サイエンス

「発情期を終えるとメスが立派な男性器を持つ」というモグラの不思議な生態が解明される


絵本やアニメなどではかわいらしいキャラクターにデフォルメされることも多いモグラですが、現実では地下で激しい縄張り争いを繰り広げています。そんなモグラのメスは、発情期以外はオスのような体を持つことがわかっており、モグラのゲノムを解析した結果、性転換のメカニズムが解明されました。

The mole genome reveals regulatory rearrangements associated with adaptive intersexuality | Science
https://science.sciencemag.org/content/370/6513/208.abstract


Fierce female moles have male-like hormones and genitals. We now know how this happens.
https://theconversation.com/fierce-female-moles-have-male-like-hormones-and-genitals-we-now-know-how-this-happens-149174


モグラの種類によりますが、ほとんどの場合、メスのモグラはオスのモグラと同じ見た目をしていて、行動もオスと同じようになるとのこと。メスの性器は男性化し、陰核肥大が見られ、膣(ちつ)もほとんど形がありませんが、繁殖期になり交尾の季節になると、テストステロンの値が下がり、膣が形成され、交尾と出産を行います。

これまでどうやってモグラが性転換を行うのかは謎のままでした。しかし、モグラのゲノム配列が完全に決定されたことで、「生殖器官が発達して性ホルモンを調整する仕組み」に2つの遺伝子が関係していることがわかりました。

by Ninian Reid

大部分の哺乳類の場合、X染色体とY染色体という2種類の性染色体の組み合わせで性別が決定します。これは、Y染色体上に存在するY染色体性決定領域遺伝子(SRY)という遺伝子の働きによるものです。SRYは精巣を発現する遺伝子を活性化し、逆に卵巣を発現する遺伝子を不活性化することで、生殖器をオスのものにします。

同時に、精巣の中に含まれるライディッヒ細胞でテストステロンを作り出します。テストステロンは筋肉量を増やし、男性器の形成や攻撃性の増加など、目に見える性差を作り出します。一方、メスの場合は卵巣からエストロゲンというホルモンが作り出されます。

しかし、モグラのメスは一般的な哺乳類のメスと違い、体内で「卵巣と精巣の両方の組織を持つ生殖腺」が発育することが、1993年の研究でわかりました。

メスのモグラの卵巣組織は卵子を作り出し、繁殖期の間に大きくなり、繁殖期を終えると縮小していくとのこと。一方、精巣組織は精子を作ることはありませんが、テストステロンを作るライディッヒ細胞で満たされており、繁殖期以外では卵巣組織よりも大きくなるほど成長します。

モグラのメスはY染色体を持っておらず、SRYが発現しないにもかかわらず、なぜ精巣組織が形成されるのかはこれまでわかっていませんでした。しかし、モグラのゲノム解析の結果、FGF9(線維芽細胞成長因子)遺伝子の塩基配列に突然変異が認められたとのこと。

by SimonWhitaker

FGF9遺伝子は精巣の発生に不可欠な遺伝子である一方で、卵巣の発生を決定する遺伝子の発現を阻害するという役割も担います。一般的な哺乳類では、SRYがない限りFGF9遺伝子が発現することはありませんが、モグラのメスではSRYがなくてもFGF9が発現するため、精巣が発生します。さらに、モグラの塩基配列を見ると、ゲノム上でのFGF9にあたる部分のすぐ上流にあるDNA領域が変異によって反転していたこともわかりました。この変異によって、本来働くべき制御配列が失われてしまい、メスでもFGF9遺伝子が発現するというわけです。


また、ステロイド合成酵素の一種であるCYP17A1を発現する遺伝子にも変異が認められました。このCYP17A1は、テストステロンをはじめとする男性ホルモンを産生する鍵となる酵素で、モグラのメスのゲノムにはCYP17A1遺伝子の周囲に同じ配列をコピーした領域が2つ存在しているため、テストステロンの分泌量が増加するとみられています。そして、発情期になるとエストロゲンの濃度が上昇し、膣が形成され、交尾をして子どもを産めるようになります。

by Audrey

このゲノム配列の突然変異がモグラのメスがオス化する現象に関与しているかを示すため、ゲノム解析を行った研究チームは同じ配列をマウスに組み込む実験を行いました。すると、性転換とテストステロン濃度の上昇が実際に引き起こされていることが確認されました。

かつては性の発達はすべて卵巣や精巣から分泌される性ホルモンによって決定されると考えられていました。しかし、モグラのメスがオス化するメカニズムの発見は、性の発達が遺伝子の複雑な組み合わせに大きく左右されていることを示しました。また、モグラのメス化の研究は、人間の性発達の背景にもスイッチとなるような遺伝子が複雑に関与しあうネットワークが存在する可能性を示唆しています。

なお、モグラのほかにメスがオス化する哺乳類として、ハイエナがよく知られています。モグラのケースは原因となる遺伝子の突然変異が特定されましたが、ハイエナがどういうシステムでオス化しているのかは、記事作成時点でもよくわかっていないそうです。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1i_yk

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