サイエンス

「新型コロナウイルス人工説」を正式に議論すべきとの声が挙がっている


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが発生してから1年半が経過しましたが、COVID-19を引き起こすウイルスである新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)がどこから来たのか、正確には分かっていません。これまでのところ、ウイルスはコウモリから人間に感染したという説が有力ですが、一部の科学者からは「SARS-CoV-2は研究所で人工的に作られたのではないか?」という説について、議論を正式に行わなければならないとの声が挙がっています。

Covid-19: why the lab leak theory must be formally investigated
https://theconversation.com/covid-19-why-the-lab-leak-theory-must-be-formally-investigated-161297

Intelligence on Sick Staff at Wuhan Lab Fuels Debate on Covid-19 Origin - WSJ
https://www.wsj.com/articles/intelligence-on-sick-staff-at-wuhan-lab-fuels-debate-on-covid-19-origin-11621796228

2021年5月23日にウォール・ストリート・ジャーナルが伝えたところによると、これまで非公開とされてきた報告書がアメリカの国務省により公開され、中国武漢市にあるウイルス研究所の研究員3人が、2019年11月に「COVID-19と同一の症状」と「一般的な季節性疾患」を訴えていたと分かったとのこと。これは感染拡大が報告される以前の出来事であり、「ウイルスの発生源はやはり研究所ではないのか」という声が一部から挙がっています。


フランス国立科学研究センターのヴァージニー・ブローカー氏と、エクス=マルセイユ大学のエティエンヌ・ドクロリー氏は「決定的な証拠がない中で、陰謀論を助長することなく、真剣な議論を行わなくてはならない」と述べ、新型コロナウイルスの「人獣共通感染症説」と「人工説」の2つの説を主張している事例をそれぞれ紹介しています。

◆人獣共通感染症説
SARS-CoV-2の起源について最初に問題提起されたのは、2020年2月19日付けで医学雑誌のランセットに掲載された論文だとのこと。コロラド州立大学などの科学者27人が署名したこの論文は、パンデミックの原因を特定し、結果を共有しようとする中国の科学者の努力に焦点を当て、「新型コロナウイルス人工説」を強く非難する内容になっています。ただ、著者らはSARS-CoV-2のゲノム配列について意見を述べたものの、人獣共通感染症説を支持する科学的な議論については詳しく述べていませんでした。

2020年3月、科学雑誌のNature Medicineに掲載された論文では、エディンバラ大学などの科学者5人が「コロナウイルスの発生は通常のメカニズムにのっとっている」「SARS-CoV-2のゲノム配列は他の既知のコロナウイルスとはかけ離れており、既存のウイルスから新しいウイルスを作り出すことはできない」「SARS-CoV-2のゲノム配列には遺伝子操作の痕跡はない」といった論説を展開しています。ただし、科学者が痕跡を残さずに相同組換えを行える方法も存在するため「遺伝子操作の痕跡はない」という説には疑問が残るとのこと。この論文の内容については、以下の記事にまとめられています。

「新型コロナウイルスは人為的に作られた」という陰謀論に科学者が反論 - GIGAZINE


また、人獣共通感染症説を証明するために行われた調査で、中国のさまざまな地域の30種・8万匹の動物から検出されたサンプルは全て陰性だったとのこと。ただし、これは人獣共通感染症説が否定されるというわけではないとブローカー氏らは忠告しています。

◆人工説
SARS-CoV-2が実験室で作られたものではないかと最初に問題提起したのは、おそらく原子力科学者会報(Bulletin of the Atomic Scientists)や、COVID-19調査組織のDRASTICではないかとブローカー氏らは述べています。また、人工説に関する最初の科学論文は、2020年11月にドクロリー氏を含むフランスのPSL研究大学などの研究チームにより提出されているほか、フレッド・ハッチンソンがん研究センターなどの科学者18人が署名した論文が、2021年5月14日に研究学術雑誌のサイエンスに掲載されているとのこと。

これらの組織による主張は「武漢の研究所がSARS-CoV-2に近いウイルスを取り扱っており、動物実験を行っていた」といったものが含まれ、直接的な遺伝子操作に加えて、動物の捕獲中や実験により進化したウイルスを取り扱った際、偶然感染してしまったというケースも考えられるとブローカー氏らは述べています。


いずれの説もはっきりとした証拠はなく、臆測止まりというのが現状です。2021年2月の調査で、中国と合同調査を行っていた世界保健機関(WHO)の調査チームは「武漢の研究所から新型コロナウイルスが流出した可能性は極めて考えにくい」と結論付けていますが、この調査の翌月、WHOのテドロス・アダノム事務局長は「全ての仮説は立証されておらず、さらなる研究が必要である」と述べています

ブローカー氏らは「起源がどうであれ、パンデミックの可能性があるウイルスの収集と実験、高度なセキュリティを要する研究所の、特に都市付近での増加は疑問視されるべきです。ウイルスを研究する施設には核エネルギーの研究に使用されるものと同等の厳しい安全システムが必要であり、新しい安全対策を国際的に導入すべきです。SARS-CoV-2に関しては、どんな欠陥が拡散につながったのかを知るために、その正確な起源を知る必要があります」と述べています。

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in サイエンス, Posted by log1p_kr

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