イスラエルのサイバーセキュリティ産業は軍の秘密組織から成り立っている

中東和平問題でパレスチナと武力衝突を続けているイスラエルはアメリカに次ぐ規模のサイバーセキュリティ市場を抱えており、最先端のサイバーセキュリティ技術がイスラエルの重要な主要産業となっています。そんなイスラエルのサイバーセキュリティ業界について、IT系ニュースサイトのRest of Worldが解説しています。

Inside Israel’s lucrative — and secretive — cybersurveillance industry - Rest of World
https://restofworld.org/2021/inside-israels-lucrative-and-secretive-cybersurveillance-talent-pipeline/

イスラエルの保有するイスラエル国防軍(IDF)の諜報部隊組織である「8200部隊」は、アメリカの国家安全保障局(NSA)と同様に、テクノロジー業界の中にありながら徹底した秘密主義で知られています。

8200部隊に所属するためには、5年間のIDFへの在籍が義務付けられ、さらに厳格な選考過程をクリアしなければなりません。イスラエルはユダヤ教徒やイスラム教ドゥルーズ派の信者であれば男女問わず兵役義務が科されますが、それでも一般的な在籍期間は男性でおよそ32カ月、女性で24カ月なので、8200部隊に属するためにはかなり長い徴兵期間が求められることになります。

by ד"ר אבישי טייכר

8200部隊に在籍していた経歴を持つ人の多くがスタートアップを立ち上げ、成功しているとのこと。そのため、「8200部隊の在籍経歴」はテクノロジー業界の中で輝かしいブランドとなっています。

加えて、元8200部隊隊員のネットワークはイスラエル社会の中で大きな力を持っており、単なる同窓会だけではなく仕事の融通や投資も可能だとのこと。そのため、退役した後でもサイバーセキュリティ企業に拾われたり、サイバーセキュリティ関連の企業を立ち上げたりする者も多いそうです。

実際に2018年に行われた調査によれば、イスラエルにある700ものサイバーセキュリティ企業を設立した2300人のうちおよそ8割がIDF由来のサイバーセキュリティ技術を身に付けているとのこと。イスラエルのサイバー監視技術は世界的に人気が高く、イスラエルのサイバーセキュリティ業界の総売上は年間10億ドル(約1030億円)近くになるそうです

そんなイスラエルのサイバーセキュリティ業界で最も有名な企業の1つがNSOグループです。NSOのグループのCEOであるシャレフ・フリオ氏は8200部隊の在籍経歴はありませんが、NSOグループの社員には8200部隊に在籍した経歴を持つ者が多く、実際に使われている技術もIDF由来のものだとみられています。

NSOグループは自社の提供する監視ツールなどを海外諸国にも売り込んでおり、NSOの技術は世界中で使われています。これは、民間企業であるNSOグループのバックアップに、イスラエル国防省がついているからだといわれています。

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NSOグループは自社の活動を「テロや犯罪と戦うために役立つ技術を提供している」としていますが、Facebook傘下のメッセージアプリであるWhatsAppに攻撃を仕掛けたとして、2019年にWhatsAppから提訴されました。

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また、NSOグループが販売しているスマートフォン監視用ソフトウェア「Pegasus」はイスラエル国外にも販売されています。

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しかし、NSOグループが監視ツールを国外に販売していることについては、国内外から批判の声があがっています。サウジアラビア政府がジャーナリストであるジャマル・カショギ氏を暗殺した際には、カショギ氏のスマートフォンをハッキングするために使われていたといわれています。元USAの職員でNSAの機密情報を暴露したエドワード・スノーデン氏は、サウジアラビア政府がカショギ氏を監視するのを支援したとして、NSOグループを公に非難しました。

また、2014年には、「8200部隊はパレスチナ人に対する監視を行っており、この監視が紛争を悪化させている」と告発する文書が出回りました。この告発は多くの報道機関で取り扱われましたが、結局8200部隊が大きな批判を受けずに済んだのは、ひとえに8200部隊のブランド力が強かったからだとRest of Worldは指摘しています。

人権団体であるアムネスティ・インターナショナルは、「自分たちの組織や従業員がNSOグループのツールで監視されていた証拠を発見した」と主張し、「イスラエル国防省にNSOグループの技術を国外に輸出するのはやめるべきだ」と訴えました。