ソーラーパネルの周囲にミツバチなどの生息地を作る試みにはどんなメリットがあるのか?
近年では再生可能エネルギーの発電コストが化石燃料を上回るほど低コストになっていることもあり、さまざまな場所でソーラーパネルの設置が実施・検討されています。そんな太陽光発電を行う土地に「花粉を媒介するミツバチなどの生息域」を作る試みについて、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校やアイオワ州立大学の昆虫学者らが考察しています。
Can Solar Energy Fuel Pollinator Conservation? | Environmental Entomology | Oxford Academic
https://academic.oup.com/ee/advance-article/doi/10.1093/ee/nvab041/6291416
Solar Energy and Pollinator Conservation: A Win-Win Combination With Real Impact?
https://scitechdaily.com/solar-energy-and-pollinator-conservation-a-win-win-combination-with-real-impact/
Solar farms could double as pollinator food supplies | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2021/06/bees-and-solar-panels-could-get-along-well-but-we-need-to-know-more/
作物の受粉にミツバチなどの送粉者(花粉媒介者)が果たす役割は非常に大きく、アメリカでは100種以上の作物が花粉を媒介する手段を動物に依存しています。ところが、生息域の減少や気候変動の影響で生態系が崩れた結果、ミツバチなどの個体数が大幅に減っていることが指摘されています。
既知のミツバチの4分の1は1990年から生存が確認されていない - GIGAZINE
そこで近年、ソーラーパネルを設置する土地を有効活用する手段として注目されているのが、「ソーラーパネルの周囲にミツバチなどの花粉を媒介する昆虫が生息できる環境を作る」というものです。
実際にイリノイ州・バーモント州・メリーランド州・ミシガン州・ミネソタ州・ミズーリ州・ニューヨーク州・サウスカロライナ州では、太陽光発電施設の開発と共に花粉媒介者の生息域を作ることを促進する法律が制定されています。中でも導入が早かったイリノイ州では、花粉媒介者に優しい太陽光発電施設を開発するため、「植物の多様性を作る」「施設の周囲に以前から生息する植物を植える」といった基準も作られています。
イリノイ大学の昆虫学者であるAdam Dolezal助教らのチームは、こうした太陽光発電施設と花粉媒介者の生息域を組み合わせる取り組みについて検討を行いました。Dolezal氏は、「このような施設で花粉媒介者の生息域を設置することは、ある意味では当然のように思えます。しかし、これらの利益を得るために最も効率的な方法を見つけ出すことは、私たちにとって非常に有益なことだと考えます」とコメントしています。
ソーラーパネルの付近に多様な植物を植えることは、周囲の生態系にプラスの影響を与え、花粉媒介者が増加して周辺の畑や果樹園にメリットをもたらすと考えられています。また、環境問題への取り組みは太陽光発電施設を建設する企業のPRになるほか、ソーラーパネルが並ぶ景観に対する周辺住民の反感を軽減することも期待されているとのこと。実用的な面からも、ソーラーパネルの周囲に植物が生えることで付近の温度が下がり、ソーラーパネルの発電効率が向上する可能性があります。
ところがDolezal氏は、これらの期待が実現可能だと考えるのは時期尚早であり、実際にはさまざまな困難があると指摘。たとえば、ソーラーパネルは地面から18インチ(約46cm)しか離れていないため、背丈が高い植物を植えるとソーラーパネルを覆い尽くしてしまい、結果として発電効率が落ちてしまう危険があります。また、在来種の植物を使った多様性のある生息域を作ったとしても、その後も環境を維持することには多額のコストがかかるため、太陽光発電施設が広くなるほど開発側の負担が増すとDolezal氏は指摘。
Dolezal氏らは、太陽光発電施設と花粉媒介者の生息域を組み合わせる際には、詳細なメンテナンスや栽培の計画、目的の明確化、そして地域社会の協力が必要だと主張しているほか、実際にシステムが機能しているのかどうかを地域ごとにチェックするべきだと訴えています。それでも、全体的に見れば太陽光発電施設の周囲に自然を導入することはメリットがあるとのことで、将来的に太陽光発電施設に付属した自然が相当な貢献を果たす可能性もあるとみられています。Dolezal氏は今後、アメリカエネルギー省の資金提供を受けて、実際の太陽光発電施設で実地調査を行う予定だそうです。
シカゴ植物園の保全科学者であるPaul CaraDonna氏は、ソーラーパネルと花粉媒介者の生息域を組み合わせる取り組みについて、特に農業が盛んな地域では素晴らしいアイデアだと主張。その一方で、自然を切り開いてソーラーパネルを設置すれば結局は生態系に悪影響を及ぼす懸念があるほか、多様な在来種が生息する環境を作ると共に、「開花スケジュールの重なった植物ばかりを集めてしまい、植物の花が咲かない時期が生まれてしまう」といった状況を回避することも必要だと述べました。
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