サイエンス

なぜ人間以外の動物は心臓発作になりにくいのか?


心臓への血流が途絶えて心筋細胞に十分な酸素が送られなくなることで起きる心臓発作は、毎年多くの人々の命を奪っています。ところが、人間以外の動物は心臓発作になりにくいことが知られているとのことで、科学系メディアのLive Scienceが「なぜ人間以外の動物は心臓発作になりにくいのか?」という疑問についてまとめています。

Do other animals get heart attacks? | Live Science
https://www.livescience.com/do-animals-get-heart-attacks.html

アメリカでは40秒に1人が心臓発作に襲われており、年間では実に80万5000人ものアメリカ人が心臓発作を起こしているとされています。ショージア工科大学で人間と動物の心臓について研究するFlavio Fenton教授によると、心臓発作は酸素を含んだ血液を供給する血管が詰まり、心臓組織の一部が死ぬことで起きるとのこと。心臓の一部が死ぬとうまく収縮することができなくなり、心臓を収縮させるための電気信号が他の部分にもうまく伝わらず、結果として心臓が止まって死に至る恐れがあります。「全ての哺乳類の心臓は非常に似ています。そのため、多くの哺乳類は原則として心臓発作を起こす可能性があります」と、Fenton氏は述べています。


ところが、理論的に言えば多くの哺乳類が心臓発作を起こす可能性があるにもかかわらず、実際に人間以外の動物が心臓発作を起こすことは非常に珍しいそうです。カリフォルニア大学サンディエゴ校で心臓病について研究するPhilip Gordts助教授は、「一般的に、冠動脈が詰まることで起きる人間のような典型的な心臓発作で動物が自然に死ぬことはありません」と、Live Scienceに語りました。

たとえば、犬の心臓発作は珍しいとされているほか、人間に最も近い動物の一種であり、運動不足や高コレステロール値といった心臓発作の条件を有する飼育下のチンパンジーでさえ、心臓発作を起こしにくいことが2009年の論文で報告されています。また、脂肪やコレステロールが血管に蓄積しやすい遺伝子を持ち、人間における心臓発作の主な原因とされるアテローム性動脈硬化症を発症しやすいウサギやげっ歯類でも、同様に心臓発作を起こしにくいことが同論文で指摘されています。


Live Scienceは、「他の動物が心臓発作を起こさない理由を尋ねるよりも、なぜ人間は心臓発作を起こしやすいのかを尋ねる方が理にかなっているかもしれません」と指摘。心臓発作の危険因子としては運動不足や不健康な食生活などが挙げられますが、初めて心臓発作を起こした人の15%は心臓発作の危険因子を持っていないとの研究結果が報告されています。

Gordts氏らの研究チームが2019年に発表した研究では、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)の生成に関与する「CMAH遺伝子」を不活性化する人間特有の遺伝子変異が、心臓発作に大きく関わっている可能性が指摘されています。研究チームが、アテローム性動脈硬化症を発症するように遺伝子編集したマウスでCMAH遺伝子を不活性化したところ、CMAH遺伝子を不活性化していないマウスと比較して2倍もアテローム性動脈硬化症を発症しやすくなったとのこと。この結果から、CMAH遺伝子の不活性化が人間においてアテローム性動脈硬化症と心臓発作が起きやすい原因ではないかと、研究チームは示唆しています。

しかし、そもそも人間以外の動物が心臓発作を起こすかどうかについての研究自体が乏しいとのこと。カリフォルニア州立大学の比較脊椎動物生理学者であるTomasz Owerkowicz氏は、「動物が突然死するのを見ることはあります。しかし、実際に検視解剖を行って冠状動脈の詰まりを探すことはめったにありません」と述べ、実際に人間以外の動物が心臓発作を起こしているかどうかを知ることが難しいと主張しています。

それでも、研究者は心臓の構造に基づいて「どの動物が心臓発作を起こす可能性があるか」を予測することができます。たとえば、哺乳類や鳥類の心臓は酸素の供給源が冠状動脈しかなく、冠状動脈から血管や毛細血管を通じて心臓の組織に酸素が送られます。そのため、哺乳類や鳥類で冠状動脈が詰まってしまった場合、酸素が失われて心臓発作を起こす可能性があるとのこと。

一方、ワニをはじめとする一部の脊椎動物では、血管や毛細血管に加えてスポンジ状の心臓組織があり、血管以外のルートで酸素を含んだ血液を心臓の奥深くまで供給することが可能だそうです。このシステムは冠状動脈が詰まった際のバッファーとして機能する可能性があり、ワニなどの脊椎動物は哺乳類や鳥類よりも心臓発作を起こしにくいだろうとOwerkowicz氏は述べました。


なお、人間では昼寝をする習慣を持つ人や毎日お風呂に入る人は心臓発作のリスクが低減するとの研究結果が報告されているほか、犬を飼っていると心臓発作による死亡リスクが下がる可能性も指摘されています。

「犬を飼っていると心臓発作や脳卒中による死亡リスクが下がる」という研究結果 - GIGAZINE

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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