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日本アニメに字幕をつける「ファンサブ(fansub)」がたどってきた道とは?

By Chris Isherwood

YouTubeなどの動画配信サイトでは、時々英語やイタリア語、ポルトガル語などの字幕が入った日本アニメを見かけたりしますが、アニメに字幕をつけることを「ファンサブ(fansub)」と呼びます。これは著作権侵害に当たる違法行為なわけですが、これらが海外のアニメ文化を育み日本アニメが世界に進出する手助けにもなっていたことをForbesが明かしています。

How American Fans Pirated Japanese Cartoons Into Careers
http://www.forbes.com/sites/laurenorsini/2015/06/24/how-american-fans-pirated-japanese-cartoons-into-careers/

宮崎駿監督による長編アニメーション映画「千と千尋の神隠し」が2001年にアカデミー賞を受賞する前から、アメリカのSFファンの間では、日本アニメをアメリカナイズした「ロボテック(超時空要塞マクロス・超時空騎団サザンクロス・機甲創世記モスピーダ)」や「Speed Racer(マッハGoGoGo)」といった作品が高い人気を誇っていました。

また、1995年に公開されたアニメ映画「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」は、アメリカのビルボードでビデオ週間売上第1位を記録し、以後のSF作品に多大な影響をもたらしたといわれています。

By tangi bertin

そんな20年以上も前から日本アニメを愛していたというオタクのひとりが、ニール・ナーデルマンさん。彼は、ハイスクールの友人と一緒に、超時空要塞マクロスや機動戦士Zガンダム、ドラゴンボールといった日本の80年代アニメを「画質の粗いVHS」で楽しんでいたそうです。当時を振り返り、ニールさんは「どのキャラクターに何が起きているのかさえほとんど分からないくらいに粗い映像だったけれど、ものすごいものを見ている、ということだけは皆理解していました」と語ります。

当時はロサンゼルスのアニメクラブ「Cartoon/Fantasy Organization」が、日本アニメのVHSを大量に作成していたそうですが、これには英語字幕が含まれていませんでした。そこで、ニールさんは日本アニメをより理解できるようになるためにボストン大学で日本語を学びはじめ、日本語習得のために日本を旅行で訪れることもあったそうです。

By slayer

ある程度日本語を習得できた段階で、ニールさんは友人のためにアニメの字幕付けをはじめます。当時、ニールさんはニューヨークにあった海外VHSレンタル店「Tokyo Video」でレンタルしたものをリッピングし、コモドール製の世界初のビデオシステム搭載コンピューター「Amiga 500」を使用して、アニメ映像に字幕をつけていったそうです。当時の字幕付け作業についてNeilさんは「何かミスを犯せば新しい編集画面を立ち上げる必要があったので、編集を終える頃には何百という編集ウィンドウを立ち上げることになっていた」と、当時の作業がいかに困難であったのかについて語っています。

1980年代から1990年代のアメリカでは、ニールさんと同じように独自で英語字幕をつけるアニメファンが複数存在し、こういった行為は「fansub(ファンサブ)」と呼ばれるようになります。もちろん、ファンサブが違法な行為であることをファンは気づいていましたが、当時のアメリカには日本アニメを販売している企業がなく、誰もファンによるオリジナルの字幕付け行為を問題視していなかったそうです。

By Michael Miller

1991年、ニールさんは日本アニメの字幕付けのプロになるため、北米でも最も初期に日本アニメの配給を始めた企業である「Central Park Media」の面接を受けます。ニールさんは違法コピーしたアニメに自分自身でファンサブしたものをポートフォリオとして面接に持参する、という非常に大胆なアピール方法をとりますが、とがめられることなく無事面接に合格し、Central Park Mediaで働くことになります。

その直後、Central Park Mediaを含むアメリカのアニメ関連企業が「ビデオテープの違法コピー」やファンサブ行為を取り締まるための団体「Japanese Animation Industry Legal Enforcement Division(JAILED)」を設立し、海賊版アニメの流通を規制し始めます。しかし、JAILEDのターゲットとなったのは規模の大きな違法コピーを行うグループであったため、個人によるファンサブ行為のほとんどは見逃される形となりました。それどころか、JAILEDの発足によりアニメの字幕付けに大きなビジネスチャンスが潜んでいることを多くの配給会社が気づき、ファンサブを行っていたファンを配給会社が雇うことにもつながったそうです。

