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サイエンス

「なぜ血液型という分類が存在するの?」や「血液型ってそもそも何?」といった謎に迫る血液型に関するアレコレ

By Chris Gladis

すべてのヒトの体内には血液が流れており、これは生きるために必要不可欠なものです。この血液の中には血球と呼ばれる赤血球・白血球・血小板からなる物質が存在し、この血球が持つ抗原の違いをもとに分類される「血液の種類」のことを「血液型」と呼びます。この「血液型」という概念はいつ発見され、どれくらい昔から存在するものなのでしょうか。

Why do we have blood types? | Mosaic
http://mosaicscience.com/story/why-do-we-have-blood-types


「血液型」という概念は1900年にオーストリアの医学者カール・ラントシュタイナー博士によって発見されました。ラントシュタイナー博士は1901年に血液型に関する論文を発表し、のちの1930年には血液型発見の功績からノーベル生理学・医学賞を受賞しています。それ以来、科学者たちはテクノロジーの進化と共に発展してきたさまざまなツールを駆使して血液型を生物学的に調査し続けており、その成果として「血液型がヒトの健康にどのような影響を与えるのか」といったことに関する手がかりも見つかっています。

◆輸血と血液型

By makelessnoise

血液型は、医学の歴史の中で最も偉大な発見のうちのひとつです。なぜ偉大な発見なのかというと、医者が患者の血液型を分かっていれば、輸血でヒトの命を救うことができる確率がグンと上がるからです。血液型が発見されるまで、ヒトからヒトに輸血するという考えは、夢のような実現不可能なことと考えられていました。ルネッサンス期の医者は、患者の静脈に他のヒトの血液を注入することについて「精神異常を含めたあらゆる病気の治療法になり得るのではないか」とまで考ていたそうです。

1600年代になると、数人の医者がこのアイデアを実践し始めます。例えばフランスのとある医者は、常軌を逸した狂人に対して子牛の血を注射したそうで、注射された人物はすぐに汗をかき、嘔吐し、煙突のすす色の尿を垂れ始めたとのこと。さらに他の輸血実験では男性が死亡したという例もあり、これらの失敗の影響からその後150年間に渡って輸血に対しての評判は非常に悪いものとなりました。

しかし、19世紀にもなると再び数人の医者が輸血実験を試みるようになり、イギリスのJames Blundellという人物もそんな医学者のうちのひとりでした。彼は当時の多くの医者と同様に、自身の女性患者が出産中に血液が足りなくなって死んでいくことに悩んでおり、1817年に患者のひとりが出血多量で死んでしまった際に「患者が輸血により救われたかもしれない」という考えを抑えることができなくなり、それ以降輸血について深く考えるようになります。そして、Blundell氏は過去の輸血実験が失敗した理由を「獣の血をヒトに輸血したからである」と確信し、異なる種類の動物の間で血を輸血するべきではないという結論を下しました。この結論から、Blundell氏は「ヒトに輸血する際はヒトの血液を使用するべき」という今となっては至極まっとうな考えに行き着くわけですが、それまでは誰もヒトの血をヒトに輸血しようとはしてこなかったそうです。

By Otis Historical Archives National Museum of Health and Medicine

Blundell氏は漏斗と注射器とチューブを使って血液提供者から血を必要としている患者に輸血するための装置を作成し、この装置を犬でテストしたのちに、失血死寸前の患者に数人のドナーから提供してもらった14オンス(約400グラム)の血液を輸血します。輸血後、失血死寸前だった患者はBlundell氏に「意識ははっきりしている」と言ったものの、輸血から2日後に死んでしまいました。しかし、この経験はBlundell氏に「輸血が医学に大きな利益をもたらすものになり得る」と考えさせるには十分だったようで、彼はその後数年にかけて瀕死の患者に対して輸血を続け、輸血を行った10人のうち4人の患者を救うことに成功したそうです。

