Waymoは自動運転車の開発に「仮想空間でのシミュレーション」を活用している、仮想空間の走行距離は240億km超え
by elisfkc
Googleの親会社・Alphabet傘下の自動運転車開発企業であるWaymoは自動運転システムを向上させるため、「SimulationCity」と名付けられた仮想空間でのシミュレーションに力を入れています。そんなSimulationCityを活用したWaymoの取り組みについて、Waymoの公式ブログや、Waymoから独占的にSimulationCityの情報提供を受けた海外メディアのThe Vergeが報じています。
Waypoint - The official Waymo blog: Simulation City: Introducing Waymo's most advanced simulation system yet for autonomous driving
https://blog.waymo.com/2021/06/SimulationCity.html
Welcome to Simulation City, the virtual world where Waymo tests its autonomous vehicles - The Verge
https://www.theverge.com/2021/7/6/22565448/waymo-simulation-city-autonomous-vehicle-testing-virtual
イーロン・マスク氏が率いるテスラは、世界中を走るテスラ車から収集したデータで自動運転機能「オートパイロット」を進化させていますが、対照的にWaymoが所有する実車両はわずか600台ほどしかありません。Waymoの自動運転車両が走行するのはアメリカ・アリゾナ州とカリフォルニア州の一部であり、そのほかにはロサンゼルスでマッピングデータを収集する手動運転車両などがある程度だとのこと。
Waymoはテスラと違い、自動運転機能の開発に実世界のデータを利用するのではなく、自動運転車を仮想空間のシミュレーションでテストするという手法を採用しています。Waymoは2017年から「CarCraft」というシミュレーションソフトウェアを使用し、少なくとも50億マイル(約80億km)以上の距離を仮想空間上で走行してきたと述べています。ところが、WaymoのシニアプロダクトマネージャーであるBen Frankel氏によると、CarCraftには新たな車両やオプションをシミュレーションする能力に問題があったとのこと。
そこでWaymoは、新たなシミュレーションソフトウェアである「SimulationCity」を開発し、公道のあらゆる課題に対処できるようにWaymo Driverをテストしています。SimulationCityは、仮想空間でWaymo Driverを搭載した完全自動運転車両を走らせ、サンフランシスコの街中を横切る20分のドライブや、アリゾナ州フェニックスからテキサス州ダラスへの11時間のドライブなどをシミュレーションで評価することが可能だそうです。
電気自動車を展開して実車両からのデータを大量に収集するテスラと違い、現実世界のサービス展開が限られているWaymoにとって、シミュレーションは自動運転車の開発において重要な要素です。WaymoのエンジニアはSimulationCityを通じて、一般的な運転シナリオや安全に関わる危険なシナリオを大規模にテストし、そこから学習した内容を実際の車両に適用することができます。
シミュレーションソフトウェアは現実世界の制約に縛られることなく、公道を走った車両が収集したものとは比較にならないほど大量のデータを収集可能です。2020年の時点で、Waymo Driverを利用した車両が公道を走った距離は2000万マイルほどでしたが、仮想空間では既に150億マイル(約242億km)もの距離を走っているとのこと。SimulationCityは、Waymo Driver搭載車両が現実世界で収集した2000万マイル(約3218km)以上の走行データや、サードパーティ企業の運転行動データ、高度なシミュレーション技術や機械学習を用いて構築され、Waymoは仮想空間で再現される状況の有効性と信頼性に自信を持っているとThe Vergeは伝えています。
SimulationCityは従来のCarCraftよりも詳細な仮想状況を再現することが可能となっており、Waymoのエンジニアは車両および道路に降り注ぐ小さな雨滴や、夕方になって周囲を照らすまぶしい太陽光など、複雑なものまでシミュレーションできるそうです。これらの状況は自動運転車のセンサーを混乱させることがわかっており、信号機の読み取りなどに不具合をもたらす可能性があるとのこと。
また、Waymoは仮想空間の映像をリアルにするため、自動運転車が収集した現実世界のデータと人工知能を組み合わせる「SurfelGAN(surface element GAN/表面要素の敵対的生成ネットワーク)」とよばれる技術で、仮想空間の映像を生成しています。以下の画像をクリックすると、左半分が現実世界の映像、右半分がSurfelGANで生成された映像のGIFムービー(約25MB)を見ることができます。
こうした仮想空間を利用した自動運転技術の開発について、ミシガン大学の機械工学教授であるHuei Peng氏は、「欠陥のあるデータを利用した場合、シミュレーションの結果も役に立たないものになってしまう」というリスクがあると指摘。これに対しFrankel氏は、SimulationCityの成熟度は着実に向上していると主張しています。
Waymoは完全無人タクシー「Waymo One」の展開を慎重に行っており、複雑な都市の環境に対応できることが確かめられるまで、サンフランシスコなどでのサービス開始を控えています。Frankel氏は、SimulationCityがWaymo Driverの成熟度向上に貢献し、将来的なサービスの大規模展開に備えることができると述べました。
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