Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏が不倫スキャンダルを報じたタブロイド紙を打ち負かした方法とは?
2019年1月、アメリカのタブロイド紙であるナショナル・エンクワイアラーが、Amazonの創業者であるジェフ・ベゾス氏の不倫疑惑を報じました。個人的なテキストメッセージや写真が流出したこの事件で、ベゾスCEOがナショナル・エンクワイアラーとその発行元のアメリカン・メディア(AMI)と戦った経緯について、海外メディアのBloombergがまとめています。
How Jeff Bezos Beat the National Enquirer: Amazon Unbound Book Excerpt - Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/features/2021-05-05/how-jeff-bezos-beat-the-tabloids-the-untold-story-of-money-sex-and-power
ベゾス氏は長年にわたりAmazon創業者として活躍してきた一方で、自身の私生活は仕事とはっきり分けており、家族との生活についてはそれほど公にしていませんでした。1993年にベゾス氏と結婚したマッケンジー・S・タトル(結婚時はマッケンジー・ベゾス)氏はあまり社交的な性格ではなく、派手な社交界からは距離を置いていたとのこと。
やがてベゾス氏とマッケンジー氏は別居生活を送るようになり、ベゾス氏は2018年頃から新たな恋人であるローレン・サンチェス氏と付き合い始めました。ローレン氏はマッケンジー氏と対照的に活発で社交的なタイプであり、1990年代後半からテレビ局のレポーターとして活躍し、映画「ファイト・クラブ」にレポーター役として出演したこともある人物です。
そんなローレン氏はブラック・オプス・アビエーションという空中撮影・映像制作会社を立ち上げており、2018年にはベゾス氏が設立した民間宇宙企業・Blue Originのドキュメンタリームービーも制作していたとのこと。2018年4月、ローレン氏は兄のマイケル・サンチェス氏に「新しい恋人を紹介したい」と告げ、2人の友人が同席するウェスト・ハリウッドのレストランでベゾス氏を紹介しました。
当時はまだベゾス氏とマッケンジー氏が離婚していないため、ベゾス氏とローレン氏は不倫の状態でした。マイケル氏はベゾス氏に対し、地元のパパラッチがいるかもしれない状況で公然とローレン氏との仲を明かすことに警鐘を鳴らしましたが、ベゾス氏はこうした外部の忠告に耳を貸さなかったそうです。その後もベゾス氏はローレン氏との付き合いを続け、Amazon本社にある温室・スフィアのVIPツアーに連れて行ったり、Blue Originのロケット打ち上げに出席させたりしたとのこと。
by Ashlyn G
ベゾス氏がローレン氏との仲を深める一方、アメリカの老舗タブロイド紙であるナショナル・エンクワイアラーは部数の落ち込みに直面していたとのこと。また、AMIはデビッド・ペッカー会長の友人であるドナルド・トランプ氏を守るために情報を購入して握りつぶしたとして非難されており、連邦検察の捜査を受けていました。AMIは連邦検察と司法取引を交わし、情報提供者に対する口止め料の支払いを認めたほか、将来的に何らかの犯罪を犯した際には訴追対象になることも確認していました。
「Catch and kill問題」と呼ばれるこのAMIの不祥事を積極的に取り上げていたのが、ベゾス氏によって買収されたワシントン・ポストです。そこでAMIのディラン・ハワード最高コンテンツ責任者(CCO)は、記者たちに対して「ベゾス氏の私生活」を探るように指示を出したとのこと。
2018年9月、ベゾス氏の調査を始めたAMIのレポーターであるアンドレア・シンプソン氏の下に、ローレン氏の兄であるマイケル氏からメールが届きました。マイケル氏はシンプソン氏の役に立つ重要なスキャンダルの情報を持っていることをほのめかし、10万ドル(約1100万円)以上での買い取りを望んだとのこと。シンプソン氏は何度かスキャンダルを持つ人物について探ろうとしましたが、マイケル氏は他のメディアに売ることや買取価格の上昇を示唆したため、10月上旬に直接面会の場を設けました。そこでマイケル氏は顔を隠した状態の写真やテキストメッセージをシンプソン氏に見せ、シンプソン氏は「これはベゾス氏かもしれない」と考えたそうです。