Blundell氏がヒトからヒトへの輸血を成功させた後、ヒトからヒトへの輸血実験は多くの医者の間で行われるようになります。しかし、その成功率は決して高いものではなく、成功率をあげるために多種多様なアプローチが試みられ、1870年代には血の代わりに牛乳を体内に輸液するという実験も行われましたが、当然ながら全く成果がなくむしろかなり危険な実験であることが判明しました。

By Stéfan

「ヒトに輸血する際はヒトの血液を使用するべき」という考えは正しかったわけですが、Blundell氏や当時の医学者たちは血液に関する重要な要素である「血液型」という概念をまったくもって知らなかったため、数人の患者を死に至らしめることになったであろうことは容易に想像できます。19世紀前半に行われた輸血実験の多くが失敗に終わった理由のひとつは「複数のヒトから採取した血をまとめて使ったこと」です。

1800年代後半、医学者たちは複数のヒトから採取した血液を混ぜて試験管に入れた際に、血液が固まってしまうことに気づきました。しかし、血液の大半は病気の患者から採血されたものであったので、医学者たちはこの現象は何かしらの病に関連するものだろうと決めつけ詳しく調査しようとせず、この血液凝固現象について詳しく調べようとしたのが「血液型」という概念を発見したカール・ラントシュタイナー博士だったわけです。

ラントシュタイナー博士は健康な血液同士でも度々血液が固まることを発見し、自分を含む研究所にいたメンバーの血液を集めて血液が固まるパターンをマッピングしました。そして血液を赤血球と血漿に分け、それぞれの液体を混ぜる実験を行い、異なる血液を混ぜると固まる現象が特定の液体同士の間で起きることを発見します。この発見からラントシュタイナー博士は血液を3つのグループに分けて「A」「B」「C」と名前を付け、これが現在のA型・B型・O型という血液型の分類になるわけです。さらに、ラントシュタイナー博士の実験から数年後には「AB」という新しいグループが発見され、これによりABO式血液型に当てはまる4種類の血液型すべてが発見されることとなりました。そして、20世紀中盤にはアメリカの研究者であるPhilip Levine氏によって、新しい血液型分類法であるRh式血液型のもととなるRh因子が発見され、A+(エープラス)やAー(エーマイナス)といった血液型の分類まで誕生することとなります。

By Ken Lee

血液が固まる現象は輸血時に起きると非常に危険で、体内で血液が固まれば体内の血液循環が中断されてしまい、体中に酸素が回らなくなり息苦しくなってやがて死んでしまいます。しかし、ラントシュタイナー博士は、実験を通して「A型血液の血漿を他のA型のヒトの血液中の赤血球と混ぜても液体のままであり、B型の血液で同じ実験をしても同じく液体のままであったのに、A型血液中の血漿をB型血液中の赤血球と混ぜると液体は固まってしまい、血漿と赤血球を入れ替えてもこれは同様に固まる」ということと、「O型の血液はA型やB型の血液とは異なり、A型もしくはB型の赤血球とO型の血漿は固まるものの、A型もしくはB型の血漿とO型の赤血球は固まらない」ということに気づきます。ラントシュタイナー博士は「血液型により何が異なるのか」までは正確には知りませんでしたが、実験からA型のヒトの場合はA型もしくはO型の血液を輸血すれば、体内で血が固まることがないことを理解し、輸血時のリスクを大きく抑えることに成功したわけです。

「血液型により何が異なるのか」は、科学者たちの調査により既に判明しています。各血液型の違いは赤血球に現れており、その違いというのは赤血球がそれぞれ異なる分子で表面を覆われている、というものです。例えばA型の赤血球は表面に2層の分子膜があり、1層目はH抗原、2層目はA抗原と呼ばれます。B型の場合はこの2層目がA型の赤血球とは異なる形をしたB抗原で、O型の場合は赤血球の表面に1つの層しかなくこにはH抗原しか存在しません。

