アプリ開発者が指摘する「App Storeの抱える問題点」とは？

iPhoneやiPad、Apple Watchといった端末では、基本的にAppleが運営する公式アプリストアのApp Store以外からアプリをインストールすることができません。そのため、プラットフォーム上で配信されているアプリに対してAppleがあまりに大きな裁量を持ちすぎているのでは、とも指摘されています。そんなApp Storeが抱える問題点を、Apple Watch向けのキーボードアプリである「FlickType」を開発したコスタ・エレフセリウー氏が、自身のTwitterアカウントで指摘しています。

Kosta Eleftheriouさん (@keleftheriou) / Twitter
https://twitter.com/keleftheriou

エレフセリウー氏は「App Storeには大きな問題があります。例えば、あなたが真面目な開発者として、アプリ内課金による収益を改善するために一生懸命に働いているとします。一方で、競合他社の間では年間200万ドル(約2億円)規模の詐欺的行為が横行しているという事実があります」と記し、App Storeでは真面目な開発者ほど損をしていると指摘しました。

エレフセリウー氏は過去数年にわたって懸命にApple Watch向けのキーボードアプリである「FlickType」を開発してきたそうです。エレフセリウー氏はFlickTypeについて、「世界で最高のApple Watch向けのキーボードアプリであると思っている」と述べています。FlickTypeを開発する上でエレフセリウー氏が最初に立てた目標は、「1：Apple Watch上で適度な速度で文字入力可能であること」と「2：登場するであろう競合他社に先んじてアプリをリリースすること」の2つでした。

「ひとつ目の目標を達成したことで、2020年にFlickTypeは有料アプリの中でもトップのものとなりました」とエレフセリウー氏は主張していますが、FlickTypeはもうひとつの目標であった「登場するであろう競合他社に先んじてリリースすること」を達成することができませんでした。そして、その理由は予想外のものだったそうです。

エレフセリウー氏は「ほんの数カ月前まで、私のアプリ開発状況は競合他社よりもはるかに進んでいました。競合他社がオートコレクトアルゴリズムの難しさに直面している段階で、私はすでにキーボードのスワイプ操作についての開発に取りかかっていました。この時点ですでにFlickTypeを用いたApple Watchでの文字入力は、iPhoneでのタイピング入力の速度に近づきつつありました」と語っています。

それではどのようにして競合他社がエレフセリウー氏よりも早くApple Watch向けのキーボードアプリをリリースすることに成功したのかというと、その手法は簡単で、「Apple Watch向けのキーボードアプリのようにみえるアプリ」をリリースするだけです。このアプリはキーボードとして正しく動作するものではありませんが、エレフセリウー氏が公開していたFlickTypeやプロモーションムービーを使用して、FacebookやInstagram上で「Apple Watch向けのキーボードアプリのようにみえるアプリ」を大々的に宣伝しました。

宣伝に釣られたユーザーが「Apple Watch向けのキーボードアプリのようにみえるアプリ」を起動すると、詳細な説明のない「Unlock now」と書かれたボタンが配置さるのみの画面が表示されます。このボタンをタップすると、年間416ドル(約4万4000円)という高額なサブスクリプション登録が求められるとのこと。

こういった詐欺的なアプリをユーザーが間違って使用することを防ぐために設けられているのが、アプリストアのレビュー欄です。アプリが正しく動作しない場合、レビューには低評価や「アプリが機能しない」といったコメントがあふれることとなり、ユーザーがインストールをあきらめるように促す役割を担います。

しかし、「Apple Watch向けのキーボードアプリのようにみえるアプリ」には星5の満点評価レビューが大量に投稿されており、レビュー欄が一切機能していなかったとエレフセリウー氏は指摘しています。

エレフセリウー氏はこのような虚偽のレビューが真面目に働くアプリ開発者を苦しめていると指摘。また、このようなウソのレビューを正すことは非常に困難であり、古くからApp Storeの抱える問題のひとつとして残り続けているとも指摘しています。

ウソのレビューの中には事実を書いたレビューも混ざっており、「詐欺だ。なんて怪しいビジネスだ。このアプリをインストールしたけど、全く機能しない。無料版はなく、毎週7.99ドル(約840円)も支払う羽目になるぞ」と書かれていたとのこと。なお、当然ですが評価は最低の星1だった模様。

App Storeにはこのような詐欺的なアプリが多く存在しており、多くの開発者を悩ませているとエレフセリウー氏は主張。こういった中身のないアプリを使い、詐欺師たちは疑いを持たないユーザーたちから毎日多くのお金を搾取しており、その原動力となっているのはウソを書いても削除されないまま残ってしまう「機能していないApp Storeのレビュー欄」にあるとエレフセリウー氏は指摘しているわけです。

こういった事実を踏まえ、「詐欺師たちはApp Storeのルールを破り、私のような普通の開発者では決して行えないような非倫理的な行動を取ることをいとわないため、私が彼らと競走することは不可能です」とエレフセリウー氏は記しています。

なお、エレフセリウー氏は詐欺師たちが作成した「Apple Watch向けのキーボードアプリのようにみえるアプリ」としてKeyWatchを挙げており、Textというアプリでも同じレビュー文言が使い回されているとして、詐欺アプリの可能性があると警告しています。

エレフセリウー氏は「どうかAppleよ、何とかしてください。私はもはや諦めかけています」と語り、個人のアプリ開発者の手には負えない問題であるとして、App Storeを運営するAppleによる抜本的な問題解決を求めています。