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「新型コロナワクチン接種で集団免疫は達成できない」と専門家は考え方を変えつつある


日本でも各自治体で新型コロナウイルスワクチンの接種が始まっており、人口の一定以上の割合が免疫を獲得すると、感染者が出てもほかの人への感染が減って流行しなくなる「集団免疫」の達成が期待されています。しかし、一足早くワクチン接種が始まっているアメリカの日刊紙であるニューヨーク・タイムズが「アメリカではワクチン接種による集団免疫の達成が厳しいという見方が強まり、専門家は考え方を変えつつある」というコラムを発表しています。

Reaching ‘Herd Immunity’ Is Unlikely in the U.S., Experts Now Believe - The New York Times
https://www.nytimes.com/2021/05/03/health/covid-herd-immunity-vaccine.html

記事作成時点で、アメリカの成人の半数以上が少なくとも1回のワクチン接種を受けています。早い段階で集団免疫を実現するための閾値(いきち)は人口の約60~70%が免疫を獲得することであると推定されており、集団免疫の実現はかなり近いとみられています。


しかし、ニューヨーク・タイムズは、「毎日のワクチン接種率は低下しており、科学者や公衆衛生の専門家の間では、集団免疫の閾値(いきち)を達成できないという見方が広がっている」と述べており、「新型コロナウイルスは今後数年間アメリカで感染の拡大と縮小を繰り返し、今よりはずっと小規模で管理可能な脅威となる可能性が高い」と主張しています。

エモリー大学の進化生物学者であるRustom Antia氏は「新型コロナウイルスがなくなることはないでしょう。しかし、新型コロナウイルス感染症を確かに軽度なものにとどめるために、私たちはできる限りのことをしたいのです」と語りました。

専門家が「集団免疫で新型コロナウイルスに打ち勝つ」という考え方から、「小規模で管理可能な感染症にとどめる」という考え方に変化しつつあることは、公衆衛生当局にとっても新たな課題となっています。「集団免疫で新型コロナウイルスに打ち勝つ」という目標を達成できないという事実により、ワクチン接種に懐疑的な人たちが「目標を達成できないのに、なぜワクチン接種をする必要があるのか」と主張し、ワクチンへの疑いをより強くしてしまう可能性が高くなります。


ただし、専門家は「ワクチン接種はウイルスを制御可能な脅威に変えるための鍵であり続ける」と述べています。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)研究の権威でバイデン政権のCOVID-19対策チーム最高顧問でもあるアンソニー・ファウチ氏は「新型コロナウイルスによって皆が混乱しているため、集団免疫のレベルに達するまでは、どうあっても感染を減らすことはできないと考えていました。そのため、我々は古典的な意味で『集団免疫』という言葉を使うのをやめていました」と語りました。

また、ファウチ氏は「私が言いたいのは、『集団免疫』という言葉はちょっと忘れてくださいということです。十分な数の人々にちゃんとワクチンを接種すれば、新型コロナウイルス感染症は減少するでしょう」と述べています。

集団免疫の閾値の推定は、2020年上半期に流行した最初のウイルス株の感染力を基に行われています。しかし、記事作成時点ではさまざまな変異株の存在も報告されており、イギリスで確認された亜種は感染力がおよそ1.6倍になっているといわれています。そのため、閾値を計算しなおすと、少なくとも人口の80%が免疫を獲得しなければ集団免疫を獲得できないことが判明したと、ニューヨーク・タイムズは報告しています。


世論調査によれば、アメリカの人口の約30%はワクチン接種に消極的であることがわかっています。この数は少しずつ減っていくと見られていますが、それでも集団免疫を実現するためにはかなり厳しい数字です。

ハーバード大学の公衆衛生学部の疫学者であるマーク・リプシッチ氏は「集団免疫は国家全体の目標で語られることが多くありますが、病気の感染は局所的に発生するものです。例えば、アメリカ全体でワクチン接種率が90%だったとしても、一部の街で70%だった場合、その街では集団免疫は実現していないことになります」と述べています。

以下の地図は、アメリカでの将来的なワクチン接種率(推定)を地域ごとに表示したもの。色が濃いほどワクチン接種率が高いことが見込まれます。これを見ると、アメリカ東海岸海岸・ニューヨーク州周辺やアメリカ西海岸・カリフォルニア州周辺、ミネソタ州はワクチン接種率が80%以上になると推定される地域が多く存在しますが、アメリカ北部や南東部を見ると、ワクチン接種率が60%を切る地域も多くあります。


集団免疫の閾値を達成できない場合、最も重要なのはパンデミックの制限が緩和された後の入院率や死亡率に注目することだとニューヨーク・タイムズは述べています。つまり、高齢者や重症化リスクの高い人など、「最も脆弱な人々」へのワクチン接種に注力することであり、そうすることで新型コロナウイルスはインフルエンザのように季節性の感染症として管理可能なレベルに収まる可能性があるとニューヨーク・タイムズは主張しています。

フランスの国立科学研究センターの経済学者であるバリー・プラデルスキー氏は「新型コロナウイルス感染症の完全な根絶は、現段階では不可能だと考えています。しかし、地域コミュニティが注意深く検査と追跡を続けられれば、保健当局がウイルスの侵入を特定し、潜在的な感染拡大を即座に食い止めることができるかもしれません」と述べました。

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in メモ, Posted by log1i_yk

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