ヒトの免疫系は血液型と深いつながりがあり、もしも異なる血液型の血を輸血されたならば、体内の免疫系は輸血された血に反応して猛烈に攻撃を始めます。この原則に沿わないのはO型の血液のみで、O型の血液中にはH抗原しか存在せず、このH抗原はA型やB型の体内にも存在するのでO型の血液はA型やB型に輸血しても安全、というわけです。そして、これらの理由からO型の血液は非常に貴重な血液として重宝されています。

By Polygon Medical Animation

◆血液型別の食事法はホント?ウソ?
1996年、自然療法医のPeter D'Adamo氏は「Eat Right 4 Your Type」という本を出版しました。この本は、ヒトは進化の系統を示す血液型ごとに異なる食事をすべきであるという内容のもので、D'Adamo氏は「血液型がヒトの進化の重要な転機に生じるもの」と主張しています。D'Adamo氏によれば、O型はアフリカの採集狩猟民族を、A型は農耕民族を、B型は1万年から1万5000年前のヒマラヤ山脈の高地で生活していた民族をそれぞれ先祖に持つとのこと。そして、AB型は現代になってA型とB型が交わることで誕生したものであると主張しています。

これらの推測から、D'Adamo氏は自身の著書の中でそれぞれの血液型が食べるべき食事を提案しており、例えばA型は菜食主義者であるべきだとか、O型は古代のハンターの血を継いでいるので肉をたくさん食べて穀物や乳製品は避けるべき、としています。D'Adamo氏の本によると、それぞれの血液型のヒトに適していない食べ物を摂取していると何かしらの病気を引き起こすことになるそうです。

D'Adamo氏の本は世界中で700万部も売れた大ベストセラーで、世界中の60カ国の言語に翻訳されており、日本でも「ダダモ博士の血液型健康ダイエット」として販売されています。

Amazon.co.jp: ダダモ博士の血液型健康ダイエット (集英社文庫): ピーター・J. ダダモ, Peter J. D’Adamo, 濱田 陽子: 本


本によると、D'Adamo氏は8年間がん患者に自身の考案した血液型別の食事法にのっとった食事を心がけてもらったそうですが、本が出版されてから18年が経過した現在もこの実験の結果は公表されていません。また、ベルギー赤十字の研究者が血液型に基づいた食事法の利点を文献を使って調査してみたそうですが、血液型と食事方法の間に明確な関係性を見いだすことはできなかったそうで、「血液型別の健康的な食事法を裏付けるような証拠はありません」とコメントしています。さらに、トロント大学で栄養学の教授を務め、食品機能学のエキスパートとしても知られるAhmed El-Sohemy氏は、「血液型別でダイエットに適した食事はない」と述べています。

ただし、D'Adamo氏は現在も自身考案の血液型別の食事法が科学的に正しいと主張しています。

◆血液型の起源はどこにあるのか?

By Chris Devers

血液型別の食事法が人気を博したのは、これが血液型別にその起源を示しているからです。しかし、D'Adamo氏の設定した血液型ごとの出身地は、科学者が集めたヒトの進化の過程に関する事実とはほとんど一致していません。

ラントシュタイナー博士が1900年にヒトの血液型を発見した後、他の科学者たちは動物の血液はどのようなタイプに分類できるのかと実験を繰り返しました。これにより、いくつかの霊長類動物種の血液型はヒトの血液と混ざっても固まらないことが判明しています。例えば、猿の血はヒトのA型の血と混ぜても固まらないわけですが、これは必ずしもA型のヒトが猿の「A」遺伝子を受け継いでいるというわけではありません。

1990年代になり、科学者は分子生物学を使って血液型について調査を始めますが、そのなかで「ABO遺伝子」と呼ばれるものを発見します。例えばA型の場合、血漿中にB抗原に対する抗体を形成するABO遺伝子を持っており、B型の場合はA抗原に対する抗体を形成するABO遺伝子を保持、そしてO型の血液はA抗原やB抗原を構成する酵素を作り出すことを防ぐABO遺伝子を持っています。

