「チェルノブイリ原発事故で汚染された地域で栽培されたリンゴ」を原料にしたウォッカが当局に押収される


1986年に発生したチェルノブイリ原発事故では原発の周囲に大量の放射性物質がまき散らされ、広大な土地が放射能で汚染されました。そんな放射能で汚染された区域で栽培されたリンゴを原料にしたウォッカ「Atomik」が、出荷直前になってウクライナ当局に押収されてしまったと報じられています。

PRESS RELEASE 06 May 2021
https://www.atomikvodka.com/post/press-release-06-may-2021

First bottles of Chernobyl spirits seized by Ukrainian authorities | CTV News
https://www.ctvnews.ca/world/first-bottles-of-chernobyl-spirits-seized-by-ukrainian-authorities-1.5419780

Alcohol made from radioactive Chernobyl apples seized by Ukraine government | Live Science
https://www.livescience.com/chernobyl-atomik-alcohol-seized-ukraine-secret-services.html

事故によって放射性物質がまき散らされたチェルノブイリ原発の半径30km圏内は立入禁止区域に設定されており、人間が区域内に立ち入ることが厳しく制限されました。ところが、人間の立ち入りが規制されたことで事実上の自然保護区となって多くの野生動物が繁殖しているほか、近年では一部地域で人の立ち入りが許可され、チェルノブイリを訪れる観光客も増加しているとのこと。

そんな中、立入禁止区域の穀物に含まれる放射線について研究を行ってきたイギリスとウクライナの研究チームは、「チェルノブイリの立入禁止区域内で栽培された作物を使ったお酒を作る」というプロジェクトを立ちあげました。チームを率いるポーツマス大学のジム・スミス教授は、立入禁止区域の多くは安全に作物を栽培できるほど環境が回復しているものの、事故で負った経済的なダメージが深刻だったため、問題のプロジェクトを立ち上げたとしています。


2018年には、立ち入り禁止区域で作られたライ麦とチェルノブイリ原子力発電所跡地の南10kmで採取した水を使用して、「Atomik」と名付けられたウォッカを作ることに成功しました。使用した穀物にはウクライナの基準値を上回るストロンチウム90が含まれているものの、蒸留の過程でAtomikに含まれる放射性物質が消えるため、通常のウォッカと比較しても安全面に問題はなかったそうです。

チェルノブイリ原発事故による立ち入り禁止区域の穀物と水を100%使用したウォッカ「Atomik」が登場、一般販売も予定 - GIGAZINE


そしてスミス氏は、ウクライナ人の同僚と共に「The Chernobyl Spirit Company(チェルノブイリ・スピリット・カンパニー)」という企業を立ちあげ、ウクライナの蒸留所と協力してウォッカ作りに乗り出しました。2018年の実験生産では原料にライ麦を使っていましたが、その後は原料を立入禁止区域のすぐ近くに位置するナロジチ地区で栽培されたリンゴに変えてウォッカを作りました。ナロジチ地区は人間が住むことが許可されているものの、土地を農業などに使用することが制限されている区域であり、依然として経済的なダメージが深刻だそうです。

ところが、イギリスへ出荷するために製造された1500本のボトルが、蒸留所から出た時点でウクライナ当局に押収されてしまったとのこと。ボトルの押収はウクライナ保安庁の調査に基づいてキエフの検察官が行ったそうで、当局は「偽造されたウクライナの物品税印紙を使用した」と主張しているとのこと。これに対してスミス氏は、ボトルはイギリス市場向けに生産されたものである上に、本物のイギリスの物品税印紙も貼られているため、当局の主張は無意味だと反論しています。

チェルノブイリ・スピリット・カンパニーは、酒の販売で得た利益の75%をチェルノブイリで被害を受けた地域社会を支援するために使うとしています。事故直後に作業員としてチェルノブイリ原発で働いた過去を持ち、スミス氏と共にチェルノブイリ・スピリット・カンパニーを創業したGennady Laptev博士は、「この問題が解決され、チェルノブイリが地域社会や経済に与えた壊滅的な影響を受けた人々を支援する活動が継続できることを願っています」と述べました。

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in , Posted by log1h_ik

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