていなかった頃、海外のアニメファンは違法にアップロードされた海賊版で日本のアニメを視聴する場合がほとんどでした。しかし、そうした海賊版でキャラクターがしゃべっているセリフはすべて日本語音声なので、海外の人には理解できません。そこで、日本語を理解できる有志がセリフを翻訳した「ファンサブ」といわれる非公式の字幕が海賊版につけられました。

日本を中心に活躍するバーチャルYouTuber(VTuber)の海外ファンコミュニティは、このファンサブを制作するコミュニティによって支えられている部分があると、GamerBravesのライターであるアミラル・アドラン氏が解説しています。

How Vtuber Fansubs Made Their Own International Communication - GamerBraves
https://www.gamerbraves.com/how-vtuber-fansubs-made-their-own-international-communication/


アドラン氏は、アニメの翻訳には「そのまま翻訳すること」と「ローカリゼーション」の2種類があると述べています。「そのまま翻訳すること」は、文法に基づいて素直に翻訳すること。そして、「ローカリゼーション」はある国にある特定の文化を別の文化に言い換えて翻訳していくというものです。

日本のアニメの海賊版につけられたファンサブは、正しい字幕や声優による吹き替え音声をつけた上で日本のアニメを公式に配信するサービスが充実したことで下火になっていきました。しかし、「日本のVTuberの配信を見たい」という需要が海外ファンの間で生まれたことで、ファンサブコミュニティの文化が下地となり、VTuberの配信の切り抜きに有志による翻訳を付けた動画がYouTubeなどの動画共有サイトに多くアップロードされています。

[Fansub] PUCHISANJI - Mind games!? during the Koushien Drafthttps://t.co/zP2CTwBGYl
Translated by ➡️ J・ pic.twitter.com/GKoZ4UlXKy

— Good VTuber Subs Bot (@GoodVTuberSubs)


しかし、アドラン氏は「VTuberの切り抜きにつけられる字幕は、以前のファンサブとは少し違う」と指摘しています。

例えば、アニメにおけるファンサブの場合、日本独自の言葉が出てきた場合、そのまま翻訳されることはあってもローカリゼーションが行われることはほとんどなく、その代わりにその言葉の注釈が表示されるケースが多かったとのこと。この注釈は、「アニメを見たことがなく、日本文化にも馴染みがない新規のファン」に対するサポートを担っていました。

just hit with the realization that teens today live in a time where almost all the anime in a season has official translations and a lot of them have probably never experienced fansub translator notes pic.twitter.com/BegObD4GxB

— laura @ ardbertlover#69420 (@youreameshi)


例えば「計画」という日本語がキーワードで出てきた場合、最初から「plan」と訳すのではなく、「keikaku」とローマ字で表示された上で、「Note:Keikaku means plan」と別記されます。この注釈は、時にはアニメを一時中止してまで差し込まれることもあったため、アニメにおけるファンサブでは日本語と英語が混在してわかりづらく、アニメそのもののテンポも悪くしてしまうことがあったそうです。


しかし、VTuberムービーのファンサブでは、日本語がローマ字で表示される点は変わりませんが、その語句の説明は一切されないことが多いそうです。例えば、VTuberの世界では通常とは違う使い方がされる「seiso(清楚)」という言葉はそのままファンサブに登場しますが、その意味が説明されるケースは少ないとのこと。

VTuberが作り出す日本語のスラングや外国語に翻訳できないような言葉の注釈がないということは、大量のムービーを見ないと文脈から意味を理解できないため、海外ファンの新規参入はどうしても難しくなります。それでも文脈から意味を理解できる海外ファンも多く、アドラン氏は「最近では海外のVTuberファンの間で、日本のコミュニティで使われる『』が、英語圏で使われていた『lol』の代わりに使われ始めています」と指摘しています。

また、ファンサブコミュニティはRedditなどの掲示板サイトやTwitterなどのSNSでオープンに活動を行っており、分からないことを質問したら教えてくれる場を設けているとのこと。例えば、VTuberグループのホロライブの場合、「r/Hololive」が海外ファンにとっての主な情報交換の場になっているそうです。

End Result of Mio's Original Song Lyrics by Subaru Okayu [Hololive/ENG Sub]https://t.co/qwWC9mxBgF
Translated by ➡️ Gundamfinal pic.twitter.com/GlxK1RESBz

— Good VTuber Subs Bot (@GoodVTuberSubs)


アドラン氏は「結局のところ、私はローカライズが悪いと主張したいわけではありません。しかし、日本的なものを無理にローカライズしなくても、新たな異文化体験が生まれるという付加価値があることは間違いありません。日本語と英語の視聴者の間で共有される言い回しは、新しい視聴者に異文化を受け入れる選択をさせるものだと思います」と語っています。

また、VTuberを見るという体験は、単に面白い映像を見て終わるだけのものではなくなり、VTuber本人と直接交流していなくても、同じ巣に住むファンと交流することで新しい体験が生まれるようになったとアドラン氏は述べています。

さらに、「現代のように世界的な大ブームになる前は、日本のアニメは海外ではニッチな存在で、新規参入者を受け入れるために翻訳する熱狂的なファンによって支えられて生き続けていました。VTuberが1週間にどれだけのコンテンツを発信しているかを考えると、かつてのファンサブコミュニティの精神がここでも受け継がれているのは素晴らしいことだと思います」とアドラン氏は述べました。

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in ネットサービス, Posted by log1i_yk

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