最終的にマイケル氏はスキャンダルの対象がベゾス氏であることを明かし、情報提供者の匿名性を可能な限り保護する契約を交わした上で、AMIは20万ドル(約2200万円)で情報を買い取りました。なお、マイケル氏はベゾス氏の不倫相手が妹のローレン氏であることを明かしていませんでしたが、ベゾス氏の動向を追ったナショナル・エンクワイアラーの記者はすぐに相手がローレン氏であることに気付いたとのこと。
その後もテキストメッセージや写真をAMIに送信するなどの協力を行ったマイケル氏は、ベゾス氏とローレン氏は公然と関係を持っており、世界中に不倫関係がバレるのは時間の問題だったとして、自分は妹を裏切ったのではないと主張しています。「私が行った全てのことはジェフ、ローレン、そして私の家族を守りました」「私は誰も売っていません」とマイケル氏は述べています。
ベゾス氏のスキャンダルを公にするタイミングをうかがっていたAMIは、2019年1月7日にベゾス氏とローレン氏宛てに「あなたの恋愛についてのインタビューを要求します」という書き出しから始まるメールを送信しました。これに反応して、兄のマイケル氏が情報提供者だと知らなかったローレン氏は、ナショナル・エンクワイアラーの記者に接触して相手が持っている情報を探ることをマイケル氏に依頼したとのこと。マイケル氏はこの依頼を月額2万5000ドル(約270万円)で引き受け、すでにお互いの事情を知り尽くしているハワード氏に連絡したそうです。
一方でベゾス氏は、1月9日にAmazonのPR部門に対して「マッケンジー氏との夫婦生活の破綻」について報告するように指示し、自身の公式Twitterアカウントでマッケンジー氏と離婚することを発表しました。
— Jeff Bezos (@JeffBezos) January 9, 2019
ベゾス氏に先手を打たれたAMIは、9日の夕方にオンラインでベゾス氏のスキャンダルについて公開し、すぐさま11ページの号外を販売。そして、その後5日間でベゾス氏とローレン氏に関するプライベートなテキストを含む情報を公開しました。数日後にマイケル氏が両者の停戦を仲介し、マイケル氏はAMIのハワード氏に宛てたメールでAMIの協力に対する感謝を表明。ハワード氏も、マイケル氏が口を開かなければ情報提供源であることは墓場まで持って行くと約束したとのこと。
ところが、この決着に満足しなかったベゾス氏は、セキュリティー担当顧問を務めるギャビン・デベッカー氏に情報源の調査を命じます。情報源の確認に動いたデベッカー氏はマイケル氏とのやり取りの中で疑問を覚え、リベラル系ニュースサイトのデイリー・ビーストに「デベッカー氏はマイケル氏が情報源の可能性が高いことを突き止めた」との記事を掲載させました。それと同時に、ナショナル・エンクワイアラーの報道はベゾス氏に対する政治的な報復である可能性をほのめかし、「トランプ大統領&ナショナル・エンクワイアラー対ベゾス氏&ワシントン・ポスト」の構図を浮かび上がらせたそうです。
この構図に関する明確な証拠はありませんでしたが、「トランプ大統領を支援するAMIが政治的報復でベゾス氏のスキャンダルを報じた」という疑惑は、司法取引で弱い立場にあるAMIにとって非常に危険なものだったとのこと。慌てたAMIはベゾス氏サイドとの交渉を始めましたが、その中でAMIが手元にある「ベゾス氏の写真」を交渉材料にしたタイミングで、ベゾス氏は「タブロイド紙から脅されている」と主張する声明を発表し、完全にAMIよりも優位に立つことに成功しました。
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by JD Lasica
さらにデベッカー氏は、ナショナル・エンクワイアラーの記者が情報を入手した方法が「サウジアラビア皇太子によるiPhoneのハッキング」ではないかと示唆する記事を発表し、政治的な報復とは関係ないと主張するAMIを追い詰めます。最終的にAMIは自らの潔白を証明するため、全ての情報源がマイケル氏であることを明らかにせざるを得ませんでした。
Bloombergはスキャンダルが報じられた際のベゾス氏の立ち回りについて、「ベゾス氏は懐疑的なメディアを避けて一般大衆に直接アピールを行い、その過程でわずかに事実を傷つけただけでした。数え切れないほどのライバルを打ち負かしたように、彼はAMIの弱点が何であるかを直感的に感知して外部から攻撃しました」と述べ、Amazonを成長させたものと同様の手腕が発揮されたと評しました。
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