サイエンス

精子の機能を弱める遺伝子が特定される、男性用ピルの開発に役立つか


望まない妊娠を防ぐなどの効果がある経口避妊薬は、これまでのところそのすべてが女性向けに作られており、男性向けの効果的な避妊薬はありません。新たにワシントン州立大学の研究者が遺伝子の数、形、動きに影響を与える遺伝子を特定したことにより、非ホルモン性の効果的な男性用避妊薬の開発に向けて活路が開けたと報告されています。

ARRDC5 expression is conserved in mammalian testes and required for normal sperm morphogenesis | Nature Communications
https://doi.org/10.1038/s41467-023-37735-y


New genetic target for male contraception identified – WSU Insider
https://news.wsu.edu/press-release/2023/04/17/new-genetic-target-for-male-contraception-identified/

女性向けの避妊方法としては経口避妊薬(ピル)や緊急避妊ピル(アフターピル)を服用するなどの選択肢がありますが、男性向けの方法としてはコンドームやパイプカットといった手段しかないのが現状です。


精子は男性の遺伝子を伝える細胞であり、哺乳類の細胞の中で唯一、体外でその機能を発揮するものです。正常に形成された精子は、べん毛による運動によって女性の生殖管を移動し、頭部と卵子細胞膜の融合によって卵子に受精します。

しかし、人によってはこうした一連の動きや状態に欠損が生じる場合があり、その症状によって「乏精子症(精子の数が少ない)」「精子無力症(運動する精子が少ない)」「奇形精子症(正常な精子が少ない)」などの状態になることが知られています。これらを総称したものは「OAT(Oligoasthenoteratospermia)」とも呼ばれていますが、OATの原因となり得るメカニズムは解明されていないそうです。


ワシントン州立大学のマリアナ・ジャセッティ氏らは、こうした症状の原因となり得る遺伝子発現を同定するべく生殖細胞の解析を実施しました。ジャセッティ氏らが、これまで科学文献で報告されていない候補遺伝子のリストを作成したところ、その中から「α-アレスチンタンパク質コード化遺伝子(Arrdc5)」が有力候補として浮上します。

ジャセッティ氏らがCRISPR-Cas9遺伝子編集を用いてArrdc5の遺伝子産物を産生しないマウスを作製したところ、Arrdc5が欠損したマウスの精子は通常時より量が28%減少し、動きは通常のマウスの2.8倍遅く、約98%の精子が頭部と中腹に異常があったとのこと。こうした状態から、当該マウスはOATが引き起こされていると判断されました。


この遺伝子は哺乳類全般に見られるものであるため、この知見はマウスだけでなく、人間や他の動物への応用も期待できると研究チームは述べています。ジャセッティ氏らは「この遺伝子が男性の体内で不活性化または阻害されると、卵子と受精できない精子を作ることになります。この遺伝子は男性用避妊薬開発の格好のターゲットとなります」と述べました。

既存の研究ではホルモン治療による精子抑制方法が追究されていますが、ホルモンの投与は骨量や筋力、赤血球の生成などに影響を与える可能性があるため、高いハードルがあるのが現状です。今回ジャセッティ氏らが同定したArrdc5をターゲットとして避妊薬を開発すれば、ホルモンの投与を行わない、より簡単な方法を提供できるようになる可能性があります。

また、人間だけでなく、家畜の繁殖をコントロールする方法として、去勢手術に代わる手段を開発できる可能性も示されました。


研究に携わったジョン・オートリー氏は「精子を作る能力を失わせるのではなく、作られた精子が正しく機能しないようにすればいいのです。理論的には、薬剤を除去すれば、精子は再び正常に作られるようになります。人口増加を抑制し、望まない妊娠を止める方法を開発することは、人類の未来にとって真に重要な目標です」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1p_kr

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