サイエンス

地球に豊富な酸素があるのは「地球の自転が遅くなったおかげ」との研究結果、太古の地球は1日6時間しかなかった


人間を含む動物はもとより、光合成で酸素を生み出している植物や微生物も、酸素を吸って二酸化炭素を吐き出す呼吸をして生きています。このように、地球上に息づく生命を支える酸素が現在のように豊富になったのは、「地球の自転が遅くなったため」との研究結果が、科学誌・Natureに掲載されました。

Possible link between Earth’s rotation rate and oxygenation | Nature Geoscience
https://www.nature.com/articles/s41561-021-00784-3

‘Totally new’ idea suggests longer days on early Earth set stage for complex life | Science | AAAS
https://www.sciencemag.org/news/2021/08/totally-new-idea-suggests-longer-days-early-earth-set-stage-complex-life

Slowdown of Earth's spin caused an oxygen surge | Live Science
https://www.livescience.com/early-earth-rotation-increase-oxygen.html

地球の大気に大量の酸素が存在するのは、今から約24億年前の藻類が光合成で酸素を生み出した大酸化イベントによるものだとされています。しかし、約35億年前には最初の光合成微生物が誕生していたことが、化石の発掘により判明していることから、「初期の藻類が誕生してから大酸化イベントまで約10億年ものタイムラグがあるのは一体なぜ?」という疑問が、長らく科学者らを悩ませてきました。

by Specious Reasons

この問題に取り組んでいたマックス・プランク海洋微生物学研究所のジュディス・クラット氏は、偶然の発見から「大酸化イベントと地球の自転の速度が大きく変わった時期がほとんど同じ」だということに気づきました。

以下は、1日の長さ(青色の線グラフ)と酸素量(オレンジ色)の関係を表したグラフです。地球誕生直後には約6時間しかなかった地球の1日は、月の引力により減速し今から約24億年前に約21時間となりました。そして、最初の大酸化イベント(GOE)が起きたのもちょうどこのころです。さらにその後、今から約5億年前に地球と月の軌道のバランスが崩れて1日の長さが24時間になるのと同じ時期に、「新原生代酸化イベント(NOE)」と「古生代酸化イベント(POE)」が発生しています。


この酸素と地球の自転速度の関係を確認するため、クラット氏は世界で最も大きな淡水湖の1つであるヒューロン湖に生息するシアノバクテリアを採取して実験を行いました。ヒューロン湖は、シアノバクテリアが光合成できる浅瀬が広がっている一方、湖底から酸素が少ない水と硫黄ガスが湧き出ており、太古の地球の海と同じ無酸素状態が保たれているとのこと。

クラット氏が、ヒューロン湖のシアノバクテリアに光を当てる長さを変えて日照時間の変化を再現する実験を行ったところ、日照時間が長ければ長いほど光合成が活発に行われていることが確かめられました。さらに、クラット氏がライプニッツ熱帯海洋研究センターの理論学者であるArjun Chennu氏とともに、「シアノバクテリアが生み出す酸素と消費する酸素が日照時間に応じてどう変化するか」のモデルを構築してシミュレーションを行ったところ、実験室内のシアノバクテリアが光合成により生み出す酸素ガスの量と一致する結果になったとのことです。

1日が長くなることで、大気中に放出される酸素の量が増えるメカニズムについて、研究チームは「シアノバクテリアが生み出した酸素は微生物マットに溶け込み、夜になるとシアノバクテリア自身の呼吸により消費されます。しかし、地球の自転が遅くなって1日の時間が延びたことで、シアノバクテリアが光合成し続ける時間が増え、微生物マットからあふれた酸素が水中に溶け込むようになりました。そして、その酸素がやがて大気中に放出されていったのです」と説明しています。


地球の酸素量には、今回判明したメカニズム以外にもさまざまな要因が関与していると考えられています。例えば、カリフォルニア大学リバーサイド校の生物地球化学者であるティモシー・ライオンズ氏によると、岩肌の微生物マットに生息するシアノバクテリアだけでなく、水中を浮遊するシアノバクテリアも酸素の供給に大きな役割を果たしたとのこと。また、火山活動により地表に現れた鉱物が酸素と結合し、初期のシアノバクテリアによる酸素の供給を相殺していたと指摘する研究もあります。

そのため、研究チームは論文の中で「地球と月の間にある力学が、生物の進化の重要な転換点における酸素レベルに大きな影響を与えた可能性があります。その影響は、これまで提案されてきたさまざまなメカニズムと並行して作用していました」と結論づけました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
30億年以上前の生物を記録した「ストロマトライト」が失われつつある - GIGAZINE

地球から酸素が月へと送り込まれていると判明 - GIGAZINE

「呼吸可能な酸素分子」が地球から5億光年離れた場所で発見される、銀河系外で見つかるのは史上初 - GIGAZINE

「アマゾンが地球上の酸素の20%を生産している」という説は誤りで酸素は向こう数百万年は持つとの指摘 - GIGAZINE

月の表面から酸素を抽出するための実験プラントが開設、生命維持や宇宙船の燃料に活用できる可能性 - GIGAZINE

光合成を行うはずのバクテリアが太陽の光の届かない地底で発見され科学者が驚愕 - GIGAZINE

in サイエンス,   生き物, Posted by log1l_ks

You can read the machine translated English article here.