By opensource.com

ヒトのABO遺伝子を他の動物のものと比較する研究も進められており、フランス国立科学研究センターのLaure Segurel氏は霊長類のABO遺伝子に関する大がかりな調査を実施し、テナガザルとヒトは両方がA型とB型の血液型を持っており、これは2000万年前に生きていた共通の先祖からきた特徴であることを発見しています。血液型の起源はもっと古いかもしれませんが、科学者はまだすべての霊長類の遺伝子を分析しているわけではないので、血液型がどれくらい古くから存在するものなのか知ることは非常に難しいことです。しかし、現在分かっていることからだけでも、血液型の起源が遠い昔であることは分かります。

さらに、いくつかの種族では特定の血液型が存在しないことも判明しており、テナガザルがA型とB型の血液型を持っているように、チンパンジーはA型とO型の血液型を持っており、ゴリラが持つ血液型はB型のみです。これらの事実は、D'Adamo氏の「O型の先祖はアフリカの採集狩猟民族で、A型の先祖は農耕民族、B型の先祖は1万年から1万5000年前のヒマラヤ山脈の高地で生活していた民族」という仮説をぶち壊し、ヒトの先祖はサルであったということをよく示してくれます。

◆まだまだ未知な血液型

By Stefano Bertolotti

ヒトがまだまだ血液型に関して無知であることは、1952年にムンバイで明るみになっています。1952年、ムンバイにてとある医学者がA型にもB型にもO型にもAB型にも当てはまらない血液の患者を発見し、この血液の赤血球にはA抗原・B抗原・H抗原がないことも明らかにしました。この血液型は最初に発見された土地の名前からボンベイ型と呼ばれ、100万人に1人の割合で存在するという稀血のひとつとしても知られます。科学者によるとボンベイ型だからといって何かしらの害があるというわけではないようですが、ボンベイ型に輸血するにはボンベイ型の血液が必要なので、輸血用の血液を準備するのが非常に大変、とのことです。

By David Oliver

また、血液型と疾病の関係性について研究を進める研究者も存在します。最初に血液型と疾病の関連性に気づいたのは20世紀中盤のことで、ウェストミンスター大学のPamela Greenwell氏によれば、「血液型と伝染病の間には既に多くの関連性が見つかっており、がんやその他の疾病との間にもいくつかの関連性がみられる」とのことです。

Greenwell氏によれば、血液型A+のヒトは、膵臓がんや白血病、天然痘、心臓病、重度のマラリアなどにかかりやすく、O型ならば潰瘍とアキレス腱断裂に弱いそうです。その他の血液型のヒトにもそれぞれ何かしらの疾病に強い弱いといった特徴があるようですが、血液型と疾病のつながり自体は見えているものの、「どういうわけで血液型と疾病に関連性が生じているのか」までは不明なままです。

さらに、血液とは全く関係のない血液型と疾病の間のつながりも存在します。例えば猛烈な嘔吐と下痢を引き起こすノロウイルスは、血球に害されることなく腸の細胞まで侵入してくるウイルスです。血液型の種類を決める血球が働かないにも関わらず、ノロウイルスの感染率は血液型ごとに異なっています。この謎は血球が血液型抗原を生成するただひとつの細胞ではないということを示す重大な発見につながり、血液型抗原は血管壁や気道、皮膚、毛髪からも生成され、さらには唾液にも血液型抗原が含まれる、ということが判明しました。

By Murtada al Mousawy

血液型に関するさまざまな調査を行ったのは著名なサイエンス・ライターであるCarl Zimmer氏で、彼が調査前に認識していたことといえば、「もしも病院に運び込まれて輸血の必要がある場合、お医者さんは患者の血液型に適した血液を輸血する必要がある」ということぐらいだったそうです。Zimmer氏は、「血液型について多くのことを知ってもどういうわけか謎めいたもののままであった」と述べており、カリフォルニア大学サンディエゴ校の生物学者であるAjit Varki氏も、「血液型が発見されて100年以上が経過しているにも関わらず、我々は血液型が何のためにあるものなのかを正確には知りません」と語っています。

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in サイエンス, Posted by logu_ii