サイエンス

人間の脳が大きくなって進化したのは「小さくて素早い獲物を狩るため」という主張


人間の脳は260万年前から1万1700年前までの更新世の間に発達し、容積が増えたといわれています。そんな人間の脳の進化について、イスラエルのテルアビブ大学の研究チームが、人間の脳が大きくなって進化した理由は「より小さく素早い獲物を狩る必要があったから」だという新しい仮説を発表しました。

The evolution of the human trophic level during the Pleistocene - Ben‐Dor - - American Journal of Physical Anthropology - Wiley Online Library
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ajpa.24247


What fueled humans' big brains? Controversial paper proposes new hypothesis. | Live Science
https://www.livescience.com/human-brain-evolution-prey-size.html


テルアビブ大学考古学科のラン・バルカイ教授らの研究チームが立てた仮説は、「脳がより大きく発達した人類は、より小さな獲物を捕獲することに優れていたため、生存率が向上した」というもの。研究チームは、200万年前の時点では約650立方センチメートルだった人類の脳の容量が、食料生産革命が起こる直前のおよそ1万年前には約1300立方センチメートルにまで発達した理由も、この仮説で説明できるとしています。


バルカイ教授は「大きな餌の減少は、脳の拡大だけでなく、人間の生物学や文化における他の多くの変化に対する統一的な説明であると考えられており、我々は大きな餌の減少が脳の発達に対する優れた動機を提供すると主張しています」と述べています。

研究チームが唱えた仮説では、ホモ・ハビリスから始まり、ホモ・エレクトスを頂点とする人類の祖先は更新世の初期に肉食のエキスパートとして、アフリカに生息する最も大きくて動きが遅い動物を倒していたとしています。こうした大きな動物を餌とすることは、植物を採集したり小さな動物を追いかけ回したりするよりも少ない労力で、十分なカロリーや栄養を補給することを可能にしたと予想できます。

加えて研究チームは、人類は他の霊長類よりも脂肪の消化に優れており、胃酸や腸の構造などの人間の生理機能は、脂肪分の多い肉を食べるために適応した結果だと主張しています。

しかし、体重1000kgを超える巨大草食動物はおよそ460万年前からアフリカ全土で減少し始め、さらに体重350kgを超える大型草食動物もおよそ100万年前には減少していたと研究チームは述べています。大型草食動物が急速に減っていった理由は明らかではありませんが、研究チームは気候変動あるいは人間による狩りが原因ではないかと推測しています。


狩猟コストが低く脂肪分や栄養の多い肉をゲットできる巨大草食動物が減少したことで、人類は小型草食動物の狩猟を余儀なくされました。小動物の狩猟は大型動物の狩猟よりも複雑で困難であることから、人間の脳が大きく発達するように「進化上の圧力」がかかったと研究チームは唱えています。

研究チームは、実際に道具と生活様式の変化から、人類が大きな獲物から小さな獲物に移行したことが垣間見えると主張しています。


例えば、バルカイ教授は実際に人類が大型草食動物を狩猟していた証拠として、40万年~20万年前に絶滅したゾウの骨がホモ・エレクトスの居住地に散らばっていたことを報告しています。また、研究チームの一員で考古学者のミキ=ベンドール氏はさらに直近の人類の祖先が主にシカを食べていたようだと指摘しました。

バルカイ教授は、「狩猟生活上の需要に応じて人類の脳が急速に成長した」というたった1つの仮説によって、言語や複雑な社会構造、火の取り扱いなど、人類の祖先が更新世において大きく行動を変えたことをすべて説明できるとしています。

by Henry Gilbert and Kathey Schick

ただし、バルカイ教授らの仮説に対して異を唱える声も挙がっています。例えばスミソニアン協会の人類起源プログラムの責任者で古人類学者のリチャード・ポッツ氏は「この新しい仮説には多くの議論があります」と否定的な見解を示しています。

ポッツ氏によれば、初期の人類が巨大な草食動物を狩猟していたかどうかは記事作成時点では不明だとのこと。大型草食動物の骨に人間のつけた切り傷が見つかったことはあるものの、人間が巨大な草食動物を殺したり肉を採取したりしたかどうかはわからないとポッツ氏は述べています。

またポッツ氏は、「例えば、40万年前にヨーロッパに住んでいたネアンデルタール人は冬になると大型動物を餌にしていたと考えられていますが、100万年前の熱帯アフリカでは同じことが当てはまらないかもしれません」と述べています

ウィスコンシン大学マディソン校の古人類学者であるジョン・ホークス氏は「大型草食動物の減少メカニズムも、脳の容積拡大も、どちらも複雑な経緯をたどっており、両者の間に直接的な関係を描くことができるわけではありません」とコメントしましたが、一方で「更新世の間に人類が大型草食動物を狩った可能性があるという事実に注目しているのは重要なことです。人類史において、大型草食動物が果たした役割は今後ますます議論されることと思います」と語りました。

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in サイエンス, Posted by log1i_yk

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