「貨物の津波が来る」と海上輸送会社が語る、太平洋で一体何が起きているのか?
2021年3月にコンテナ船「エバー・ギブン」がスエズ運河で座礁し、約6日間にわたり通航を遮断した事故は、パンデミックの影響により大きな打撃を受けていた海運産業の混乱に拍車をかけました。今後さらに激化するとみられる海運の乱れについて、貨物輸送に特化した情報サービス・American Shipperが報じています。
Flexport: Trans-Pacific deteriorating, brace for shipping ‘tsunami’ - FreightWaves
https://www.freightwaves.com/news/flexport-trans-pacific-deteriorating-brace-for-shipping-tsunami
American Shipperの取材を受けた物流会社・Flexportのグローバル・オーシャン担当ヴァイスプレジデントであるネリユス・ポスクス氏は、「5月の太平洋横断便はもう全て売り切れになりました。ある顧客は、5月中に急いで貨物を運輸しなければならないので、コンテナ1つ当たり1万5000ドル(約163万円)出すと言いましたが、我々はそれを断らざるを得ませんでした。事態はもう金額でどうにかなる問題ではなくなっているんです」と話し、運輸が窮迫している現状を「貨物の津波」と表現しました。
ポスクス氏によると、2021年1月の太平洋横断便は2019年同月比で10%増、2月は13.5%増、3月に至っては51%も増加しているとのこと。これは、太平洋を横断するコンテナ船の往来がパンデミック前の1.5倍になっていることを意味しています。貨物輸送量の伸びが小売業界の伸びを大きく上回っていることから、同氏はこの事態の原因は「在庫の補充」だと考えています。
またポスクス氏は、アジアでコンテナ船の空きを待つ予約数が日増しに積み上がっていることから、今後も貨物輸送の窮迫は悪化していくと見ており、「今年の後半になると、輸送価格は一段と高くなり、ものを運ぶのが困難な状況が続くでしょう。そして、中国が旧正月を迎える2022年の2月ごろにピークを迎えることになります」とコメントしています。
ポスクス氏が指摘したように、海運料金はすでに高止まりしている状態にあります。物流に関する契約データを収集している市場分析会社・Xenetaの発表によると、2021年におけるアジア・アメリカ西海岸間の契約料金は、2020年比で30~50%も高い水準で推移しているとのこと。しかし、ポスクス氏は「実際の上昇幅はXenetaの発表の2倍は高く、アジア・西海岸間では100%、アジア・東海岸間でも75%は固定価格が上昇しています。その上、ほぼ全ての契約料金にピーク・シーズン割増料金(PSS)が設定されています」と話しました。
2021年初頭の時点では、事態がこれほど悪化するとは思われていませんでした。なぜなら、パンデミックの影響によるコンテナ不足が落ち着きを見せ始めていたため、運輸にかかる割増料金が値下がりしつつあったからです。しかし、2021年3月に発生したエバー・ギブンの座礁事故で海運が停滞した結果、アジアのコンテナ不足が再燃しました。ポスクス氏は、アジアのコンテナ不足が収束するまでには、今後さらに4~6週間はかかると見ています。
ポスクス氏は、アジアからアメリカに向かう便の調達が難航している業者に対して、冷凍貨物を往路で運んだ帰りに冷凍機の電源を落として非冷凍貨物を積んで帰る「非稼働冷凍庫(Non Operating Reefer:NOR)」や、「LCL」と呼ばれる小口輸送、直行便ではなく経由便の乗り継ぎなどを使うことをアドバイス。「NORやLCL、コロンビア向けの便などを使った積換え、あるいはカナダなどに輸送してからの陸路などを使えば、コストはかさみますが少なくとも荷物は届きます。今後我々には、高度な柔軟性と独創的な対応が求められるでしょう」と話しました。
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