By GotCredit

現在では、日本アニメの字幕は複数人から成る翻訳チームにより作成されています。まず始めに、日本語から英語に台詞を翻訳し、次にエディターが翻訳された文章をアメリカ人が読んで理解できるような文章にローカライズします。そして、タイマーと呼ばれる役割の人がキャラクターの台詞と字幕が表示されるタイミングを合わせることで、映像にマッチした字幕が表示されることになるわけです。

フリーランスのローカライザーとして働いているカラ・デニスンさんは、「私の仕事は、視聴者に別の言語で作成されたものであることを意識させないことです。翻訳が完璧な場合、私の仕事はただアニメをみるだけのものになりますが、ローカライズが必要な場合、約20分のアニメでも1時間以上かかることもあります」と、ローカライザーの重要性を語ります。


ニールさんやカラさんは自分自身の趣味を仕事にしたわけですが、彼らがファンサブを行っていた頃と決定的に異なるのは、「Aegisub」のようなオープンソースの字幕作成ツールの存在です。これらはファンサブを行うために一般のアニメファンが作成したツールで、「プロでさえこのツールを使用している」とニールさん。

しかし、2000年代の終わり頃にアメリカのアニメ業界は不況のあおりを受け、Central Park Mediaを含む複数のアニメ配給会社が破産し、「しばらくの間はひどく不安定な状態だった」とニールさんは当時のアメリカのアニメ業界を振り返ります。

By Sebastien Wiertz

しばらく不景気状態が続いていたアメリカアニメ業界ですが、ストリーミングサイトの流行により大きな転換期を迎えます。NetflixやHuluといった動画配信サービスの登場で、TV業界とインターネット業界のつながりが強力になり、CrunchyrollやFunimationのような日本アニメを正式に配信するサイトも登場します。

Crunchyrollのクン・ガオCEOは「我々がアニメ配信サービスをスタートさせた時、出版社は視聴者が本当にアニメ産業にお金を落としてくれるのか疑問視していました。そこで、我々は海外のアニメファンは礼儀正しく、金銭を支払ったり広告を見たりすることで『アニメ産業を直接支えたい』と考えている人ばかりであることを示したのです。実際、コンテンツを愛しているアニメファンにとって、著作権侵害は最後の手段なわけですが、いかんせん他に手段がなかったのです」と、Crunchyrollでアニメの配信サービスをスタートした際の状況を説明しています。


そしてCrunchyrollのような合法的に最新アニメを視聴できるサイトが登場したことで、多くの翻訳者やエディターが求められるようになります。また、CrunchyrollやFunimationでは日本で放送された最新話が同日に視聴できるサイマル放送をウリにしており、これに伴い字幕を作成するための作業もスピードを求められるようになっていったそうです。実際、カラさんがCrunchyrollから翻訳の仕事を回してもらった際には、放送1週間前になっても完成した映像が送られてこないこともあったそうで、「私の友達なんてアニマティックで字幕作成を行っていたわ」と語っています。

動画配信サービスの登場で日本アニメの人気はより高まり、「多くの企業が日本語を英語やイタリア語、ポルトガル語に翻訳できる人材を探しています。今まさに、アニメは地球規模のものになっているわけです」とカラさんが説明するように、多くの国々から求められるようなコンテンツに発展しています。

現在ではほとんどのアニメがサイマル放送されているので、ファンサブは一部のアニメファンによって行われる非常にニッチな行為に成り下がっています。「ファンサブはアンライセンスのアニメをアメリカで楽しむためのもので、これはその他にアニメを楽しむ手段がなかったから広がったものです。しかし、現在ではほとんどのアニメがライセンス元から配信されています」とカラさん。同じようにニールさんは「現在では、ファンサブは装飾的な字幕や風変わりなカラオケ字幕を楽しむためのものになっている。CrunchyrollやFunimation、その他のストリーミングサイトで多くのアニメが配信されているので、ファンサブを行っている人は自分のバージョンを他人に自慢したいから作成する様な事態になっている」とコメントしています。

初期のファンサブ愛好家たちは、違法な趣味を商業ベースにのっとったプロの仕事に変えていったわけですが、そういった人々の存在が、現在の日本アニメの世界的な普及に多大な貢献をしている、というのは何とも不思議な話です。

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in アニメ, Posted by logu_ii

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